#2 胎動 (2/5)
親鳥が忙しなく雛鳥の元へエサを運んでいる。二時限目終わりの休み時間、教室で物思いに耽っていたイナホは、机に頬杖をつきながら、窓の外に見える木の上の鳥の巣を眺めていた。そんな彼女におどけた雰囲気の女子生徒の声が掛かる。
「何ぼーっとしてんの?好きな人でもできた?」
「違うって、そんなんじゃないよ」
「なーんだ、つまらんのう」
まだ心ここに在らずなイナホの顔色を伺いながら、彼女は話題を切り替える。
「ねぇ、もう書いた?二年からのコース選択希望」
「まだ書いてはいないんだぁ。でも私は近衛候補生コースかなぁ」
「へぇ、なんか意外。じゃあ二年からは別のクラスか・・・。私はビビりだから巫女候補生かなぁ」
その後も談笑をしていると、突如物々しいアラートが校内に響き渡り教室内は異様な雰囲気に包まれた。
「え?なにこれ?やだっ」
友人は思わずイナホの腕を掴み、自分より小柄なその体に身を寄せる。直後、屋内避難を促すアナウンスが流れ、金属製のシャッターが窓の外で降り始めた。
「避難訓練じゃないみたいだね」
そう辺りを窺いながら、身を寄せる友人の肩にイナホは手を沿える。
「じゃ、じゃあ、ビビビビ、B級以上が出たってこと!?ここ市街地の真ん中だよ?ウソでしょウソでしょ?」
混乱を隠せない友人。すると教室がカタカタと揺れるのを感じた直後、閉まりきる前のシャッターに巨大な何かが衝突した。
その轟音と同時に、衝撃により割れた窓ガラスが室内へと飛散し、大勢の悲鳴が上がる。破壊された戸の隙間から何かが暴れる音と、男性のものと思われる恐怖に満ちた絶叫が幾度となく校舎の外で木霊している。
誰か襲われてるのではないかという心配の声と、割れたガラスで怪我をしたクラスメイトを気遣う声が教室内を満たす。
少し気配が遠ざかったのを感じると、イナホは壊れたシャッターの隙間から恐る恐る外を覗く。窓際にそっと置いた手からは血が流れていたが、異常な状況下と好奇心が、その痛みと友人の窓から離れろという忠告を意識から遠ざけていた。外の眩しさに目が慣れると、すぐに校舎を破壊した者の正体がわかった。
黒い蜘蛛の様な姿。人間の口に似た捕食器をぶら下げた6メートルほどの異形の巨体が数十メートル先で暴れていた。
「な、なんなの?あれ」
いつの間にか友人も恐る恐る肩を並べ、それを見て息を呑んでいた。イナホはそれから目を逸らさずに、少し声を潜める様に語った。
「
「あれが本物のクバンダ?見たら逃げろって言われてるやつだよね?しかも今A級って言わなかった!?」
「うん、中でも狂暴なのがあの死笛蜘蛛。ああやって最後に捕食した獲物の断末魔を真似して鳴く、悪趣味な奴だって聞いた事がある。きっと誰か食べられたんだ・・・」
「食べられたって・・・。こんな街中に出るなんて治安管理局は何やってるのよ!」
「治安管理局だけじゃ市民の避難誘導がせいぜいだと思う。クバンダは通常の武器が通用しない特殊な体を持ってるし、A級相手じゃ・・・・」
「じゃあそんな無敵の化け物がこんな近くで暴れてて、私たちどーなっちゃうの?やだよー!まだ死にたくないよー!イケメンとも付き合いたいし、駅前の新しいお店のスイーツもまだ食べてないー」
「しっかりしてって!よく見て、無敵じゃないよ・・・。足が一本切れてる。あれは何かで
鋭い切断面、何よりあれを切断した者がいるという事実に、二人は慄くと同時に少しだけ安堵した。
「対クバンダ用の兵装を扱えるのは近衛特務隊だけのはずだけど、あれと戦える人がこの近くに居るってことかも!」
イナホはそう言って外にそれらしい人影が居ないか目を凝らしている。
「特務隊って、
友人が不安で再び涙ぐみ始めると、屋上の方から女性の怒号が響いてきた。
「もう一体の手負いの特A逃がした間抜けはどこのどいつだ!部下までおやつにくれてやるとは!さっさとあの個体の共鳴周波数を送れ!」
誰かと通信機で話す女性は、何かのデータを受け取ると自らの左腕に付けられた小型の機器を操作する。すると腰に
そして次の瞬間、女性の足は校舎の縁を蹴り、体を捻りながら死笛蜘蛛へと飛び掛かった。
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