#52 新たな力 (4/5)

 「銃を下ろしてください」

 イナホがそう言うのも聞かず、一団のリーダーと思われる男は銃を構えたまま、

 「随分若いな。それに変わった装備だ。また尾上の発明品か?我々は機械軍を止める。だから、黒幕であるそこの二人を捕らえて、この惨劇を終わらせる!」

 「やっぱり・・・!。あなた達も良くない噂に踊らされて!」

 「噂なものか!奴らには十分な動機と能力がある!」

 暫く睨み合った後、イナホが八咫射弩やたのいどを下ろすと、他の皆も続けて武器を納めた。イナホは歩み出ると、

 「私たちも、あなた達と同じ敵と戦っている。すぐには信じてもらえないかもしれないけど」

 「ではなぜ奴らと一緒にいる?」

 「仲間だからです!そして、私たちは地球上の住人ではありません。それに機械の敵なら、倒せる力を持っています」

 「何をふざけた事を」

 「この武器は、私たちの故郷のものです」

 イナホは、近くの大きな岩に向かって歩いて行くと、秋ノ御太刀あきのみたちを抜いた。素早い太刀筋が二本走り、鞘に刀を納めたのと同時、岩は四つに切り分けられ崩れるのだった。

 銃を構える集団は驚きを隠せなかった。イナホは彼らに振り返り、

 「これでもまだ、話を聞いてはもらえませんか?」

 男たちは顔を見合わせ、銃を下ろし始めた。リーダーの男は、

 「いいだろう。まだ信用したわけではないが、話を聞こう」

 すると、ツグミと共に前へ出た傑は、

 「すまない、イナホ君。君達の国を危険に晒す可能性があるというのに・・・・」

 「え?・・・・そうだった!!」

 「君は分からずにやっていたのかっ!?」

 彼女の後ろで頭を抱える仲間達。イナホは頭を掻きながら、

 「いや、ツグミちゃん達が銃を向けられてたから、必死で・・・・」

 相手リーダーの男の咳払いが聞こえ、

 「そろそろいいか?」

 傑は気を取り直し、

 「ああ、すまない。僕は君たちが言う通り、尾上ヒューマネクスト社の元代表、尾上傑だ。そして、こっちが僕が作ったツグミだ」

 「・・・・。私はこの抵抗軍を率いる手塚 信弘てづか のぶひろという。なぜ、海中投棄されたはずのアンドロイドがここに居る?」

 「話せばとても長くなる。・・・いや、話すよ?」

と、事の経緯をイナホ達と共に傑は説明したのだった。



 手塚は首を傾げながら、伸びた顎髭をしきりに触っていた。

 「神に地球内部の異世界だと?信じられん、信じられんが、さっきもただの子供が岩を容易く切り裂いていた。一体、何を信じればいい・・・・」

 傑は少し笑うと、

 「僕もツグミに再会した時は、色々信じられなかった。だから無理もない」

 「しかし、こんな世の中になってから、私たちは神など・・・・」

 「おっと、ここには今、大勢の神々が集まってる。口には気を付けた方がいいかもしれないぞ。で、そろそろ、君達の事も聞かせてもらえないか?」

 「ああ。指揮系統も無くなり、自衛隊が機能しなくなった後、この抵抗軍を作った。武器に情報、そして有志を募りながら、九州からここまで来た。関東に奴らの本拠地があると聞いてな」

 「九州から?そんな道のりを・・・。ということは・・・・」

 「察しの通り、大勢の犠牲があった。私は元自衛隊員だが、この抵抗軍には民間人も多い。今ここに居るのは二十二名。皆、運の良い奴らだ」

 「そうだったのか・・・・。そうだ、ここに来るまでに、白い奴には遭遇したか?」

 「ああ、何度か見たな。人型で異質、何もない所へ攻撃している姿を見て、直感的に関わってはいけない存在だと思い避けてきた」

 「それは賢明な判断だ。今我々は、奴らに対抗する手段を講じている最中なんだ」

 「そんなにヤバいものなのか・・・・?」

 「奴らは神を狩る存在。白き鉄の兵と呼ばれている」

 「神を?そうか、奴らの不可解な行動はそういう事だったのか」

 「日本の最高神、天照大御神もそのせいで重い傷を負った。近頃、日暮れが早いのはそのせいなんだ」

 「なるほど、色々合点がいった。この期に及んで、冗談を抜かす輩も居ないだろうしな。・・・・銃を向けた事、謝罪する」

 「ああ、気にしてないよ。こんな状況だ」


 その時、息を荒げた白い大きな影が一同の前へ駆け込んできた。

 「たたたた、大変じゃー!!」

 イナホが、

 「宇迦之御魂うかのみたま様っ!?」

と、驚いた様子で声を上げた。宇迦之御魂は少し周りを見ると、

 「なんじゃあ?こやつらは?そんな事より、大変なのじゃ!大きな鉄の箱を積んだ車と、初めてみる容姿の白き鉄の兵達がここに向かっておる!!」

 「ここに敵が!?」

 手塚達は状況が分からず、イナホ達の言動に困惑していた。傑は少し慌てた感じを見せ、

 「ウカ、白き鉄の兵が複数体いるということか!?それに、輸送車みたいなものまで」

 「そうじゃ、二体おる。しかも、今のわしの様に、獣の姿を模しておった。あの鉄の箱の方は、何が積まれているかまではわからんかった」

 「ともかく、ここに近づけさせるわけにはいかない!神器の強化もこれからだって時に!」

 「わざわざ神域を攻めるなど、向こうも本気の様じゃ。この地に於いて、異質な秋津の力を嗅ぎつけたのかもしれん」

 「みんな!中へ。すぐに神器を貸してくれ!」

 イナホ達が頷くと、宇迦之御魂は、

 「わしは父様達に伝えてくるぞ!」

と言って本殿の方へと駆けて行った。手塚は作業小屋へ向かおうとする傑を呼び止め、

 「おい、一体なんだ!?わかる様に説明してくれ」

 「おっと、すまない。もうすぐここに敵が来る。今は物資も弾薬の補給も難しい。だから君達は、近くの人々の避難誘導に当たって、戦力を温存してほしい」

 「何か考えがあるんだな?」

 「ああ、後で人手を借りる事になるかもしれない」

 「わかった。であればそうしよう。こっちは任せてくれ。行くぞ!みんな!」

 手塚達が避難者たちのいる方へ向かって行くと、遠くの方に意識を集中していたツグミは、

 「大型の輸送車両と思われる周波数を確認しました。数3。推定距離7キロ。あと数分でここに・・・・。ん?停止しました。これは、何か展開している!?」

 傑はツグミ達に、

 「ともかく急ごう!」



 三台の輸送車から滑り落とされたコンテナ。その両脇の蓋が開くと、大きな虫の様な羽音が一斉に鳴り響いた。人間の拳ほどの大きさ。シンプルな造りに、ドローンの羽が付いただけの、無数のそれらは、箱から飛び出しイナホ達のいる山の上の方へと飛び去って行く。

 そして、三台の輸送車は次々に連結しだし、徐々に姿を変え始めた。それはムカデの様な複数の足を持つ、超大型の戦車へと変形を果たした。

 二匹の異質で異形たる純白の巨獣達は、それに飛び乗り、獲物の元へと向かうのだった。



 作業小屋の中には、八個の勾玉を手にした少彦名すくなひこなが、それらをイナホ達で組んだ仮設の祭壇の様な中に並べていた。

 「話は聞いたぞ。早くお主等の夢繕勾玉むつくろいのまがたまを、その勾玉に合わせる様に並べよ」

 矢継ぎ早に傑も、

 「残りの神器も並べてくれ。ツグミ、接続して補助処理を頼む」

 イナホ達は言われるがまま、祭壇に載せられた複雑な機器の上に神器を並べた。するとその傍らで、ツグミは小型の刃物を握ると、自らの首筋の後ろに突き立て、皮膚を数センチほど切り開いた。それを見ていた百花は思わず目を逸らし歯を食いしばり、

 「いぃぃぃ・・・!ツグツグ、まじぃ・・・?」

 「接続口が皮下にあるもので。・・・百花、経験は無いですが、話を聞くに、人間の出産に伴う痛みの方が、余程痛いと思われます。私は機能的に経験する事はないと思われますが、女性は強しですね」

 そう言いながらツグミはケーブルのプラグを挿している。百花は指の隙間から覗き、

 「うわぁぁ、それ見た後に聞きたくなかったー。ずっと独身で居ようかなー。てか、ツグツグ、痛くないのかよー・・・・」

 「私にも痛みはあります。感覚器を生かすためには必要なのです。ある程度、制御は出来ますが。・・・父さん、接続が完了しました」

 傑は端末を操作すると、

 「すまない、ツグミ。更新と適応プログラムのインストールを開始するよ」

 傑の作った機器と、少彦名の描いた祭壇の上の陣が光を帯び始める。ツグミは目を閉じると、

 「全ての神器との正常接続を確認。再プログラム開始。完了まで五分。同時に、金毘羅刀のスキャンを開始します」

 イナホは少彦名に、

 「これって、私たちの神器がどう変わるんです?」

 「うむ。まずわしが主に担った勾玉じゃが、今この時、夢繕勾玉と融合を果たそうとしておる。あれには、ここに集っていた、戦が得意な鬼神たちの力を、少しづつ分けてもらった。つまり、お主等の身体能力が、これまで以上になるぞい」

 「さらに強くなれるんですか!?」

 「いかにも。だが、それだけではないぞ。今まで力を蓄える機能は、八咫射弩だけが担っていたが、夢繕勾玉にも容量を持たせる事で、戦の継続能力を向上させたのじゃ」

 「すごい!すごいよ!少彦名様!」

 「そうじゃそうじゃ、わしを崇めておくが良い!そして、秋ノ御太刀あきのみたちじゃな。金毘羅刀の様な霊刀の類の特性を写し取り、その力を上乗せして再現する。あとは八咫射弩じゃな。傑の話では、力の変換効率を改善したとの事じゃ。ま、あれは実に傑作じゃからな」


 そこに外から宇迦之御魂の声が響いてきた。

 「な、なんじゃ!?あの蚊柱の様なものは!虫の大群か!?」

 イナホ達も外に出て空を見た。傑は顔をこわばらせ、

 「特攻兵器・・・・。まずい、あと三分はかかる!ツグミも動けない!」

 香南芽は拳を握ると、

 「あれ真っすぐこっちに向かってない?どうしよう、私たちもさすがに丸腰じゃ・・・・」

 すると、光の玉が飛んでくると一ヶ所に集まり、土龍が姿を見せ、

 「ここを岩屋で覆う。持ちこたえれば良いが・・・・」

と言うと辺りが少し揺れ始め、土と岩の壁が地面から、小屋周辺を覆う様に成長していく。


 けたたましい羽音が近づいてくるのが分かる。すぐ近くまで来たのが分かると同時に、岩屋の屋根が塞がった。その瞬間、激しく岩壁を叩く、絶え間ない爆発音と衝撃が内部を揺るがす。

 傑は手で頭を覆いながら、

 「やはり狙いはイナホ君たちか!」

 ぽろぽろと上から岩の欠片が落ちてくる中、百花は、

 「土龍様、これ大丈夫なんだよね!?」

 「そのはずだ」

 「そ、そのはずって・・・!」


 皆が身を屈めたまま、音が静まると内壁の一部がごろっと崩れ、その穴から光が差し込んだ。そこを指差し百花は、

 「ちょっと土龍様!ほんとにギリギリだったんですけど!」

 「うむ、まあ良かろう」

 そこにツグミの声が、

 「再プログラム、完了しました!皆さん、反撃の準備を」

 そうしてイナホ達が神器を装備し終え、土龍が勾玉の中に戻ったのと同時、岩屋が何者かに突き崩される。ツグミは傑を抱えて、イナホ達と共に飛び退く。そこには巨大な鉄のアームがけたたましい駆動音と共に動いていた。

 崩れてぽっかりと口を開けた岩屋の外には、数十メートルはあろうかという鉄の化け物。そして、その両肩には、大きな山犬の様な姿の、冷たい輝きの純白の獣が二頭。一方は両前足に鋭い刃を付け、もう一方は大太刀を口に咥え、こちらを怪しく窺っていた。

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