第3社 家に帰ったらなんかヤバいのに絡まれました

「それで、話って何? てか、どこから喋ってるか全く分かんないだけど」


 持っていた箒を床に下ろして、何処にいるのかも分からない声の主にそう言う。すると、再び頭の中に声が響いてきた。

 

『よーく目を凝らせば分かると思うよ。クローゼットの方』


 言われた通り、目を凝らしながらクローゼットの方を見つめる。

 んー、見えるような見えないような……。あ、もしかして……アレ?


「あ、なんか靄みたいなやつ?」

『そうそれ』

「ふーん。それで、あんた誰?」


 そう訊くと、声の主は少し間をあけてこう言った。


『んー、そうだね。分かりやすく言うなら神様かな』


 はぁ? 大体、神様なんてこの世にいるわけ……。いや、それ言ったら流石に神社の娘としてマズいか。

 

 考えを改めると、神様とやらに向かって口を開く。

 

「なるほど。それで、自称・神様なあんたが何の用? こっちは色々と忙しいんだけど……」

『いや~、案外神ってのも暇なもんでね? 試しに現世へ降りてみたら、君が独りで寂しそうにしてたから、暇つぶしに声掛けてあげたってわけ。まあ、簡単に言ったら話し相手が欲しいのさ』

 

 上から目線で語る自称・神様にイラつき始める。

 

 早くおじさんに今後のこと相談したいのに、こんな訳も分からない奴にかまってる暇なんてないし。って――

 

「暇つぶしだぁ? そんな名前も知らない、靄だけのあんたに付き合わされる筋合いないですけど⁉」

『うわ、口悪っ! 神に向かってその態度はどうなんだい?』

「知・る・か! 大体、なんで私なの?」


 なんで、わざわざ私に絡んできたのかよく分からないし、1人で寂しそうにしてたから声かけてあげたってどんだけ上から目線なんだか。私にはね、創作という素晴らしいものがあるから寂しくなんか――

 

 内心で毒づいていると、自称・神様が話し始めた。


『え~、絡みやすそうだったから。後、何より今のボクを認知できるのは君ぐらいしかいないからね』

「あー、そう。認知とかそういう細かいことはよく分かんないけど、あんたが凄いムカつくヤツってことは分かった」

『酷いねっ⁉』

「暇つぶしに声かけてくる時点でムカつくの。こっちは、やらなきゃいけないことがたくさんあるから忙しいってのに……」

『そのやらなきゃいけないことって?』

「これからのことだよ。家事から神社の整備から、何から何まで1人でやらなきゃいけないの。ほら、うちの家って神社だから」


 幸い、家賃とか学費とかはおじさんが出してくれるらしいけど、いつまでも頼ってばっかりじゃアレだし。できることはやっときたいから。遊んでる暇なんて私にはない。ま、創作は別だけどね。

 そう考えていると、自称・神様がまた喋りだした。

 

『んー、なるほど。それなら尚更ボクが必要になってくるんじゃないかな?』

「なんでよ?」

『ほら、ボクってこれでも神だし。大抵のことは解決できちゃうけど?』


 ほーん。ということは、何から何までやってくれる便利なヤツってことか。それなら利用しない手はないな。

 

 すると、また自称・神様が口を挟んできた。

 

『なんか失礼なこと考えてるでしょ?』

「いや、なんでも。そういうことなら話し相手ぐらいにはなってあげても良いよ。但し、色々と手伝ってもらうからね?」

『勿論。それじゃあ契約成立ってことで、これからよろしくね』

「よろしく~」


 まぁ、神様と知り合いになれる機会なんてそうそう無いし。創作する上でも便利そうだからね。っと、重要なことを聞いてなかったや。


「そういや、あんた。名前は?」

『名前か。んー、呼び名なんかあったかな。ちょっと待ってね』


 自称・神様は黙ると、うんうん唸りながら考える素振りを見せる。

 

 にしても、こんな一軒家に1人なんて広すぎだよね。前まではおばあちゃんがいたからまだ良かったけど。まぁ、今日からはコイツがいるからまだマシか。

 そういえば、神様っていっても結構種類あるけど、どの国の神様なんだろ。んー、やっぱり――

 

『ふむ』

「あ、名前分かった?」


 私は興味深々な表情で、自称・神様に尋ねる。

 

『いや、特に呼び名なんてなかったよ』

「え、神なのに?」

『ま、名無しの神なんてそこら中に山ほど居るからね。せっかくだから君が付けてよ』

「え? まぁ良いけど。そんなに期待しないでよ」

 

 神様の名前か……。てか、神様にはみんな名前がついてるもんだと思ってたけど、そうでもないんだね。名無しってことは、私に話しかけてるコイツって神様の中でも下の方に位置するのかな?

 ま、そんなことは置いておいて。名前か……。ん? 確か前に調べものしてた時……。


「んー、そうだね。――エル」

『意味は?』

「セム語で神。あんたが自分で神様って言ってたから、それにちなんで。どう?」


 そう問いかけると、エルは満足そうな表情でこう言った。

 

『いいね。語呂も良いし、かっこいい! それで、君は?』

「――北桜秋葉。一応、この神社の宮司やってる。まぁ、他に継ぐ人がいないから仕方なくだけどね」

『なるほど。それじゃあ、秋葉。これからよろしく!』

「よろしく~」


 

 こうして、私と自称・神様なエルとの生活が始まった。

 

 

 

 

 

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