#37 歩み (2/3)

 百花は思わず、

 「トカゲ喋った!」

 目の前にいる存在が人の言葉を話せることに、皆一様に驚いていた。トカゲと言われたそれは、こちらに体を向けると、

 「おお、人と話すのはいつぶりか。我はこの地に住まう、名もなき土龍どりゅう。神として祀られた事もあったが、今は崇める者も居なくなり、朽ちるのを待つだけよ。して、子らよ。そなた等は何者ぞ?」

 イナホ達は武器を納める。ツグミは、

 「この方であれば、経緯を話しても問題ないのではないでしょうか?」

 全員が頷くと、イナホは自分達の事を土龍に伝えた。


 「なんと!秋津と呼ばれる異界の地の住人は、常日頃から神を認知するか!」

 ツグミから何となく聞いてはいたが、イナホ達は、こちらの世界の人々が神々を見る事が出来ない事に、新鮮な違和感を覚えるのだった。そんな中、ツグミは土龍に、

 「土龍様。ここに来るまでの間、私達は人影を見かけませんでした。生存者は?」

 「あのヒトを屠る鉄の兵の目を掻い潜りながら、幾人かが北へ向かう姿を見かけたが・・・・。ここ一年は見てはいない」

 イナホはその言葉に少し希望を抱いた。

 「じゃあ、まだ生き残った人がいるかもしれないんだ!ところで土龍様、他の日本の神様達は?」

 「うむ、現在は最高神である天照大御神あまてらすおおみかみ様を筆頭に、八百万やおよろずの神々がこの地にはおる。いや、居た・・・」

 「居た?」

 「そなた達の知る通り、この地に数多の鉄の兵がやって来ては殺戮を繰り返し、神々が意図しない天変地異が起こり始めた。神々はそれを鎮めようともしたが、その頃であった。白き鉄の兵が現れた」

 「白き鉄の兵?」

 「うむ。この者達は神々を殺す事が出来る。我は辛うじて逃れることが出来たが、犠牲となった同胞も多い。人々の霊を慰めるため、神宮より各地を巡っていた天照大御神様御一行も、この辺りで白き鉄の兵に出くわし、その際に傷を負った。手負いながらもどうにか逃れたが、人々の信仰が希薄になった今、その傷を癒せるだけの力は残されておらぬ。今はただただ、死を待つだけにあられるようだ。武を得意とする一部の神々が、各地より来りて守護に付いていると言伝に聞いたが、それもいつまでもつことか」

 神を手に掛ける未知なる敵について聞かされ、愛数宿あすやどりが危惧していた事態が現実のものとなっている事に、一同は険しい表情になる。イナホは少し考え、話を続けた。

 「あれ?今の話だと、その白いやつ以外は、神様達には問題ないって事・・・・ですよね?」

 「うむ、その通りだ」

 「じゃあ・・・!」

 「お主の言いたいことはわかる。何故、人々を助けられなかったのか・・・・、であろう?」

 「あ、はい・・・」

 「お主たちの住まう秋津と違い、こちらの世では、神々が直接的な物質干渉が出来ぬのだ。人が神を認知出来ぬのもそのせいよ。故に出来る事も限られた。これは、かつての古き神々が設けた制約とも言われている。人々の健やかなる進化を見守るため、神々は霊的な守護のみに専念し、物質的な干渉は行わない。超常なる力を持つ神を知り、人々が文字通り何でも神頼みになってしまっては、人間の堕落を招く。そう古き神々は考えたのであろう。一部の霊性の高い者は、この制約を破り認識できる者もいるようだが」

 悠は納得し同情交じりに、

 「なるほど、人を殺す機械どもに対し、物質界の出来事であるが故に、神々は何も出来なかった。見えているのに手出し出来ないとは、何とも言えん気持ちだっただろうな・・・」

 土龍は深いため息を漏らす。その場に少し沈黙が流れると、それを切り裂くように機械音が遠くから聞こえてきた。

 「まずい!そなた等、身を隠せ!あれは人を屠る鉄の兵の鳴き声!」

 そう叫んだ土龍は足で地面を踏み鳴らすと、イナホ達の前に地面から大きな岩が突き上がった。次の瞬間、大きな衝撃と共に、岩の破片が辺りに飛散する。思わずイナホ達は身を屈めた。ツグミは、

 「砲撃!?私達の存在が知られたようです!皆さん、戦闘準備を!」

 そう言ってツグミが抜刀したのを合図に、全員が臨戦態勢をとると、上空から機関銃を付けた中型のドローンが二機飛来。そして、茂みを勢い良く掻き分け飛び出てきた戦車が一両現れる。戦車の砲台が回転し、こちらを向くと同時にツグミが叫んだ。

 「散開!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る