第14社 無闇に設定を足すのは止そう

 そうして迎えた4月2日の入学式。私たち生徒は用意されたパイプ椅子に座って、今か今かと式が始まるのを待っていた。


「ふわぁぁ……。眠っ……」


 私はまだ式が始まってもいないうちに、大きな欠伸をかます。目には隈ができていた。とてもじゃないが、華々しい入学式で晒していい顔面ではない。

 

 でも、仕方ないじゃん。あの後、徹夜で悠から説明を受けたんだから。

 

 その悠は列の前方にいるのだが、うとうとしていたため巡回の先生に怒られている。

 

 ヤバい。ちゃんと起きよ。


 姿勢を正そうと、背筋を伸ばすと自分の横に気配を感じた。私は横目でチラリとソイツを見ると、小声で話しかける。

 

「で、なんであんたがいるの。エル」

『いや~、我が子の入学式だよ? そんなの見に来ないわけにはいかないでしょ』

「誰が私の保護者だ。唯のマスコットでしょうが」

『マスコット呼ばわりとは失礼な。ほら、そうこうしてるうちに式が始まるみたいだよ』


 エルはそう言い残して、どこかへ消えていった。私は改めて背筋を伸ばすと、壇上に上がってくる初老の女性に目を向ける。女性は演台の方まで行くと、凛とした声で話し始めた。


「皆さん、初めまして。既にご存じの方もおられるかとは思いますが、私が学園長の西園寺美和子です。本日は入学式にお越しくださり誠にありがとうございます」


 学園長はそう言うと、一礼してから再び喋りだす。


 あの人がこの大神学園の学園長なんだ……。なんか、どっかで見たことある気がするけど気のせいかな。にしてもだよ。なんでエルがこんなところにいるのかな。ちゃんと神社で留守番しといてって言ったんだけど……。


 何故、エルがこの場にいるのか。それは悠からこの学園についての説明を受けているときだった。


 ◇◆◇◆


『それで、この学園っていうのが、代報者を育成するための学校で……。って話聞いてる?』

『い、いや。なんかさっきからスーツケースが微妙に動いてる気がして……』

『はぁ? そんなわけ……ってホントだ』

 

 私がスーツケースの方を指さすと、悠もそちらに顔を向ける。微妙に揺れているので、何かいるのだろうかと私たちは警戒する。

 私は悠と顔を見合わせると、ゆっくりスーツケースに近づいてみる。恐る恐るファスナーを開けると、中から何かが飛び出した。


『な、何⁉』


 私は悠の方を振り向くとさっきまでの警戒を解き、何してるんだという目でソイツを見る。


『――エル。何やってんの?』

『いや、秋葉の新しい住処がどんなところか気になってね』

『気になったじゃないっての。それで、神社の方は?』

『ん? あぁ、ボクの分身がやってくれてるよ』


 それを聞いた瞬間、私は溜息を吐きながら頭を抱えた。


 確かに、遊び心でエルの設定に分身能力足したけどさ……。いや、でもこれは私が悪いか。


 過去の自分の行いを悔やんでいると、困惑状態の悠が口を開いた。


『え、えーっと。秋葉の知り合い?』

『知り合いというより、保護者に近いかな』

『おーい。誰が保護者だ。まぁ、簡単に言うと私の神社に居候してる人外です』

『な、なるほど?』


 私は悠にエルのことを説明する。彼女は納得したような納得してないような表情を浮かべた。

 

 まぁ、仕方ないよね。かれこれ3年も一緒にいる私でさえ、エルが何なのか分かってないし。

 

 悠に同情する中、エルが悠に向かってこう言った。


『細かいことは置いておいて。これから秋葉のことをよろしくね』

『勿論です! えーっと、エルさん』

『何、保護者面してんの! あ、コイツのことは呼び捨てで全然良いからね』


 悠にそう言うと、エルのほっぺを掴んでぐいっと伸ばし始めるのだった。

 

 

 ◇◆◇◆



 と、まぁそんなことがあって、結局悠の説明が終わったのは午前4時だった。


 あれもこれも、エルが途中で邪魔してきたのが悪い。

 

 全ての責任をエルに擦り付けていると、学園長の挨拶が終わったのか、先生から立つように指示される。私たちは一度立ってお辞儀をすると、再び席に座った。

 

 まだ続くのか……。もう30分は経ったように思ってたんだけどな……。


 周囲に聞こえない程度でそっと息を吐くと、今度は来賓の人からの挨拶が始まった。


 到底偉い人の話を聞くほど私は真面目にはできてないので、昨日の振り返りを脳内で始める。


 確か世界には祟魔すいまと呼ばれる妖魔奇怪がいるらしく、私がクリスマスイブに遭遇したあの気持ち悪いのがそうらしい。

 そして、その祟魔を退治するのが、悠が昨日言っていた代報者と呼ばれる人たち。代報者は基本的に、神様からの依頼を受けて祟魔を退治するらしいんだけど、本当に神様なんているのかな……と、宮司にあるまじきことを思ってしまい、払拭するように首を横に振った。少し話がズレてしまったが、その代報者たちを育成する機関がここ、大神学園というわけだ。ここまででも、ややこしいというのに悠の説明には更に続きがあった。

 

 と、どうやら振り返っているうちに入学式が終わったようだ。この後は教室へ移動することになっているので、私は取り敢えず、前の人についていくことにした。

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