第26社 高所からの着地において回転は大事
4時間目が終わり、休み時間。試練場のベンチに座りながら、缶コーヒー片手に1枚の紙に記入していた。悠も同様にアンケートに記入していっている。
自分の扱う武器をこの中から選べって書いてあるけど、私の場合やっぱり日本刀だよね?
日本刀とアンケートの記入欄に書いていく。それにしてもだ。
「パルクールを毎日のようにやるとか、心臓持たねぇっての」
「それはそう。それにしても熾蓮、凄かったね」
「だよな~」
それは遡ること30分前のことだった。
◇◆◇◆
『ほな。次の人~』
『ちょっと待てーな』
トップバッターである詞貴の番が終わり、織部先生が次の人に来るように呼び掛けていると、私の後ろにいた熾蓮さんが手を挙げてストップをかけた。
『なんや熾蓮?』
『いきなりやるより、やっぱりお手本見せた方がええんとちゃう?』
『ほー、ならお前がやってくれるんか?』
『おん。任せてーな』
え? いや、ちょっと⁉ 流石に無理じゃない⁉ ここ4階だよ⁉ 詞貴のときはギリギリなんとかなったんだろうけど……。てか、先生も無茶ぶりしてる場合じゃないって。熾蓮さんが入学したての1年生だってこと忘れてないよね?
『ま、ひとまず見といてぇな』
私を含めた生徒全員が心配そうに熾蓮さんの方を見る。だが、熾蓮さん本人は自信があるようで、笑みを浮かべていた。先生が熾蓮さんにルールを軽く説明をする。どうやら、この場では詞貴のやったように地面に着地すればいいらしい。
熾蓮さんは織部先生の話を聞き終わると、軽く助走してから何の躊躇もなく、屋上の縁を蹴って空中で1回転した。その勢いのまま、熾蓮さんは重力に従って真下にいる詞貴の傍に着地する。その様子を見ていた屋上にいる面々は歓声を上げた。
『す、凄い……!』
『本当にやりやがった……』
悠と私が屋上から下の様子を見ていると、熾蓮さんはビルの傍に立っている塀や電柱、ビルの窓辺にある狭い足場などを使ってこちらに戻って来た。それと同時に詞貴の姿も消えている。多分、階段を使ってこちらに戻ってくるのだろう。熾蓮さんは詞貴が屋上に戻ってきたのを確認すると、解説をし始める。
『解説っと言ってもそんな大したことないんやけどな。助走つけて空中で1回転すればいい話やし。まぁ、回転せぇへんかったら着地するときに足が痛くなるから、ポイントとしてはそこかな』
『祓力とその回転がなかったら、粉砕骨折する羽目になるからそれだけは覚えとけよ~』
『は、はい』
粉砕骨折って怖すぎでしょ……。回転は大事ってことだけは絶対覚えとこ。
◇◆◇◆
「さてと、授業始まるしそろそろ行きますか」
「だな」
缶コーヒーをベンチ横のごみ箱に捨てると、私たちは4時間目の授業場所となる体育館っぽい建物へと向かった。この建物は主に武器の扱いや体術を鍛えるための場所で、修練場と呼ばれている。
授業初めの挨拶が終わってその場に座ると、見知らぬ女性が織部先生の隣にいることに気がついた。彼女は薄紫のツインテールで左目がメカクレの髪型をしており、瞳の色は綺麗な赤色だ。
「こっからは俺ともう1人の先生で進めていくで」
「あたしは
「よろしくお願いします!」
美杜先生の挨拶が終わると、みんな一斉に頭を下げる。すると、詞貴が疑問を口にした。
「にしても、なんで2年の先生が1年の授業に?」
「教える側の人数が足りないからって、助っ人としてコイツに呼ばれたのよ」
「あはは……すまんな」
美杜先生は、織部先生の方を指さしながらそう答える。その表情には微かに怒りが含まれているのは気のせいじゃないだろう。織部先生は軽く謝ると、今回の授業の説明に入る。
話を聞くに、今回はいくつかのグループに分かれてやるらしい。理由としては、扱う武器によって教え方が変わってくるからだそうだ。事前のアンケートの情報から組み分けはされているらしいので、自分の該当するクループの方へ向かう。クループには熾蓮さんや薫さん、美澪などクラスの3分の1の人たちがいた。
5時間目は体術と武器を扱い方を学ぶ授業だったよね。私の武器は日本刀だけど、誰に教えてもらうんだろ……。やっぱり織部先生かな?
そう考えていると、織部先生がやってきた。
「ほんなら、ここのグループは薫に教えてもらい」
「へ? わ、私ですか⁉」
はい⁉ 先生じゃないの⁉
私を含めたグループ全員が驚きの表情を浮かべながら、一斉に薫の方を見る。
「君、剣術やってるやろ?」
「えっ、そ、そうですけど……」
「さっきも言うたけど、教える人数が足らんからな。急やけどよろしく頼むで~」
「わ、分かりました……」
織部先生はそう言うと、違うグループの方に行ってしまった。
薫さん大丈夫かな……。
心配そうな目で薫さんを見つめる中、本人は困ったような表情を浮かべていた。
そりゃそうでしょ。無茶ぶりにもほどがあるよ先生……。
「やってるからって、教えられるわけじゃないんだけどな……。まぁ、取り敢えずやってみようか」
「は、はい」
こうして始まった薫の指導は、正直言ってスパルタ以外の何ものでもなかった。後、習っていて分かったことなのだが、薫は女性だった。
「し、死ぬかと思った……」
「はい、お疲れ様」
「ありがとな薫」
私、こんな調子で耐えられるのかな……。
薫から受け取ったスポーツドリンクの蓋を開けると、一気に飲み始めた。
――――――――――――
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