第4社 楽しい楽しい創作のお時間だよ!

「ところでさ、エルって靄のままだけど実体ってないの?」


 私はいつまで経っても靄のままのエルに問いかける。


『明確な姿はないね。そもそもが実体を持たない思念体だから、当然っちゃ当然なんだけど。ちなみに他の神様もそうだったりしなくもなくもない』

「へぇ~、ってどっちだよ」

『あ、もしかして創ってくれるの?』

「いや、なんでそうなるの。てか、私にそんな能力無いし」


 そんな能力あったら、今頃この家には創作キャラが大量だっての。まぁ、そんなこと私にはできないから――


『大丈夫! さっきも言ったけど、ボクって神様だから大抵のことならできるよ。んー、そうだな。なら、設定書いてくれない?』

「設定? なんでよ?」

「実体化するために必要だからさ。何もないところからは生み出すのって、結構大変なんだよ。容姿だけでも良いからさ」


 と、言われてもな……。まぁ、設定だけならできなくもないけど、絵はね……。


「いや私、絵描けないし」

「大丈夫大丈夫。文章だけくれたら後はこっちでやるし」

「ふむ。そういうことなら、やってみますか」

「やったー!」


 って、なんで私が創作してること知ってるんだろ。まぁ、神様だし知っててもおかしくないか。


 さっそく、制服から普段着である上下黒のジャージに着替える。


 宿題は……まぁ、後回しでもいっか。

 

 自室の椅子に座ると、さっそくパソコンを開ける。


 このパソコン起動に3分もかかるオンボロだからな……。お母さんの代から使ってるから仕方ないんだけど。っと、エルに訊いときたいことがあるんだった。


「エルはさ、どんな容姿が良い?」

「んー、そうだね。動きやすいのが良いかな」

「ふむふむ」


 動きやすいか……。となると、小柄な方が良いよね。小柄と言ったらミニキャラか。いや、マスコットみたいに可愛いのも良いのでは?


「他には?」

「んー、そうだね……。ボクは秋葉がどんな設定を作るのか興味あるし、そっちの好きなようにしてかまわないよ」

「言ったな? なら、好きなようにさせてもらうよ」


 だったら、まずはっと……。


 どんな設定にしようかあれこれ考えていたら、パソコンが起動した。すぐさまログインして、設定資料のファイルを開ける。

 

 すると、エルが興味深そうな声で話し始めた。

 

『へぇ~、結構キャラクター作ってるんだね』

「まぁね。小さい頃は外に出ちゃ駄目だったから、その分お母さんがアニメとかゲーム機を持ってきてくれたんだよ。んで、そこから次第に創作へ発展していったってわけ」

『なるほど。そういうことか』

「さてと、どんどん練っていきますよ~」


 まずは、簡易的なキャラテンプレを引っ張ってきてっと。んで、次に名前を入力したら、お次は――

 

 黙々とエルの設定を打ち込んでいく。普段、こういうのは1人でやってるから誰かの視線を感じると緊張するな……。いや、エルは今、靄の状態なんだけど、感じるんだよね。なんか。


 設定を練り始めてから30分が経過した頃。エンターキーを押して、設定を完成させた私は、軽く伸びをする。


「はい、できた!」

『お疲れ様~』

「はぁ……。我ながら結構凝ってしまったな……」

『見てもいいかい?』

「良いよ~」

 

 パソコンの画面をエルのいるであろう方向へ向けた。私はエルが見ている間に、箒を洗面所へ片付けに行こうと席を立ち、部屋を出る。


「これでよし。何気に自分の書いた設定を他人に見せるの初めてだから緊張するな~。って、人じゃないから他人って言い方はおかしいか」


 箒を仕舞い終わると、独り言を呟きながら自室へ戻る。エルはどんな反応をするのかな~、とわくわくしながら、扉を開けようとドアノブに手をかける。すると、身体から一瞬力が抜けたような感覚に陥った。

 

 ん? なんだ今の……。ま、いっか。今はエルの反応をいち早くみたいから、さっさと入ろ。


 ドアノブを捻って、扉を開ける。

 

「どうだった? 私の作った設定は――って、おぉ~⁉」

『ふふん、どうかな?』


 目の前には、先ほどエルに見せたとおりの姿をした物体があった。紫眼で白狼の胴体に烏の羽をつけており、ふわふわと空中を浮いている。分かりやすく言うなら、某幼女向けアニメの妖精みたいな感じだ。私は、初めて自分の作った設定が目の前に実体化しているのを見て、はしゃぎ始める。


「え、凄っ! めちゃくちゃ可愛い~! マジで私の想像したとおりじゃん!」

「へへん! 凄いでしょ!」

「それで動きやすさ的にはどうかな?」

「空飛べるし、小柄だからちょうどいいね」


 エルはそう言いながら、自室を縦横無尽に飛び回る。実体化したからか、普通に喋れてるし、これからは頭の中に声が響くなんて、摩訶不思議な現象も起こらないでしょ。あれ結構集中力いるから疲れるんだよね。

 

 エルを目で追いながら、軽く説明を加え始める。


「狼の姿は北桜神社の神使、翼は日本神話の八咫烏から。んで、目の色は神だから高貴な色の紫にしてみた」

「なるほどね! いや~、気に入ったよ。ありがとう」

 

 エルはそう言うと、私の肩に乗った。体重設定は1キログラムにしてあるからそんなに重くはない。どこかのピ〇チュウよりかは全然マシだ。

 これでエルの設定も完了したので、創作の設定の続きをしようと椅子に座る。何か忘れてる気がするけど、まぁ良いや。私は自分の好きなことをして生きていくタイプの人間だからね。


 ◇◆◇◆


 周りがやけに騒がしい。授業中のくせになんで、こんなにうるさいんだろ……。


 意地でも起きてやるものかと、眠る体勢を維持していたら、間近から声が聞こえてきた。

 

「おーい、起きろ~」

「もう昼休み始まってるよ~」

「ん……。ん?」


 眠りから覚めて、机から顔を上げると、目の前には2人の女子生徒の姿が。

 寝起きでぼんやりとしていた私は、頭にはてなマークを浮かべるのだった。


――――――――――――

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