第四章 絆と縁

#16 絆と縁 (1/5)

 始業式から一週間が過ぎ、どことなく寂しい雰囲気が生徒達に伝染していた。それもあってか、結果、三分の一ほどのクラスメイトがコース変更を希望し、教室から去っていった。

 湿っぽい雰囲気を引きずる中、今日から戦闘実習が始まる。


 2クラスある近衛候補生コースの生徒達が、屋外の演習場に集合する。すると、佐江崎教官は班分けをすることを告げ、説明を始めた。

 「この先、近衛隊に進む者は、各部隊に配属され、実戦となれば仲間にその命を預ける事になる。仲が悪かろうと、能力が劣っていようと、班全員で生き残る術を見つけなければならない。よって今から決定する班の編成は、卒業するその時まで、維持される。クバンダを前にして、自分一人だけで生き残れると考えているやつがいるなら、今ここで考えを改めろ。では、班を発表する」

 その意図に周囲がざわつく中、イナホは黙って固唾を飲んでいた。


 まず最初の班が発表された。仲のいい者同士だったのか、楽しそうな声が聞こえて来る。

 続いて次が発表されると、そこに犬猿の仲でも居たのか、ピリピリとした空気がこちらまで届いた。他のメンバーも困惑している様だった。


 続いて次の班が発表される。

 「次!第三班。鬼窪おにくぼ ゆう鞍橋くらはし 慶介けいすけ木櫛こぐし 斐瀬里ひせり、豊受 イナホ、長ケ洲ながす つかさ日舘ひたち 香南芽かなめ、八幡 つぐみ、やまなし 百花ももか。以上だ」


 呼ばれた面々が集まろうとしていると、周囲からヒソヒソ声がイナホの耳に入る。

 「なぁ、あの班」

 「ああ、近衛特務隊の大隊長の息子と、実力ナンバーワンって言われてる、白い死神の娘だろ?」

 母の実力こそ想像に容易いが、白い死神という通り名で呼ばれている事を、イナホはこの時初めて知った。通り名が付くのは誇りに思ったが、母が死神と呼ばれる事に、少し複雑な気分を覚えた。


 次の班が発表されている最中、イナホは班の皆に軽く挨拶しようとした。すると、強気な感じが見た目にも分かる男子生徒の悠は、食い気味に横柄な態度で先手を取った。

 「お前が、あの白い死神の娘か。せいぜい足を引っ張ってくれるなよ?」

 威圧され、言葉に詰まったイナホ。どう返そうか考えていると、そこに、性格も見た目も派手好きそうな、百花が割って入ってきた。 

 「はぁ?アンタ、マジ態度悪くない?大隊長の息子かなんか知らないけどさ、アンタこそ、恥かかないよう気を付けなよー?」

 何故かイナホへの挑発を受け止めた百花。悠は明らかに怪訝な顔になると、

 「お前みたいな底辺に興味はない」

 そんなことを言われ、ヒートアップして言い返そうとする百花に、今度はイナホが割って入った。

 「む・・・・、この豊受イナホ、中の下をナメないでいただきたい」


 妙な間が開くと、おろおろと見守っていた斐瀬里はクスクスと笑い始めた。それをきっかけに、百花も釣られ、

 「ぷっ。アタシもバカだけど、アンタ何それ?ウケる」

 悠は興が覚めたのか、顔を背けて言い放つ。

 「ふん!まぁ、どうでもいいが、この班での指揮は俺が執る。実力から言って妥当だろう」

 百花は頭の後ろに腕を組んで、

 「て、隊長様が言ってるけど、みんなはー?」

 その呼びかけに斐瀬里とツグミは、

 「わ、私は別にいいよ?」

 「問題ありません」

 健康的な小麦肌とショートヘアが印象的な女子生徒、香南芽は少し挑発的な口調で悠を見た。

 「構わないよ。その手腕、見せてもらおうじゃん」

 端で話していた男子二人もこっちを向く。大柄だが柔和な感じの慶介は、

 「僕はちゃんと投票した方が良いと思うけど、みんなが良いって言ってるならそれで」

 結んだ長髪を靡かせた、中性的で大人し気な司も、

 「あ、うん・・・」

とだけ、返事をした。


 イナホは、顔を背けたままの悠に、返事は返ってこないだろうと思いながらも、悪気なく伝える。

 「そういうことだから、頑張ってね。隊長さん」

 そう言うと、悠の眉がピクリと僅かに動いた。

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