第六章 因果

#26 因果 (1/5)

 特務隊第三小隊では、イナホ達が集めた盗聴記録と独自の調査結果を元に、大山バイオテックの上級研究員が黒幕であることを掴んでいた。しかし、正式な手続きでの立ち入り調査をするには、今一つ証拠が足りなかった。

 これ以上彼らを泳がせるのは、証拠隠滅と事態の悪化があると見込んだメイアとその仲間達は、独自で作戦を決行するのだった。出発前の詰め所でメイアが仲間たちに、

 「これはある意味賭けだ。失敗すれば職を失うどころでは済まないだろう。お前達、それでもついてきてくれるか?」

 すると隊員達は口々に、

 「当然でしょう。何度同じこと言わせるんですか」

 「これ以上奴らに好き勝手させるわけにはいきません」

 「しかし正面から突っ込むなんて、大胆すぎる計画っす!」

 「はは!俺らを消しに来ると踏んで乗り込むなんて、作戦と言えるんですかね」

 仲間たちの士気を見るや、不敵な笑みを浮かべるメイア。

 「時が来た、ということだ。ハチの巣を突くんだ、これくらいしないと奴らも必死になるまい。では、私は大隊長にしてくる。やまなし、表に車両をまわしておけ」

 「了解です!」


 メイアは自分のデスクに向かうと、本部の大隊長の元へと繋ぐ。

 「第三小隊の豊受メイアです」

 「どうした?」

 「大山バイオテックの敷地内で、クバンダの出現があったとの情報が入ってきたので報告を。被害は出ていないようなので、緊急性は低いものと思われますが、念のため第三小隊で状況確認に向かいます」

 「それなら治安管理局に任せたらどうだ?」

 「クバンダ対応は我々の責務でしょう?お気遣いは無用です」

と、半ば強引に通信を切った。



 第三小隊が大山バイオテックの研究所に着くと、数人の守衛が出てくる。隊員の一人が彼らに、

 「こちらでクバンダの目撃報告があった、立ち入らせてもらう」

 「え?そんなの聞いてませんよ?困ります!」

 守衛の一人が誰かに連絡している。それを横目にメイア達は強引に立ち入るのだった。それを阻もうとする守衛に、隊員達は圧を掛けた。

 「中型以下のクバンダなら施設内への侵入も考えられます。下がってください!」


 守衛達を振り払い、野外の広い庭と搬入スペースが一体となった敷地を抜ける。そして、建物内へと物言わさず入っていく一行。

 一部改装などはあるものの、メイアにとってはまだまだ覚えのある造りで、どんどん奥へ進んで行った。


 上級研究員などが使う区画に着くと、戸惑う研究員達には目もくれず、証拠になるようなものを漁り始める隊員達。メイアが更に指示を飛ばす。

 「八十根やそね、この区画のメインコンピューターのデータを引き抜いておけ。渡良瀬わたらせ舞村まいむらは、その辺の奴を尋問しておけ」

 「「了解」」

 二人は戸惑う研究員達を別室に連れていった。

 十分に時間をかけ証拠を捜索するが、何も出ず、仲間達も首を横に振る。尋問に向かった二人も戻ってきて、

 「奴の指示で、と言う者は居ますが、何かに怯えてる様でそれ以上は・・・。これ以上問い詰めようにも、さすがに拷問は問題ですからね」

 後ろ髪を引かれる思いで一行はその場を後にする。


 諦めて屋外に出てくると、一人の白衣姿の男がいた。メイアは彼を睨みながら憎しみの籠った声で、

 「駒島くしま・・・・」

 「おやおや、いつの間にか偉くなったものですね。八幡、いや今も豊受のままだったかな?小隊長殿」

 仲間たちは立ち止まったメイアを見て、

 「こいつが小隊長の言っていた?」

 「そうだ、駒島 英明ひであき・・・。私がここで勤めていた時の、元同僚だ」

 駒島はボサボサ頭を掻きながらニタっと笑う。

 「覚えていてくれたとは嬉しいですね」

 「お前、変わったな。まぁいい、探す手間が省けた。ハチの巣を突いた甲斐があったようだ。駒島!証拠は押収した。不出来な配下達で残念だったな」

 「は!どうせでまかせでしょう。職権乱用と不法侵入だけでは済まないですよ」


 すると、ぞろぞろと部下を引き連れた特務隊大隊長が現れた。

 「クバンダはどうだったかね?豊受小隊長」

 「白々しいな。クバンダが出たと報告したのに、部下共のその対人装備はなんだ?ふざけているのか?」

 「お前が何やら嗅ぎまわっているのは、薄々感づいていたが、まさかこんな強硬手段に出るとは予想外だった」

 大隊長がそう言うと、続けて駒島も嘲笑うように言い放つ。

 「ここで今お前らを消しても、今の俺にはいくらでももみ消せる力があるんですよ?さあ、選んでください。秋津国の反逆者として余生を送るか、ここで死ぬか」

 メイアは動じなかった。

 「は!おしゃべりめ。今のうち好きなだけ喋っておけ」

 少し悔しそうにする駒島とは違い、大隊長は表情を変えずに、

 「脅しだと思っているだろう?だが、お前たちを一連のクバンダ騒動の黒幕として、クバンダの死体と共に葬る手立ても整っている。お前達、奴らを取り囲め」

 十数人の部下たちは彼の指示に従い、メイア達の行く手を塞ぎ、銃口を向けた。メイアが刀に手をかける。

 「ここまで内部腐敗が進んでいたとは、大御神様に仕える者が聞いて呆れる」

 彼女はそう敵を捉えながら言うと、大隊長もその仕草に警戒しながら、

 「銃も装備してくるべきだったな、小隊長」


 第三小隊の面々は背中を合わせるように一歩下がった。メイアは厳しい表情を見せる仲間を見て、どう動くべきか、抜刀の構えをとりながら、

 (どうする・・・?この雑魚共が引き金を引く前に、半分ほどは私一人でも斬れるが、残りの奴らに銃撃を受ければ、部下達こいつらがただでは済まない。下手をすれば全滅だ・・・)

 不利な状況に陥り、身動きが取れなくなったメイア達。


 その頃、イナホ達を乗せた軽トラックは、夜道を猛スピードで駆けていた。

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