第28社 スパルタって怖いね(n回目)
「あなたたち、こんな時間まで何やってるの?」
私と悠がバッと振り返ると、茶髪ロングで黒のリボンをつけた蒼眼の少女が入り口の扉に寄りかかりながら、こちらをじっと見ていた。少女の口ぶり的に先輩だろうか。私は少女に向かって恐る恐る話し出す。
「れ、練習ですよ、祓式の。もしかして、やっちゃダメでした?」
「いいえ。ただ、消灯時間までには戻りなさいよ」
「は、はい」
消灯時間? あ、そういやそんなのあったな。確か23時だっけ? それまでには戻らないと。寮長怖いからな……。
そう思っていると、少女からの視線をものすごく感じた。私は顔を上げて、思わず少女を方を見る。
「な、何か?」
「……」
話しかけても、少女は黙ったままこちらを見続けている。
何だこの状況……。用があるんならさっさと言ってくれないかな……。こっちは練習したいんだけど……。
悠と顔を見合わせる。すると、悠が自信なさげに呟いた。
「もしかして、秋葉の知り合い……?」
「はぁ!? ないない! こんな綺麗な人と知り合ってたら流石に覚えてるって!」
ほら、まるでお人形さんみたいに綺麗な容姿してるんだよ? 茶髪ロングに蒼眼で白のカチューシャつけてるとか、良いところのお嬢様かそれこそ漫画の世界でしか見たことないんだけど。それに、そんな人1度会ったら忘れられるわけないって。
「……あなた、私のこと覚えてないの?」
「えっ……。はい、知りませんけど……」
「あなたのお母さんの葬儀のときに、1度会ってるはずよ」
いや、誰だ……。お母さんの葬式なんて何年前だと思ってるんだよ……。もうかれこれ8年以上前の話じゃん。そんなの覚えてるわけ――ん? 待てよ。 確かおばあちゃんと一緒にいたとき、話しかけられたような気が……。んーっと、困ったことがあったら遠慮なく言って、とかそういうこと言ってたような.……。
「あ、もしかして、確か
「そう。そのとき、両親にくっついて秋葉の方を見てたのが私。あなたとは遠縁だけど血縁関係になるのよ」
「そういうことね。それで、下の名前ってなんだったっけ?」
「結局忘れてるんかい!」
悠から鋭いツッコミが入る。
いや、だって最後に会ったのって8年以上前だよ? 短期記憶には自信あるけど、そんな幼い頃のことなんか忘れてるよ普通。だって、小学生のときのクラスメイトの名前だって、頭の中から消えかかってるんだから。
「全く、仕方ないわね。私は
「え、合ってますけど……。なんであたしの名前……」
「修練場の利用者名簿を見たのよ。ここ、授業以外で使うときには名前書かなきゃいけないから」
「あ、そっか」
悠は納得したような表情を浮かべる。そういえば、ここに入る際、名簿に記入したけど初音の名前も上の方にあったな。ってことは、初音も自主練なのかな?
「というわけでこれからよろしくね。2人とも」
「よろしく~」
「よろしく」
見たところ真面目で良い子ちゃんっぽいから、消灯時間までには戻るんだろうな~。ってなると、私とは正反対か……。そう思いながら問いかける。
「それで、初音はもう帰るの?」
「……そうしたいところだったけど、あなたの祓式のコントロールがなってないから私が教えてあげるわ」
「え、良いの?」
「まぁ、見た感じ私の祓式と似ているようだし」
「へぇ~、そうなんだ。やっぱり血縁関係だから祓式も似るのかな?」
ほら、よくあるじゃん。能力ものの漫画とかで家系が近いと能力が似るとかさ。ってことは桜葉家も花弁とか操る系なのかな? てか、私が戦ってるところ見られてたの⁉ うわっ恥ずかし~。
「そういう訳ではないわよ。現に私とあなたの家系じゃ系統が違うもの」
「えっと、初音はどこの神社出身だっけ?」
「私は浅間大社よ。今は諸事情でこっちに来てるだけ。お盆の集まりとかのときは戻らないといけないけれどね」
となると、単なる偶然か。浅間大社って富士山の麓にある神社だよね。ってことは、静岡県からわざわざこっちに来てるってこと!? いやはや、ご苦労様です……。ま、そんなことは置いておいて。
「ご教授よろしくお願いします!」
「えぇ。あまり時間もないからてきぱき行くわよ」
「勿論、あたしも手伝うからね!」
「2人ともありがとう~!」
そこから消灯時間が来るまで初音に桜の操り方を教わった。教えてもらう過程で分かったのだが、初音の祓式はどうやら桜の花弁を操るらしい。多分、浅間大社の神様が桜の神様である
消灯時間ギリギリまで、教わっていたせいで寮室に戻ったのは結局23時だった。
「はぁ……大神の人たちってスパルタしかいないの⁉」
「まぁ、そもそもが実力主義だからね。仕方ないって」
「とにかく明日に備えて今日のところは寝よう」
明日の準備を終えると、ベッドに潜る。疲れが溜まっていたのか、ものの数分で意識を飛ばすのだった。
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