#17 絆と縁 (2/5)

 全ての班分けが終わったのか、再び佐江崎教官の声が響いた。

 「では今日は、いきなりだが戦闘の感覚を掴んでもらうために、対人戦を想定した模擬戦を行う。全員用意した防具をつけるように」

 イナホ達は、各部位にプロテクターを付け、動きやすさを確かめる。皆が装着し終わる頃、教官が次の指示を出す。

 「近衛隊は大御神おおかみ様をお守りするのが、一番の任務だ。敵はクバンダだけではない。悪意を持った人間にも、素早く対処できなければならない。これから、あそこに設置した柱を護衛対象と見立て、襲撃者役の私を、各班ごとに阻止してもらう。全力で来るように!まずは第一班からだ。配置につけ!」


 第一斑の面々は、教官一人が相手ということで、余裕を見せている。他の班の面々の多くも、そう思っていただろう。だが、その甘い見立ては、始めの合図と共に打ち砕かれる。


 運動神経の良さそうな女子生徒達が二人同時に、教官を取り押さえようと飛び掛かるが、容易くすり抜けられた。続いて男子生徒も掴み掛かるが、手が届く前に一人は足払いをされて、その場で倒れる。もう一人の男子生徒は、手首を掴まれたと思うと、教官の後方へとあっという間に投げ飛ばされた。

 残りのメンバーも軽々とあしらわれ、教官は難なく護衛対象代わりの柱に触れたのだった。

 周囲に沈黙が流れ、皆、その力量差に呆気にとられていた。


 続いて第二班が呼ばれ、緊張した面持ちで配置についた。しかし先ほどよりも連携が取れていないせいで、散々な結果に終わった。戦闘経験が無い生徒達と教官との、圧倒的な差を見せつけられ、イナホ達も身を縮ませていた。


 まだまだ息を切らす素振りも見せない教官が、イナホ達の第三班を呼ぶと、悠は宣言通りメンバーに指示を出す。

 「まず教官の初速を削るため、機動力のある日舘と八幡が距離を保ちつつ牽制し、こちらに追い込め。そこに鞍橋の巨体と力を生かし進路を阻む。その後方から更に豊受と木櫛、長ケ洲で挟撃、そこにバカは教官の背後から忍び寄れ。俺は最後の要を務める」

 百花はピンク色のシュシュから生える、控えめなツインテールを逆立てそうな勢いで怒った。

 「むきー!!アタシだけバカ呼ばわり!見てろよ、お前の出番なんて無いんだかんなっ!」

 鼻で笑う悠。ひとまず皆は、彼の提案した作戦を飲み、配置についた。

 そして、開始を告げた教官が動き出す。


 ツグミと香南芽は指示通り、絶妙な距離を保ちつつ牽制し、教官を慶介の近くへ誘導する。だが、思ったより動きの鈍い慶介の横を、教官は走り抜けようとする。

 すかさず、その大きい体の影から三人が飛び出す。司を避けようとした教官が、少し身を捩った隙に、イナホは服の裾を掴む。しかし、教官は野生動物のような速さで、即座にそれを振り解いた。斐瀬里も捕えようとするが、あと少しの距離が詰められず、触れることすらできなかった。


 回り込んで後方から忍び寄っていた百花は、一気に距離を詰め、教官めがけて飛び蹴りを繰り出した。

 「全力で来いって言ったの、教官だからねー!!」

 しかし、そこには既に教官の姿は無く、代わりに司を蹴り飛ばしてしまった。飛ばされた司は慶介にぶつかり、二人は百花にノックアウトされてしまう。それを横目に、ツグミと香南芽は教官を追跡。イナホと斐瀬里も切り返して後を追う。


 突破してくる教官を捉えた悠は、柱の前で迎え撃つ姿勢をとった。それを見た教官は少し身構え、直後、二人は接近戦にもつれ込んだ。

 今までの生徒たちと違い、それは十分に足止めしているようにも見えた。

 追いついたメンバーは、激しい接近戦を繰り広げる二人に、どう割り込むか躊躇していると、イナホは迷うことなく教官の腰元に飛び込み拘束を試みた。それに続くように、香南芽も教官の左腕を捕らえる。

 しかし、何の問題も無いかのように、教官は喋りだす。

 「なるほど。父親に英才教育を受けていたのはわかるが、まだまだ青いぞ。こっちは母親に似ず平凡か。そっちの君も、なかなかの身体能力だが・・・!」

 イナホと香南芽の拘束を、いとも簡単に振りほどいた教官。悠は彼に手首を捻られたと思うと、そのまま宙を舞った。一瞬の出来事に思わず声が出た。

 「なに・・・!?」

 逆転する天地。彼の目に余裕そうな教官の顔が逆さまに見えた。そして教官は何事もなかったように、柱に到達し触れようとした直前、その腕がガチっと固まった。


 腕を掴んだのはツグミだった。思わず目を丸くした教官と目が合うと、ツグミは「学校ではくれぐれも手加減を。」というイナホからの忠告を思い出す。

 人並みに力を緩めると、教官が柱に触れ、模擬戦が終了した。すると息を切らせて百花が追いつく。

 「あれ?みんな倒れてんじゃん・・・。たいちょーも!これあたしの勝ちじゃない?試合に負けても勝負に・・・、的な?」

 百花が謎の勝利宣言する中、教官は自分の手首を見て、首をかしげる。その様子を目にしたツグミは、誤魔化そうとしたのか、余所余所しく呟いた。

 「素晴らしい体術ですね。私も早く習得したいものです」

 教官は気を取り直し、矢継ぎ早に次の班を打ち負かしていく。初めての実習、一時間目は散々な結果に終わったのだった。

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