第27社 異能力は発現しただけで扱えるものではないと知れ
薫の地獄のスパルタ稽古から約2週間。日々の実習訓練で疲れている中、私と悠は試練場Aに向かっていた。
「初任務まで今日含めて6日か……」
「分かる。マジで実感湧かないんだけど……」
そもそも、初任務なるものがどういう感じに進むのかも知らされてないからな……。もうちょっと早めに情報出してほしいんだよね。
学園側に対しての愚痴を言いながら、私は試練場Aの扉を開ける。だが、中には人の気配はない。試練場に立てかけてある時計を見ると夜9時を回っていた。
まぁ、こんな時間帯だし流石に誰もいないか。
私たちはそのまま、修練場へと入って、利用者名簿に名前を記入する。基本、修練場を含めた試練場では、授業以外で利用する際には名前を書かなければならないという決まりがあるのだ。
さて、みんなはある程度、祓式をコントロールできるようになってるけど、私は自分の祓式が判明してから一週間しか経ってないから、完全に出遅れてる。その遅れを取り戻すために、悠を道連れにして修練場へとやって来たわけだけど……。
「どういう方法でコントロールしたら良いのやら……」
「あたしに聞かれても……。取り敢えず、実戦あるのみじゃない?」
「それもそうだね」
『紅桜』に憑依すると、さっそく修練場に設置されている環境設定ができる液晶パネルを操作する。この修練場も模擬演習ルーム同様、祟魔との模擬戦闘が可能になっている部屋があるのだ。
えっと、取り敢えず慣らしで1体にしておくか。祟魔の階級はどうしようかな。ま、1番低い
「おーい、どっちが先にやる?」
「んー、じゃんけんで決めよ。勝った方が先ね」
「分かった。それじゃあ、じゃんけん――」
というわけで、じゃんけん結果は私が負けて、悠が勝った。
なんか最近、自分じゃんけん弱くない? この前、冷蔵庫にあったアイスを賭けて悠とじゃんけんしたんだけど、その時も負けたんだよね……。まぁ、今はそんなことどうでもいい。
悠は修練場の中にあるガラス張りの部屋へ入った。部屋がガラス張りになっているおかげで、外からでも中の様子を確認できるようになっている。私は悠がスタート地点に立ったことを確認してから、部屋の中にいる彼女へ声をかける。
「準備は良いか?」
「いつでも大丈夫ー!」
「よし、なら」
液晶パネルに表示されている開始ボタンを押すと、悠のいる部屋に大型犬の祟魔が1体現れる。制限時間は1分。その時間に倒せれば合格。倒せなかった場合は失格となる。と言っても、試験じゃないから合格も失格も関係ないんだけど。
悠は開始のブザーがなったと同時に祟魔に向かって走り出す。祟魔との距離が5メートルほどになった瞬間、床から数本のツルが生え、逃げる猶予を与えずに祟魔を束縛。そのまま懐から出したナイフで祟魔を始末した。
「はい。お疲れ~」
「っと。どうだった?」
悠が投げたナイフを拾ってこちらに戻ってきた。
んー、どうだったか、ねぇ……。
軽く頭の中でさっきの戦闘を振り返る。
「すぐに祟魔を拘束して、仕留めたのは良かったな。祓式の扱いにも慣れてるようには見える。けど、祟魔が1体だけとは限らないから、その時にどう対処するか考えないと。後は、祟魔の拘束に失敗した際の次の行動も考えておくと良いかもしれねぇな」
「ふむふむ。やっぱりそこだよね。ありがと!」
さてと、今度は私の番か。訓練で何度か模擬戦はやったけど、上手くいってないんだよね。刀の扱いはともかく、『紅桜』の能力の方がさ。『紅桜』の能力は桜と紅葉を出現させて操る能力で、桜は攻撃、紅葉は盾の役割を担ってる。でも、今のところ桜と紅葉の操作が上手くいってないかんだよね……。んー、どうしたものか。
「ま、取り敢えずやってみるとするか」
うじうじ考えても仕方ない。
私は悠と交代でガラス張りの部屋の中に入る。祟魔の数や階級はさっきと同じなので、敵は1体。でも、能力のコントロールを極めたいから、刀は使わないでおこう。そう決めると、部屋の外にいる悠へ声をかけた。
「悠ー、準備できたぞー」
「はーい。そんじゃポチッとな」
悠が開始ボタンを押すと、部屋の中に先ほどと同じ形の祟魔が1体現れる。
さて、どうしようかな。刀が使えないとなったら……。
大型犬の祟魔がこちらに向かって突進してくる。直前でそれを横に交わすと、祟魔は再度方向転換してから、襲い掛かってきた。私は瞬時に手を横にスライドさせて、紅葉で攻撃を防ぐと、一旦距離を取る。
よし、ちゃんと扱えてるな。それじゃあ、お次はっと。
床を蹴って一気に祟魔との距離を詰め、今度は自分の周りに桜の花弁を出現させて攻撃に入る。祟魔の方に向かって手を横に振ると、大量の花弁でできたカッターが祟魔の方へ飛んでいった。祟魔は攻撃を交わしきる間もなく、刃物のように鋭い花弁に殺られていく。かに思えたが、祟魔に当たった瞬間、花弁は飛散して消えていった。
「う、嘘だろ……」
自分の攻撃が入っていないことがショックで、唖然としてしまう。すると、私の動きが止まっているのを見た悠がマイク越しに言ってきた。
『時間なくなるよー、秋葉。もう刀使っちゃいなー』
「あ゛ー、もう!」
タイムリミットを見ると、残り10秒を切っていた。悠にアナウンスされる間にも、祟魔は再度こちらに突進してくる。私は半ばやけくそで刀を抜き、こちらに向かってくる祟魔に斬りかかった。上手く攻撃が入ったようで、祟魔は斬られると同時に黒い靄となって消えていく。それを確認すると、私は刀を鞘に仕舞って部屋から出た。
「やっぱりダメだったか……」
「紅葉の方は成功してたのにね」
「んー、何が原因だろうな」
やっぱり硬度かな……。祟魔に当たった瞬間散っていったし……。でも、紅葉の硬度は足りてたから、原因は硬さじゃないのかも。んー、分かんないな。
祓式を解きながら、そう思っていると、後ろの方から声がかかった。
「あなたたち、こんな時間まで何やってるの?」
私と悠がバッと振り返ると、茶髪ロングで黒のリボンをつけた蒼眼の少女が入り口の扉に寄りかかりながら、こちらをじっと見ていた。
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