#43 継海と愛実 (5/5)
純白の装甲を身に纏ったそれは、所々華奢な稜線が印象的ではあるが、戦う前から確実な威圧感を放っていた。白き鉄の兵は、腰に下げた大太刀に手をかけると、体の横に構えたまま、その場で足を止めた。
妙な汗を顔に伝わせている香南芽が、
「何、あいつ・・・。あんな離れたところで、私達を迎え討とうっての?」
そう言うとツグミが、
「待ってください。何か妙です」
彼女に搭載された、あらゆる感知機能から入力される情報が処理される。すると声を荒げて、
「エネルギーを貯めている!?皆さん!伏せて!!」
白き鉄の兵が大太刀を振り抜くと、そのリーチ以上の斬撃が辺りを駆け抜ける。全員が伏せ、ツグミは傑に覆いかぶさるようにかばった。
地面に伏せたイナホの顔には、自分の髪の先端が切れたものが舞い落ちる。周囲の木々がバタバタと倒れる中、イナホは、
「みんな無事っ!?」
全員の声が聞こえると、一斉に
「うそ・・・、ほとんど効いてない・・・・」
ツグミは、
「慶介、司、斐瀬里!援護射撃をお願いします!主兵装はあの刀だけのようです。どうにかして無力化を!」
悠は大太刀を持つ敵の腕に目をやると、
「俺とツグミで奴の腕を狙う!イナホと百花は足を封じてくれ!」
「「了解!!」」
「香南芽は背後を取れるか?」
「やってみる!」
敵の懐に滑り込み、皆一斉に斬り込むが刃が全く通らない。白く輝く装甲は、知っているどの物質よりも硬かった。イナホが秋津国での光景を思い出す。
「こいつ、まるでクバンダみたい!」
敵から繰り出される払い斬りを、悠とツグミは両手で受けるが押し負けてしまう。極めて強烈で、そう何度も続けて防げるような攻撃ではなかった。
前線の全員は一度距離を取る。短時間で息が上がってしまうほど消耗させられる。援護射撃をしていたメンバーも弾切れになり、駆けつけ接近戦に加わるが、まるで歯が立たない。
攻防を重ね、十分に八咫射弩へ力が充填されたのを感じたイナホは、少し敵から距離を取ると、
「みんな離れて!斐瀬里ちゃんには出来たんだ、私だって!」
イナホが集中すると、八咫射弩がバチバチと放電し始めた。敵の頭部を狙い、思いを更に強める。
「これなら!!」
皆が飛び退いたのを見ると、その指が引き金を引く。直後、凄まじい閃光が辺りを包むと、地面が揺れるような雷鳴が轟いた。
雷が直撃した敵の頭部の装甲が割れ、白い装甲とは対照的な、どす黒い肉体が露出した。白き鉄の兵は装甲の隙間から煙を上げ、数秒動きが止まった。それを見たツグミが、
「好機です!刀を持つ右腕に集中砲火を!」
ツグミ達が先ほどの接近戦で溜めた力を八咫射弩に込め、思い思いに形態変化させると、激しい銃撃を浴びせるのだった。
硝煙が風で流れ去ると、肩からだらりと黒い腕を垂らす敵の姿が見えた。それを確認した悠が声を上げ、
「装甲が剥がれた!斬り込め!」
香南芽は、
「やつがまた動き出した!気をつけて!」
皆が
敵の右腕は悠たちの斬撃を浴び、ぼとっと地面に落ちる。その切断面とイナホが刀を引き抜いた頭部からは、重油の様な血が噴き出す。敵はついにその場に膝をついた。
「コイツ、頭が弱点だったって事?」
百花が息を切らしながらそう言うのと同時。敵の傷口からしゅるしゅると繊維状の物が伸び、腕を回収し傷を再生し始めた。百花が一歩引きながら、
「う、嘘でしょ・・・!?」
皆、満身創痍で武器を構えるが、土龍は、
「これは想定以上の力。時間を稼ぐ、ここは退くのだ!」
土龍が力を発現し、敵の足を石で固め始めた。皆を見たツグミが、
「皆、消耗しています。言われた通り、一旦退避しましょう。もうすぐ神域のはずです。父さんも急いでください」
一行は残った体力で山道を駆け上がるが、殿を務めていた慶介が後ろを振り向く。
「まずい!もう奴が追ってきた!」
危機迫る中、一行の頭上を大きな影が飛び越えた。イナホがそれに気づき、
「まさか!もう一体いた!?」
その影は敵の頭上へと落下し、鋭い音と共に土煙が下の方で巻き上がった。
「一体何が?慶介君は大丈夫!?」
イナホのその呼びかけから少し経つと、土煙の中から慶介が出てくるが、それを追うように大きな人影が登ってくるのが見えた。皆、息を呑み後ずさりした。すると、煙の中から豪快な声が辺りに響き、
「惜しかったな!
土煙を抜け、その声の正体が現れた。変わった形の剣を持った大男が、赤い球のような物を持って上がって来る。
「あの厄介な白い鎧を砕いてくれたことには礼を言うぜ。だが、こいつをやるまで油断するな」
持っていた赤い球を握り潰すと、下で弱っていた白き鉄の兵はバラバラになって消滅した。
「奴の初撃を避けたのは大したものだ。人の子であそこまで戦えた奴は初めて見る」
そう話す大男は、イナホ達の前に立ち止まった。突然の事と戦闘の疲労で呆然としていると、傑が大男へ、
「もしや、あなたは
「いかにも!大の大人が守られてばかりで、一番逃げていたようだが・・・」
「ああ・・、僕は神器の使い手ではないもので」
「神器、だと・・・?」
須佐之男がイナホににゅっと顔を近づけると、イナホはビクっと肩を震わせた。ジロジロと見終えると、
「ほう、色々興味深いな。まだ歩けるか?童ども。ついて来い」
日の沈んだ暗い山道を須佐之男の後を追い、疲弊した体に鞭打ち霊峰の麓をイナホ達は登って行った。
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