第29社 物事はテンプレ通りに行くとは限らない
時は流れて模擬訓練最終日。今日が終わればこのキツい訓練からも解放されるから、もうひと踏ん張りだ。
帰ったら思いっきり寝てやる。絶対。
昨日遅くまで修練場に籠って初音の指導を受けていたので、寝不足の目を擦りながら織部先生の話に耳を傾ける。
「今日でこの模擬訓練も最後や。そこで、初回の訓練の時にも言うてたとおり、実技テストを行う」
そういや、先生そんな話してたな……。でも、実技テストって何するんだろ……。やっぱり模擬戦闘とか? いや、あの大神だぞ……。何にも知らされないまま、突然パルクールとかやらされたしな。もしかしたら斜め上かそれ以上のテスト内容かもしれない……。
「まぁ、テスト内容は言葉で説明するより、実際に見てもらった方が早いやろ。ってなわけやから、少し移動するで~」
先生が移動し始めると、私たち生徒は祓力を身に纏ってから後に続く。
やっぱり嫌な予感しかしない……。だって、この道って模擬演習ルームに続く道だし。
道中の道をショートカットしながら進むと、私の予想通り模擬演習ルームへ着いた。最後尾の私が地面に着地すると、先生が話し始める。
「実技テストの場所はここ、模擬演習ルームや。知っての通り、実際の市街地に見立てた日本家屋やらビルやらが立ち並んどる。テストの合格ラインは、この市街地に潜む祟魔を制限時間内に見つけ出して、始末すること。ま、もし不合格になっても退学とかにはなったりせえへんから、安心しぃ」
よ、良かった……。不合格で退学になったりしたらここに入った意味がなくなっちゃう。にしても、こんなだだっ広い市街地の中、祟魔を探し出すなんて、索敵スキルとかない限り無理じゃない? 流石に場所とか限定して欲しいんだけど。
目の前の市街地を見ながら考え込んでいると、隣にいた悠が手を挙げた。
「先生ー。祟魔の数と制限時間は?」
「祟魔の数は全部で3体。階級は烈と荒や。制限時間はそうやな……5分でええやろ」
時間決めてなかったんかい。ちなみ
「後は、流石にこのだだっ広い中、探し回るのも酷やろうし、目の前にある高いビルから半径300メートル以内に祟魔は居るとだけ言っとこか」
ってことは、5分以内に半径300メートルのどこかにいる祟魔を探し出せってことか……。いや、普通に難しくない!? さっきも言ったけど、索敵スキルがなかったらこんなのクリアできないよ? まぁ、まだ範囲が絞られただけマシか……。
「ほな、時間もないからさっさとやってくで~」
というわけで、実技テストがスタートした。勿論、順番は出席番号が1番初めの詞貴から――
「――今回は後ろの方から行こか」
「……はい?」
いや、ちょっと待って!? おかしくないですか先生!? なんで今日に限って後ろからなの。まぁ、いつも1番からだし、詞貴が可哀想なのは分かるけどさ。別に今日じゃなくても良くない⁉私、後ろから数えて4番目なんですけど……。はぁ~、終わった。てか、詞貴のやつガッツポーズしてるし。マジでムカつく。
「ま、頑張ってね~」
「悠の裏切り者……」
悠が満面の笑顔で手を振りながらこちらを見てくる。
悠は中間だから良いよね~。帰ったら一言言ってやろ。
ぶつくさ言っている間にもテスト開始から15分が経過し、ついに私の番となった。
こうなったら意地でも合格してやる。
さっそく祓力を発動させて、先生とのパスをつなぐ。すると、先生が念話越しに話しかけてきた。
『準備はええか?』
「はい、いつでも大丈夫です」
開始の合図が鳴ると同時に、『紅桜』に憑依して走り出す。祟魔は全部で3体。気配からしてあのビルの中にいるのは間違いないだろう。ビルまでの距離を縮めるために、地面を思いっきり蹴って建物の屋根に飛び移る。そのまま、パルクールの要領で建物の間を跳躍しながら進んでいくと、非常階段の窓からビルの中に入った。
ふむ、ここは3階か。さて、敵さんはどこにいらっしゃるのかな~。
神経を研ぎ澄ませて、敵の気配を探る。先生によれば、祟魔には
下の踊り場の方に祟痕を発見すると、刀を抜いて一気に斬りかかる。突然襲い掛かって来たことに驚いたのか、祟魔はあっさりと殺られて消えていった。
まずは1体目っと。んー、この分だと下の方に居そうだな。
そのまま地下へと続く階段を降りていく。すると、その道中にも祟魔が1体のろのろと歩いているのを発見した。
この様子だと、接近しなくても何とかなりそうだな。
祟魔をカッターで切り裂くような感じをイメージすると、カッター上の花弁が現れて、後ろから祟魔を真っ二つに切り裂いた。
はい、これで2体目。桜の方も上手く使えてるな。
現在時刻は13時43分。後、2分でテストが終わるため、それまでに後もう1体を見つけ出して倒さなければならない。
倒した2体の祟魔の強さから見るに、残るは烈か。早く探し出さないと。
非常階段の手すりに足をかけて、そのまま手すりの上を滑って下の階へ降りていく。少しすると、最下層の方から気配を感じた。最下層まで一気に降りると、非常扉を開けて警戒しながら中に入る。けど、祟魔はどこにも見当たらない。部屋の中は殺風景と感じるほど物がなく、とても隠れられるスペースはないように思えた。
……いない。どこかに隠れた? いや、でも隠れる場所なんてないしな……。
辺りを見回してみるが、祟魔らしき影は見当たらない。私は持っている刀を強く握りしめる。
早くしないと、時間なくなっちゃうじゃん。
内心焦り始めたその瞬間、自分の真上から何か糸が垂れているのに気づく。まさかと思い、見上げてみると、そこには案の定、蜘蛛型の祟魔がいた。
「ぎゃぁああー‼」
私が叫び声をあげると同時に、祟魔が糸を吐いて拘束しようとしてきた。咄嗟に自分の身を守るようにして紅葉を展開する。攻撃を防ぎ終わると、一旦距離を取るために祟魔から離れる。
ちょっと待って。どうしたら良いの……。刀で斬るか。それとも桜で距離を取りながら祓うか。いや、絶対に近づきたくないからやっぱりここは――
『ブー!』
悩んでいるうちに時間が来てしまったようで、部屋中にテスト終了のブザーが鳴り響く。それと同時に蜘蛛型の祟魔も消滅した。私は終わったのを確認して、祓式を解く。すると、織部先生が念話で話し始めた。
『はい、お疲れさん』
『ありがとうございます。じゃなくて! 私、蜘蛛というか虫全般苦手なんですけど!? 先生それ知ってましたよね? いくら何でも悪質すぎません⁉』
『まぁまぁ文句は後で聞くさかい、はよ戻ってきぃ。後がつかえる』
『わ、分かりました……』
オリエンテーションの後に配られた自己紹介用紙の苦手なところに、ちゃんと虫全般って書いてあったんだけどな……。
刀を鞘に納めると、来た道を戻るために部屋から出るのだった。
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