第42社 中から○○がこんにちは

「みんな準備はええな? ほな、始めるで」


 織部先生が私たちに向かってそう言うと、惨級祟魔を囲っていた結界が解かれる。つい先ほどまで動きを封じられていたせいか、祟魔は更に暴れだした。とんでもない質量の髪束が鞭のように、私たちを襲ってくる。けど、みんな髪束の動きに慣れてきたようで、自分なりの方法で対処していっていた。

 そして、先ほどと同様、熾蓮が再び炎を放つと、髪束がみるみるうちに燃えていく。髪の毛というのは乾燥に弱く、髪が濡れている影響で雷が通りやすい状態になっているのだ。

 炎で燃えている髪を川の水で何とかして消そうとしても、次に薫の攻撃が待っているので、祟魔にとって私たちは相性が最悪な相手だと言って良いだろう。

 

『上手いことこっちに攻撃が寄り始めてるわ』

『あいつ、攻撃はできても知能はないからね』

『まぁ、濡れた髪が電気を通しやすいとはあの祟魔も知らねぇだろうし。もしもの時は祈李から渡された札を使えばいいからな』


 この作戦を決行する前に、いくつかの作戦を立てると共に、祈李からお札を渡されていた。祈李によると、私たちの祓式を強化してくれるお札で、依頼内容確認の際に、それぞれの祓式を聞いた後に作っていたようだった。時間は3分と短いが、いざというときには役に立つ。私たちはそれぞれ制服の背中部分にお札を貼りつけており、発動方法は祈李に一言連絡を入れれば、あっちでやってくれるらしい。


 2人が気を引いてくれてるおかげで、ほとんどこっちに攻撃が飛んでこないし、だいぶやりやすいな。


 2人の方に攻撃が向いている隙に、私は対岸の雑木林へと回り込むために気配を極力消して走っていた。だが、対岸に渡ろうにも橋が無いため、普通は渡ることができない。そのためには最低でも川の中に足場が必要になってくる。


 さて、祈李と先生の方はどうなってるかな。


 後方で薫たちの援護をしている祈李と先生の方をチラリと見る。すると、祈李と先生は祟魔からの攻撃を避けている真っ最中だった。祈李たちが避けた髪束はそのまま勢いを緩めることなく、川沿いの道を挟んだところにある木へ激突していく。髪束が祟魔の方に引っ込もうと木から離れると、激突して亀裂の入った木が次々と倒れていった。2人は一旦倒れた木々の元へ向かうと、私に念話を入れてくる。


『よし、ほんなら順番にそっちの方に投げていくで~』

『秋葉さんの方に丸太が飛んでくると思うので、怪我しないように避けてくださいねっ!』


 2人がそう言うと同時に、猛スピードで丸太が私の方目掛けて飛んできた。私が次々に飛んでくる丸太を避けていくと、私を通過して飛んで行った丸太は、川の方へ水しぶきを上げながら突っ込んでいき、しばらくすると川の表面で浮き始めた。


『無事に浮いたぞー。もう後、十数本ぐらいあれば余裕で渡れるからよろしく頼むな』

『了解や』

『はーい』


 その後も、2人が丸太を投げ続けていくと、対岸まで渡れるようになった。河岸から跳躍すると、丸太を足場にして対岸まで向かう。


「よっと」


 無事に到着した私は、雑木林の中を走って移動し、祟魔の元へ向かうタイミングを見計らう。祟魔は今も攻撃を繰り返しており、その度に丸太ができたり、髪束が燃えたり、感電してチリヂリになっていた。少しして、祟魔は一旦再生を図るために川の中へと髪束を仕舞い始める。それを確認したら、地面を蹴って跳躍。丸太を上手く使って、気配を消しながら祟魔に近づいていく。再生時間は僅か10秒。その間に近づいて瘴気を祓わなければならない。私は、祟魔にある程度近づくと、抜刀すると同時に、刀に桜を纏わせる。


 残り5秒。

 

『祈李、頼む!』

『了解です!』

 

 祟魔に近い丸太から跳躍すると同時に、どんどん力が増していくのを感じる。その勢いのまま、祟核目掛けて刀を突き刺そうと刀を振りかぶった。が、その直前で再び髪束が川の中から出てきてしまった。


「嘘だろ!? 10秒じゃなかったのかよ!」


 私は慌ててその場にあった足場へ乗り移り、祟魔から離れて体制を整える。

 

 再生時間が縮んでる……? やっぱり順応してきてるってわけか。


『次で絶対に仕留めるから、もう少し付き合ってくれ!』

『了解!』


 全員からの返事をもらうと同時に、河岸側にいるみんなはそれぞれ祓式を使って攻撃していく。一方の私はこの場は危ないと悟り、刀を鞘に納めて、一旦森林の方へと戻った。


 また、1からか……。まぁ、足場はまだあるから良いけど、あの暴れようじゃいつ足場が粉々にされてもおかしくないな……。それにみんな、切り傷やら打撲やらでそれなりに負傷してるから、なるべく早く終わらせないと、こっちが全滅しかねない。さて、どうするか……。

 

 頭の中で今後の動きを考えていると、先生から念話が入った。

 

『祈李、薫と熾蓮の祓式も強化したってくれ。2人ともだいぶ消耗してるからな』

『了解です!』

『ほな、ここからは俺も本格的に加勢しよか。秋葉、今度こそ10秒持たせたるさかい、君はいつでも祟核を浄化できるように準備しといてくれ』

『了解だ』

『みんな最後まで踏ん張れよ』


 先生は念話を切ると同時に、刀を抜刀、結界内全域に炎を纏った多数の弾丸が現れた。先生が祟魔に向かって走り出すと同時に、弾丸が祟魔目掛けて発射、みるみるうちに髪束が燃えていく。弾丸の嵐は私たち生徒に当たらないように上手くコントロールされており、尚且つ収まる気配が一切ない。


「す、すげぇ……」


 これが明級代報者の力か……凄いを通り越して、もはや怖いな。おっと、感動してる場合じゃない。さーて、それじゃあこっちもそろそろ動くとしますか。


 再び祟魔に近づくため、気配を完全に断ち、祓力で足を最大限まで強化。猛スピードで雑木林を抜けると、一気に丸太を蹴って抜刀し、桜を刀に纏わせて浄化に入るタイミングを見極める。すると、髪束が川の中に入った。


「今や!」「今です!」「今だよ!」


 私は熾蓮たちの声を聞くと同時に、丸太を蹴り、祟核目掛けて刀を突き刺す。その瞬間、祟魔が耳をつんざくような叫び声を上げた。ほぼゼロ距離にいるので、鼓膜が破れそうになるが、それを気にしている暇はない。


「はぁぁあああああ‼」

 

 私は刀に最大限の祓力を込めて浄化を図る。すると、祟核の周りにあった靄が消え、祟魔の本体が光出した。結界内にいる全員が思わず目を瞑る。次に目を開けると、そこにはさっきまでの凶暴な祟魔ではなく、1人の黒髪長髪の少女がいた。


「え……? ど、どういうこと?」


 私は目の前の状況に困惑の表情を浮かべるのだった。




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