#28 因果 (3/5)
S級とされるクバンダが走り出すと、その上半身から延びる太い腕から繰り出された素早い打撃が、前線に立つ第三小隊を襲う。
後ろに飛び退き回避する隊員達。彼らの居た後には、地面の抉れた石畳。それを見るに、まともに当たればどうなるか、想像するに容易い。
メイアは怒りと同時に冷静さを保ちながら仲間達に、
「操っている本人が近くにいる以上、死笛蜘蛛のマイクロ波のような広範囲攻撃は使えないだろう。まずは回避に専念し好機を逃すな!」
「「了解!」」
歴戦の第三小隊でさえ、激しい攻撃を繰り出す初見の敵を前に、中々斬り込めずにいる。候補生たちは尚更、初の実戦で統率を失う中、敵との距離を保つのが、いや、その場に居ること自体がやっとのはずだろう。
イナホの刀が、一番に小型のクバンダを切り伏せた。それは、他の皆の怯える心も断ち斬ったようだった。慶介は、
「僕らがクバンダに勝てば、司君も救い出せる!特務隊の人達を信じて、僕たちに出来る事をしよう!」
候補生達は訓練通り、クバンダ達をスキャンしていく。そして、各個撃破に奮闘し始めた。
そんな中、一瞬の隙をメイアが捉えた。彼女の握る鞘から、刀が抜かれたその時、駒島が不敵に笑う。
宙を舞った一振りの刀が地面へと突き刺さる。それは、死神を冠するメイアの手を離れたものだった。
「なにっ!?」
クバンダに傷一つ負わせる事無く、放った一閃は弾かれ、思わず彼女は声を漏らした。敵の足元で、一瞬の隙を見せてしまったメイアに、蜘蛛の鋭い足が振りかざされる。
そこに駆け込む一人の影。間一髪、メイアをかばったのはイナホだった。二人は敵から素早く距離を取る。イナホの肩の服は破け、赤く滲み始める。
「イナホ!大丈夫か!?」
「掠っただけだよ、母さん」
それを見ていた駒島は高笑いを上げた。
「けひひひひ!惜しかったな。今の見たか?鬼窪。しかしあの娘、あの女に似てるなぁ。また俺の邪魔をするのかぁ?」
「遊んでないでさっさと殺せ、時間がないぞ!」
仲間達を殺すと言う父の姿を見て、悠は更に心を凍らせる。
隊員の
「小隊長!こいつ周波数がさっきと変化しています!」
「意図的に変えられるのか!?」
二人の会話を聞くと、
「だったら、操ってる奴をやってやる!」
斬りかかろうとするが、大隊長は司の首に更に刃を押し当て、タラリと流れ出る血を見せつけた。司は苦痛の表情を浮かべる。それでも大隊長の鬼窪は表情を変えることなく、
「おっと、このガキの首が飛ぶぞ?」
「けひひっ。さっさと俺の可愛いペットとのお遊びに戻れ!」
渡良瀬は歯を噛みしめ、
「くそっ!」
と刀を下げると、再びクバンダと対峙し始めた。
手も足も出せず、クバンダから繰り出され続ける攻撃。第三小隊の面々にも疲弊の色が見え始める。イナホ達には限界が近づいていた。
その時、クバンダの攻撃によって、大きな瓦礫が弾け飛んだ。その先には百花が。彼女は思わず身を縮め、目を瞑った。直後、鈍い音が聞こえた。
「もも・・・、皆さん、後は頼みま・・・・」
百花が目を開けると、自分をかばうように倒れる姉の姿。その背中から流れる血が地面に広がっていく。
「お姉・・・ちゃん?お姉ちゃん!!!」
メイアは回避を続けながら、
「
「了解っす。でも、くそっ!」
メイアの指示が飛ぶが、攻撃に阻まれ、菊原は中々たどり着けない。
大隊長の後ろで悠は立ち上がる。そして、俯いたまま刀をゆっくり抜くと、前を向いた。父親はまたも表情を変えなかった。
「悠、父親を切れるのか?お前の様な、まだ青っちょろい覚悟で何ができる?」
「こんなことのために、今まで父さんの背中を追ってきた訳じゃない!俺は覚悟を決めました。これが最後の通告です。今すぐ仲間を解放して下さい」
「いいか?悠。覚悟ってのはな・・・!」
そう言い、司を蹴り、膝まづかせるとその首に向かい刀を振り上げた。
「やめろっ!!」
悠の声が、戦闘の激しい音に混ざり木霊する。
少し離れた場所にある、研究所が見下ろせる山の中腹。夜の木々が生み出す闇の中、そこには停められた大型バイクと、二人の人影があった。
その一人は、大き目なハンドガンの様な物を構える。
「では、試運転といきます。・・・・スーパーストリング・パレイドリアクラフティングシステム、オンライン。召換、遠距離精密射撃モード。指定形態、VSDー56アンチマテリアルライフル。エネルギー変換、転送を確認・・・・」
銃は淡い光を帯び始め、
「既存形状からの結合分離を確認・・・・。再構成を開始。・・・・必ず助けます、皆さん」
「ほっほ」
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