第22社 金髪エルフは至高なり
「はい、お疲れ~」
「ありがと……」
悠から缶ジュースを受け取ると、さっそく缶の蓋を開けて飲み始める。無事に初日の模擬訓練を終えて寮に戻った私は、椅子に座りながらパソコン画面を睨みつけていた。画面には舞衣が運営している身内のウェブサイトが映し出されている。舞衣の作ったサイトにはチャット機能だけではなく、私の創作資料や結奈の描いたイラストも載っているのだ。
サイト内を漁っていると、悠が話しかけてきた。
「なーにさっきから険しい顔してんの」
「いやね? 祓式の発動条件がまるで分からないから色々探ってるんだよ」
「へぇ、なるほどね。ってことは、秋葉の祓式が何か分かったわけ?」
「多分ね。織部先生の言う通りだったら、創作キャラを憑依させるらしい」
そう言うと、悠は何やら考え始める。
大体、本当に憑依で合ってるのかも分からないんじゃ、やっても意味なくない?
どんどんネガティブ思考に陥っていく。すると、悠が椅子に座りながらこちらをじーっと見てくる。
「ん? どしたの?」
「いや、秋葉の作った創作キャラって見てみたいな~って」
「良いよ。ちょっと待ってね」
「やった!」
創作キャラと書かれた項目をクリックすると、今まで練ってきたキャラクターが一覧となって表示された。悠はそれを見ると、おぉ~! と感嘆の声を漏らす。
「え、これ全部秋葉が?」
「そうだよ。することなかったから、適当に作ってたらこんな量になっちゃった」
確か、軽く100体は超えてたはず……。いやはや、我ながら凄いな~。
過去の自分の凄さに軽く驚きながら、悠に席を譲る。悠は私の席に座ると、スクロールしながら私の作ったキャラを見ていく。すると、悠がとあるキャラクター資料をクリックした。
「うわっ、凄い設定量だね……」
「まぁね。本気出せば2000文字は余裕で超えるから。確かイラストもあったはず……。ちょっと貸して」
「はい、どうぞ」
悠にマウスを渡されると、画像URLをクリックした。画面上にデカデカとイラストが表示される。そのイラストには金髪紫眼の少女が載っていた。髪をポニーテールに結っており、耳が尖っている。所謂エルフというやつだ。紫の盗賊衣装を纏い、両手に短剣を持っている。
えっと、この子は確かエルフ村の村長の娘で、勇者と共に魔王を倒す旅に出るんだけど――
イラストを見ながら、そのキャラの設定を思い返していく。
「この子、めちゃくちゃ可愛いね。って、ど、どしたのその恰好⁉」
悠が私の方を振り向いた瞬間、ぎょっとした表情を浮かべた。
いや私、何も変な恰好なんかしてないんですけど……。
腕を組みながら悠の言葉に眉を顰める。
「そんなに驚いた顔してどうしたのよ悠」
「いやいや、鏡見てみてよ! ほら早く!」
悠に言われるがまま、部屋の中にある全身鏡の方を見る。
「まったく、一体どこが変だっていうんだか――はぁ⁉」
自分の映った姿を見て、思わず大きな声を出してしまう。私の目線の先、つまり鏡には先ほど悠が見ていたイラストとそっくりな自分の姿が映っていた。
「い、いやいやいや! 嘘でしょ⁉」
「嘘じゃないって! ほら、その証拠に耳触ってみなよ」
悠に言われた通り、自分の耳を触ってみると、人間の耳とは思えないぐらいに尖っていた。それに、服装や髪の色、瞳の色までさっきのイラストの子とそっくりだ。
ちょ、ちょっと待って……。ということはだ。
「憑依成功……?」
「た、多分」
「ま、マジか……」
自分の姿とイラストのキャラクターを見比べる。容姿は勿論、短剣の模様まで一緒だ。試しに短剣を鞘から抜いて持ってみる。
案外重い……。ってことは、本当に憑依に成功しちゃった感じか。なんか、えらく現実味のないような気がするけど……。ま、取り敢えず。
「やったー!」
「良かったね、秋葉」
「うん! でも、なんで成功したのかしら……。模擬訓練中何度試しても憑依できなかったのに……」
「んー、それは後々考えれば良いんじゃない?」
「それもそうね」
へぇ~、これが自分の祓式か。なんかかっこいいな!
ウキウキしながら、その場で1回転した後に衣装の裾を触ってみたり、その場でジャンプしてみる。
ふむふむ。衣装もきちんと設定した材質通りか。それに身体もいつもより断然軽い。さて、後は――
「悠、冷蔵庫から食材取ってきてくれない?」
「え? あ、うん」
悠はそう言うと、冷蔵庫の中からかぼちゃを取り出して、持ってきてくれた。それを手に持つと、短剣を振りかざして捌いていく。
「おぉ~! 本当に切れた!」
「これで、この短剣がただの飾りじゃないってことが分かったわね」
切れたかぼちゃをお皿に乗せると、ラップにかけて冷蔵庫の方へ戻す。再び戻ってくると、悠が嬉しそうな表情でこちらを見てきた。
「それにしても、秋葉の祓式凄いね~」
「まさか、自分の作ったキャラを憑依させられるなんて、びっくりよ」
でも、これでみんなと同じ土俵に立てるから良かった。1人だけ置いてけぼりとか嫌だしね。それにしてもだ。
「これ憑依できたのは良いけど、どうやって戻るのかしら」
「あ、ホントだ」
「戻り方が分からないんだったら意味ないじゃない!」
部屋中に憑依したキャラの声が響き渡るのだった。
――――――――――――
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