#25 夏が解かすもの (5/5)

 それから幾日が過ぎ、夏休みも後半に入り、イナホは一週間の近衛候補生の合宿に参加していた。一方でツグミは、特例により学校行事は休んでおり、御産器老翁むみきおじの工房で神器開発に集中するため、イナホ達とは暫し別行動をとっていた。


 クバンダを模した装置に悪戦苦闘する候補生達。そんな中、対クバンダ戦に力を入れた合宿内容にヘトヘトになりながらも硬い意志を抱き、いつも以上の頑張りを見せていたイナホ。仲間たちもその変化に驚いていた。


 学校に寝泊まりすること四日目の夜、班で今日の反省会をしていると、イナホの携帯端末にこんからの着信が入る。嫌な胸騒ぎがして通話に出ると、切羽詰まった様子で坤が切り出した。

 「メイアさんが危ない!例の研究所だ!俺もすぐ向かう」

 「ええ!?どういうことなの!?母さんが危ないって!?」

 その緊迫したやり取りを見た仲間たちが心配し声をかけるが、イナホは通話に集中している。坤は、

 「メイアさん達が取り囲まれているみたいなんだ!お前、近衛候補生の合宿中だったよな?もしかして戦える仲間がいるのか?それなら協力してもらえ。時間稼ぎくらいは出来るかもしれない」

 「時間稼ぎって・・・?よくわからないけど、皆にお願いしてみる」

 事態が把握出来ないまま、イナホは仲間に訴えかける。

 「ごめんみんな、聞いて欲しい。実は、私の母さんがクバンダに関する事件を密かに追ってて、何か悪い人達が絡んでるみたいなんだけど、それで今、大山バイオテックの研究所で危ない事態に陥ってるらしいんだ!危険かもしれないけど、母さんを助けるために、みんなの力を貸してもらえないかな!?」


 それを聞き、最初に切り出したのは慶介だった。

 「よく分からないけど、僕は協力するよ。だってこんな時の仲間だろう?」

 そう意思を示した彼の方を見ながら、司も少し心配そうに続く。

 「そうだね、僕も助けたい。でも教官には報告しなくていいのかな?」

 慶介は、

 「それだと規則がどうとかで足止めを食らうかもしれないよ?治安管理局も確証の取れない事には、そうそう動いてくれないだろうしね。僕らで状況を把握した方がいいと思うよ」

 そのやり取りを聞いた香南芽は、

 「よっし!そうゆう事なら、みんな行くよね!」

 斐瀬里も意志を示し、百花も、

 「当たり前っしょ!で、たいちょーは?」

 最後に悠が、

 「手を貸そう。お前の話が本当なら、名を挙げる良い機会だ。それにクバンダ絡みとあれば、こいつは使うだろう」

 悠は訓練用のレゾナンスブレードを軽く掲げ、

 「訓練用とはいえ、真剣だ。十分使える」

 そこに犬猿の仲である百花が乗る。

 「お、珍しく意見が合うじゃん。たいちょーさん」

 イナホはみんなの意志に少し恐縮してしまう。

 「校外での戦闘行為は処分ものだよ!?みんなほんとにいいの?」

 すると、香南芽がこちらに拳を突き立て、

 「こういう時のために、今までやってきたんじゃない。仮にでも人々と大御神様を守る、近衛隊なんだから!」

 斐瀬里もイナホの目を見た。

 「もしこのまま何もせず、良くない結果になって、豊受さんが悲しむ顔なんて見たくないよ?」

 その場の全員が頷くと、イナホは大きな感謝を示した。焦りを隠せないイナホの横で、百花は、

 「ところで、こんな時間に物騒な装備持って、どうやって研究所まで行く?この街の端と言っても、結構距離もあるじゃん?」

 その時、再び坤から連絡があり校門まで出てこいと言う。


 仲間たちと校門まで駆け出ると、見慣れた軽トラックが止まっていた。イナホは思わず、

 「あ、爺ちゃんのトラック!!」

 その窓から顔を出したのは坤だった。

 「イナホの爺ちゃんから借りてきた。緊急事態だ、細かい事はあと!みんな荷台に乗って!飛ばすから落ちないでよ!」

 イナホは助手席に、皆は荷台に飛び乗ると、坤はアクセルを吹かし大山バイオテックの研究所に向けて急行した。

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