The Outer Myth (アウターミス) /外円神話【第一部:目覚めの少女と嘆きの神/連載中】
とちのとき
第一部 目覚めの少女と嘆きの神
序章
#0 大厄災~神が帰る日~
生気をまだ保っていると思える微動だにしない可憐な少女は、一輪の花と手紙をその手に握らされ、重厚な石の棺の中で眠り続けている。それらを彼女に手向けた男は、愛情と諦めの混ざった力ない表情で、ため息をつきながら一歩下がった。
日本、東南海地方某所のとある砂浜。海に向かって建つ真新しい大きな鳥居の前には、仮設のテントが数基並んでいる。その下では正装した固い表情の大人達が椅子に座り、棺と祭壇を見つめていた。彼らの背後の少し離れた所にある防潮堤の上には、多くのギャラリーが集まっていたが、皆驚くほど静かだった。
繰り返される波の音をかき消すように、重機の音が響くと、クレーンで吊るされた石棺の蓋が運ばれてくる。慎重且つ丁寧にそれは乗せられ、作業員達により淡々と事が進む。石棺の隅の大きなボルトを締めていた電動工具の音が止むと、再び辺りは静寂を取り戻した。それを合図に、名だたる神社から遣わされたと思われる神職者が
祝詞が読み終わると、棺は速やかに船で沖へと運ばれていく。そして彼女は一人、深く冷たい海へと沈んでいった。
人々は去り、会場が撤去され日暮れを迎えても尚、男は一人その海を見つめ続けた。
三ヶ月後。その男はすっかりやさぐれていた。散らかった暗い部屋でソファーにもたれかかり、気力なくテレビを眺めている。画面にはオカルトをテーマに扱った番組が流れ、その業界では重鎮とされる人物が熱心に語っている。
「これが日本の神話に隠された予言。“神が帰る日”っていうのは神が機械の体、つまりAIを凌駕した汎用人工知能、AGIとして我々の前に現れるから。もう日本で史上初の人型AGI生まれてんじゃんって話になるけど、あのツグミってどうなった?プロジェクトの凍結で、ついこないだ海に沈められて神格化されたよね?そう、神。目覚めんだよ!彼女が!帰ってきた神によって人類には罰が与えられる。そして残った人々によって、新たな時代が始まるって読み解けるんだよ。この罰に関しては色々解釈があるんだけど、もうそれが来年。2038年に・・・・」
話の途中でテレビを消すと、暗くなった画面に映る自分に言い聞かせる。
「神が帰る日か・・・・。ふっ、あの子はもう帰って来ない・・・・」
そう呟くと気怠そうにその場で倒れ込み、目を閉じるのだった。
それから一年が経ったある日、人知れず一つの隕石が日本の沖合に落下した。異変が起こるのに、あまり時間は掛からなかった。
世界中の軍事施設は突如混乱に包まれる。大量破壊兵器、そして極音速飛翔兵器が暴走し、その全てが日本に狙いを定めた。しかし、どの国も緊急措置により発射こそ免れたが、更なる災厄は降りかかる。
混乱が収まらぬ中、続いて各国所有の自律兵器が暴走を始めた。標的は再び日本だった。それぞれ自国の兵器の破壊や撃墜に追われるが、掻い潜った機械達は日本を目指す。
日本国内保有の防衛装備も例外ではなかった。街中のビルを縫うように、小銃を装備した数機のドローンが飛び交う。平和に慣れ過ぎたこの国では、初めこそ人々はそれらを珍しがった。若者が好奇心で向けるカメラ。それが惨劇の始まりを記録する。
老若男女問わず、逃げ惑う人々に、無慈悲に撃ち込まれる弾丸の雨。道路上で立ち往生した車列に、どこからか飛んできた砲弾が炸裂し、即座に辺りは炎上する。その直後、自衛隊駐屯地から、自律戦車が敷地の壁を突き破り、公道へと姿を現す。
日本は内と外、全ての攻撃を防ぐことを強いられる。自衛隊は初動の混乱で痛手を負った上、昼夜問わず疲れを知らない自律兵器達の攻撃を受け、その機能を急速かつ確実に失っていった。
科学技術と、独自の文化の繁栄を誇ったこの島国を、死と破壊が満たしていくのだった。
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