#55 結びて断ちて (2/5)

 出発して数時間後。

 「時間が無いのに徒歩で移動だなんて」

 そう愚痴を漏らす百花に手塚が、

 「使える車両を見つけたとしても、すぐ無人機共に見つかる。仕方ないさ」

 「そいえば、手塚さん、家族は?」

 つい悪気無く訪ねた百花に悠は、

 「おい、日本はこんな状態なんだぞ?気安くそういう事を聞くな」

 「あ、ごめん」 

 しかし手塚は快く、

 「いや、気にしないでくれ。私は運が良い。君達と歳が近い息子と娘は無事だった。今は地元の避難所に残して来ている。この抵抗軍には、似たような境遇の奴らばかりだ。君達も大切な人達を待たせているのだろう?」

 百花は頷く、

 「そうですね。伊和子姉ちゃん怪我良くなったかな・・・・。あ、ウチの実家、酒蔵なんで、あとでお酒持ってきますね!」

 「異世界の酒か・・・!これは死ねない理由が一つ増えたな」

 そんな話をしながら、着々とヒルコの潜む敵地へと赴くイナホ達本隊。



 一方別動隊は山の稜線に沿って進んでいた。傑は隊員達に、

 「そろそろ一か所目の設置ポイントが近いはずだ。その後は三つのチームに別れ、手分けして設置を行ってもらう」

 機器の扱いを尋ねる隊員に、急な山道で息が上がりながらも傑は、

 「大丈夫、起動後は自動で、周辺の生きている端末を乗っ取って、映像をばら撒く。起動だけしてくれればいい。生き残った人々に、一世一代のハッタリをかまそうなんて、イナホ君も実に面白い事を考える子だよ」

 息を整えながら改まって続ける。

 「いいかい?あの子達、本隊が上手くやったとしても、天照様への信仰が取り戻せなかったらこの日本は終わる。これがどれほどの重責か。必ずやり遂げるんだ」

 それを聞き隊員達は、

 「了解、何としてもこの機材を死守しなきゃですね」

 「ハハッ、最後の任務がハッタリの手伝いだなんてよ!」


 荷物を背に、険しい斜面を登りきる一行。そこは山の稜線が幾つか枝分かれしている場所だった。傑は荷物から機器を取り出し、

 「よし、一ヶ所目到着だ。これで、と・・・」

 設置が完了し装置を起動させると、隊員達の携帯端末が勝手に点き始めた。そこには、イナホ達の社周辺での戦闘を、天照が陣頭指揮を執るかの様な姿と共に「天照大御神が降臨し人々を導き始めた。」というメッセージが映し出される。

 「おお、これが天照大御神様の姿なんですね」

 そう声を漏らす隊員達に傑は、

 「まあAIによる合成だが、ツグミの視覚データを元に作られているから、実際の姿と遜色ないはずだ。怪我などで弱っている部分も、元の姿に補正してあるから、このまま人々が認知してくれれば回復も早まるはず。この映像だけじゃなく、新たにツグミからデータが送られてくれば、更に新しいものも配信されるってわけさ」

 息を呑みながら映像を見る隊員の一人が呟く。

 「しかし、こんな装置をジャンクですぐに組み上げちまうあんたも、十分神の領域だぜ・・・」

 彼らの士気もより一層上がり、その様子を見た傑は効果に期待を抱いた。そして、手分けして設置に向かう前に、一同は円陣を組み、拳を突き合わせる。互いの無事と成功を祈りながら、各目標ポイントに向かって行った。


 二日かけ、何とか装置の設置を終えた傑たち。体を休めるため、近くの避難者コミュニティーへと向かい、一晩泊めてもらえるよう交渉をした。敷地の一角で腰を下ろすと、一気に疲労が体を襲う。

 すると、近くにいた家族の子供が何かのスープを手渡してくる。傑達はお礼をするが、子供は特に反応を示さない。改めて感謝しようと子供の両親に傑は話しかける。

 「あの、貴重な食糧、良いのですか?分けてもらって」

 「子供のしたことです。受け取ってあげてください」

 「ではありがたく。失礼ですが、もしかしてこの子は・・・」

 「ええ、襲撃に巻き込まれた時、爆風で耳をやられてしまいまして。目の前で弟も亡くし、それからあまり話せなくなってしまって・・・。こんな状態ですが、誰にでも優しく接するんですよ、この子」

 それを聞いていた抵抗軍の隊員の一人が子供を見つめながら、

 「うちにも生きてれば同じくらいになる息子がいました。この子みたいに健気じゃなく、なかなか言う事聞かなくて。誰に似たんだか・・・。すみません、こんな話。これ頂いたら、すぐ寝ます」

 味気はないが、優しい風味のするスープを啜ると、その場で気絶するよう眠りに就いた。



 その頃、イナホ達も戦闘を繰り返しながら、敵本拠地の目前まで来ていた。弱々しい月明かりの下、物陰に身を潜め、敵陣を見下ろせるであろう小高い山の上の方を注意深く窺いながらツグミが、

 「あの山を挟んだ向こうには、敵の群衆が待ち構えているはずです。私たちが有利に戦うためには、あの高台を奪う必要があります。幸い、山の上には複数体の通常の自律兵器だけですが、気づかれれば一気に敵が押し寄せて来るでしょう。狙撃による同時攻撃か陽動・・・・」

 話の途中で月詠つくよみが割って入ると、

 「それなら私がやろう」

 イナホは、

 「月詠様?通常兵器ですよ?」

 「ああ、わかっている。時は来た。白き鉄の兵までは倒せぬだろうが、一網打尽にしてくれる。皆の者、決して山陰から出るでないぞ?これより、月の石を落とす」

 何の事かわからないといった様子の皆々。戸惑うイナホは、

 「ねえ、ツグミちゃん?月の石って?」

 「秋津国では天文現象は見られませんでしたね。月の石・・・。恐らくあの月を司る月詠様は、あの空の彼方より隕石を呼び寄せ、広範囲をその運動エネルギーで破壊するつもりなのかと思われます。宇宙からこの地上へ落ちて来る物質は、とてつもない破壊力を持つのです」

 イナホが何とも言えない理解を示していると、月詠は、

 「ふ、講義は終わったか?察しがいいな、魔性の娘よ」

 ツグミの話にざわついていた抵抗軍の隊員から声が上がる。

 「おいおい!良く分からないが、とんでもなく物騒な話をしてないか!?」

 月詠は表情を変える事無く、

 「その者達にも伝えよ。衝撃に備えよ、とな」

 ツグミがその事を隊員たちに伝えると、

 「わ、分かった!みんな、物陰から出るなよ!」

 どことなく不安そうな面々をよそに、月詠は手を空へと掲げた。


 夜空に一筋の青白い光が見えたかと思うと、次第にそれは橙色の軌跡となり、大きくなってくる。

 次の瞬間、辺りが強烈な光に包まれたかと思うと、凄まじい衝撃と熱。少し遅れて地揺れと、今まで聞いた事のない様な爆発的な轟音が駆け抜けたのだった。

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The Outer Myth (アウターミス) /外円神話【第一部:目覚めの少女と嘆きの神/連載中】 とちのとき @Tochinotoki

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