#27 因果 (2/5)
車中で
「実はあの後、イナホ達に内緒で研究所の敷地内にも、いくつか新しい盗聴器仕掛けておいたんだ。そしたらさっき、メイアさんと誰かが言い争ってる声が聞こえて、そのあと大勢が入っていく音が・・・。勘違いなら良いんだけど、嫌な予感がして。ツグミにも一応連絡しておいたけど・・・・」
携帯端末から漏れ聞こえる盗聴アプリの音は不穏だった。イナホは心配を募らせる。
「母さんたちの声!やっぱり様子が変だよ!」
「とにかく急ごう」
暫く走ると研究所が見えてきた。すると、荷台にいた悠が、運転席後ろの窓ガラスを叩き坤に話しかける。
「おい、運転手!中の状況が分からない以上、このまま突っ込まず離れた場所に止めろ。物陰からあの外壁を登って、まずは偵察だ」
言われた通り、少し離れた場所に停車した車。敷地裏手まで全員が駆け寄ると、
「私こういうの得意だから、登って見てくるよ」
そういうと軽々、外壁の隙間に手足を掛けながら登って行った。
上で目を凝らしていた香南芽が偵察を終え戻ると、
「た、大変!近衛隊同士で銃を向けたりして睨み合ってる!あの制服は間違いない!」
イナホの一番悪い予感は的中する。
「近衛隊同士!?そうだ・・・、母さんは内密に調査を進めてるって。それって、裏切り者が居るって事だったんだ・・・!」
悠は報告を聞いて、
「父上の率いる隊で、そんな不届き者達が居たとはな。しかし、銃を持っているのか・・・。俺たちの装備では分が悪いな」
イナホは考えを巡らせているようだった。
「私達でどうにか隙さえ作れれば、母さんの剣の腕なら、退路を拓けるかも」
悠が施設の角を見上げ、香南芽に、
「そうだな。あの投光器、あの明かりを消せれば、どうにかならないか?」
「結構な高さだし、四本あるのをバレずに同時に消すのは厳しいよ」
すると坤が、「それは任せて!」と申し出ると、トラックへ戻っていった。すると、荷台にかけてあった縄を、トラックの牽引フックに掛け、もう片方の端に石を縛り付けながら、
「これを施設へ延びる電線へ絡ませて、車で引っ張って切断する!」
それを聞き悠は残りの考えを伝える。
「なるほど、一帯ごと停電させる気か。では、俺達はこうだ。治安管理局が来たことを装い、騒ぎを起こし、中で混乱が起きたら電線を切断。暗闇に紛れて一気に潜入する。状況が状況だ、戦闘は出来るだけ避け、イナホの母親達の退路の確保に専念しよう。香南芽は再び外壁に上り、偵察と合図役を。後は白い死神の実力を信じるしかあるまい」
イナホは力強く頷くと、鞘を握り締める。
「うん、それでいこう。坤は丸腰だからここに残って」
「わかった。でもイナホ、あいつら銃持ってるって・・・、ホントに行くのか?・・・・ああ、そうだよな!じゃあ、停電の後は本物の治安管理局に来てもらえるよう何とかする」
悠が最終確認を取る。
「では準備はいいな?」
自身も少し緊張気味なイナホが、皆を気遣う。
「みんな、くれぐれも無理はしないでね」
「豊受さんもね?」
「うん、やろう!みんな!」
配置に着くと、イナホ達は同時に大声を上げた。
「こちらは治安管理局!この施設は包囲した!武装を解除し投降しなさい!繰り返す!」
坤が電線に向かい縄を投げると、上手く絡んだ。外壁の上から偵察していた香南芽は、中の人間が少し混乱するのを確認すると、坤に手で合図する。
坤がアクセルを踏み込むと、電線から青白い火花が散った。その直後、辺りが闇に包まれる。
予め目を閉じ、暗闇に目を慣らしておいた面々は、次々に潜入を開始した。
膠着状態に陥っていたメイア達は、突如暗闇に包まれた。するとメイアが、仲間に「伏せろ!」と指示する。その刹那、金属と肉を断つ鋭い音が、数秒の間に何度も響いた。
攻撃されたのに気づいた大隊長の部下達は、相手がよく見えないまま、闇雲に引き金を引くのだった。
その発砲の閃光で敵の位置を掴んだ仲間たちも、攻撃に転じた。すると大隊長が大声で射撃を静止させる。
「撃つのをやめろ!
駒島は思わずその場で頭を抱え、しゃがみ込んでいた。直後、施設内の補助電源に切り替わり、辺りが少しづつ照らされ始めると、大隊長の部下たちの多くは、メイアに銃ごと手や腕を切断され、痛みに藻掻き横たわっていた。
残りの裏切り者たちも隊員達により拘束されていた。
「小隊長も容赦ないですね・・・」
寝返った敵とはいえ、メイアの容赦ない攻撃を受けた者達を、少し気の毒に思う隊員達。だがメイアは、そんなことも聞かず、大隊長に刃を向けた。
「どうする?サシでやるか?」
後ろで見ていた隊員達が少し呆れ顔になる。
「ありゃ完全に頭に血が昇っちゃってるっすね」
「ですね・・・」
そんな中、駒島はコソコソと誰かに連絡を取る。
「拘束を解いて隔壁を開けなさい。全てです。いいですね?」
そこにイナホ達が駆けつけた。
「母さん無事!?」
驚きを隠せないメイアは、
「な、どうしてお前たちがここに?これは厄介な事になったな」
隊員の
「モモ!?モモまでどうしてここに?」
その声に気づいた百花も驚いた様子を見せた。
「
悠はそこで、メイアと刀を今にも交えようとしている男が、自分の父だと気づく。
「ま、まさか、父上?」
「悠か・・・。大丈夫、これからは何不自由なく思いのまま暮らせる。もっと高みを望めるぞ」
「何のことです?これはどういうことなんです!?一体何を言って・・・。まさか、父上もクバンダ事件に関わっているなんて事・・・」
「こうなった以上仕方がない。駒島さん、アレの準備は?」
「ええ、もう来ますよ」
その父の様子を見て愕然とし、士気を失った悠は、その場に膝をついてしまった。
イナホから聞いていた、クバンダ騒動に関わる事態を確信した仲間たちは刀を抜く。司と香南芽が大隊長に向かい説得を試す。
「大隊長、武器を置いてください」
「悠の前で、よくこんな事を」
それを見てメイアが声を荒げる。
「だめだ、お前達!その男から離れろ!」
その忠告もつかの間、大隊長は一番近くにいた司の刀を弾き飛ばし、その鋭利な切っ先を首筋へと当てた。
大隊長は司の首に刃を当てたまま片腕で拘束し、人質に取った。誰も手出し出来ない状況で、再び膠着状態に陥ると、施設内部から異様な地響きが伝わってきた。
その雰囲気を察した皆が警戒して間もなく、建物の壁が内側から勢いよく破られた。立ち上る埃と煙の中に、悍ましい巨大なシルエットだけが見える。大型のそれを取り巻くように、小型ではあるものの、攻撃性の高い種と思われるクバンダが数体、先行して煙から飛び出てきた。
不敵な笑みを浮かべる駒島は、
「子供達を守りながらなんて、殺すのが捗りますねえ。子供達には感謝です。くくっ」
大隊長は司の首元に刃を食い込ませ指図した。
「ガキ共もそっちへ行け。悠はそこで見ているといい」
悠は力なくうなだれながら、
「嘘だ・・・・、父上・・・・。父さん・・・」
言われるがまま第三小隊の方へと集まるイナホ達。駒島はさっきの口調とは打って変わり、別人のようだった。そんな彼は、メイアにわざと聞かせるように、
「S級と遊ぶのは初めてだろう?けひっ」
「S級だと!?」
「今までは不完全であったが、こいつは違う。俺の脳と完璧にリンクさせ、完全制御できるようになった、クバンダの最高傑作だ。けひっ、けひひ」
「やはり人為的に生み出されていたものだったか。なら、
「三月?ああ、あの女か。けひっ!あの女は知り過ぎていたからねぇ」
「くっ、私欲のためだけにっ・・・・」
「ふん、お前も要らぬ詮索をしなければ、ここで死ぬこともなかったでしょう。けひひっ」
制御下にある様子の、小型のクバンダ達に囲まれたイナホ達。駒島は更に自慢するように、メイアに向かい、
「生物由来の防刃防弾素材の開発を任されていたとき、偶然にも生まれたんだ。けひひ。俺は障壁細胞と呼んでいるが、クバンダが持つ、この独自の特性に可能性を感じた俺は、試しに森に放ってみた。そしたら思った以上に、人々どころかあの神でさえ怯え、これはいけると思った。けひっ。クバンダを相手にするためには強い兵士が必要だ。だからお前の破棄した研究が必要だった。けけ。脅威が消えなければ、強化兵士の需要も尽きない。それからはクバンダがもたらす利害関係に気づいた権力者や企業が裏で、見返りまで用意して俺に擦り寄り、ひれ伏すようになったよ。これからは人々を守れぬ神どもより、選ばれた人間がこの国を支配すべきなのだよ」
「良く喋る口だ。お前の最高傑作とやらを切り刻んだら、次はお前の番だ」
「けひっ。こいつは甘く見られたものだ。やはり、ビジネスをするには、秋津国は平和過ぎる」
そして、駒島が最高傑作と謳うそれが、崩れた壁の埃の中から、完全に巨体を覗かせた。
「けひひひっ。見覚えがないか?あの女の肉で、こいつはこんな立派に育ったぞぉ?」
かつて森の中での実地調査中の事。メイアの頭の中に、目の前で三月が殺された光景が蘇る。それを聞いた親子は怒りに震えた。
「この下衆がああああああー!!」
「よくも三月母さんをっ!!」
その怒りを皮切りに戦闘態勢に入る面々、メイアは子供たちに向かって片腕を広げ、
「どんな攻撃を仕掛けてくるかわからない!私たちより前へ出るなよ!いいな!そして逃げられるなら逃げろ!」
完全に腰の引けた百花の持つ刀が振るえていた。
「アタシたち、実戦すらまだなのに、あんなの無理だよう。こんな時に隊長もあんなだし、ツグツグだって居ないし!」
他の候補生達も同じ事を思っていただろう。泣きそうになる百花の前に、近衛隊員の背中が見える。
「伊和子姉ちゃん・・・?」
「可愛い妹一人守れないで、何が国を守るってな」
伊和子が怯える妹の壁になるよう、前に立ち刀を構えた。
その傍ら、イナホは母と共に、今まで劣等生だったとは思えないほどの雄姿溢れる覇気を見せる。
「私は逃げない!母さん達の背中は私が守る!」
それは彼女の様々な感情、沢山の守りたいものが、その場に奮い立たせているのだろう。
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