赤い円卓

星を別つ火種

 イナホ達が日本へ到着した頃、ユーラシア大陸のどこかでは、大陸の東の国々の三人の老いたる長達が、秘匿に秘匿を重ねた様子で、重厚な造りの一室に集っていた。

 今では殆ど見る事が無くなった、熱を放つフィラメント電球が、高さのある天井から、大きな丸いテーブルを囲う彼らを照らす。黒髪に白髪の交ざった恰幅の良い男が口火を切った。

 「現状の情勢でさえ、長年の日本の飼い主は既に管理する力を持たない。我々に気を使ってか、飛び火を恐れてかは知らないが、未だ機械軍の生産拠点すらミサイルで潰せないでいる。残った日本人も災難なものだ。あの国の自国第一主義とは、実に素晴らしいものだよ。さて、その主無き日本を取り込む準備は、すでに整っている。我々のやり方なら、侵攻の代償を払わされる心配もない」

 鋭い雰囲気を持った白い肌の男は、悔しそうな表情を一瞬だけ見せると、平静を装いながら、

 「ふん、日本から広がった意識改革と技術融合にまんまとやられ、あの島一つ取れなかったではないか」

 「途上国の票と隠れ蓑を失ったのは、あなた方の力不足でもある。しかし、この機会に契りを結べば、どの兵器よりも効果は大きい。何者にも覆せない強国となるのだ」

 二つの大国のやり取りを前に、押し黙っていた様子だった角刈りの男は、浮かない表情で腕組みをし、頬を少し指で触ると、

 「それは想像するに容易い。が、ここに居るそれぞれの国の主権は本当に守られるのだろうな?数年後に赤き思想同士で銃口を向け合うなど、目も当てられないぞ?」

 黒髪の男は、

 「それは今日ここに居る誰のメリットにもならない。風向きは再び大きく変わった。しかし、恩を忘れたというのであれば、話は別だ」

 それを聞くと、角刈りの男は再び黙ってしまった。白い肌の男は黒髪の男を見て、

 「しかし、あの機械共をどう排除する?日本上空では衛星も眼を潰されている」

 「それに関しては、我々はアナログな手段で手を回している。既にいくつかの情報を収集済みだ」

 「そうか、我々のカタパルト建造も順調だ。ところで、あの石棺の回収は進んでいるのか?」

 「座標までは到達したが、未確認だ。潜水艦を二隻も失っている」

 「まさに日本は魔窟か」

 「だが、解放の日は近い。・・・・では、そろそろいいだろうか?我々の盟約をここに」

 黒髪の男はアタッシュケースから、一冊の書物を取り出す。表紙は赤く、複雑な意匠を施されている。それが開かれると、そこには既に一つの印が押されていた。

 向かいに居る二人は、今一度考える仕草を見せた。しかし、次に手荷物から取り出したのは、国の意志を示す国璽こくじであった。

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