第23社 授業中の内職はほどほどに

「おはよ~、秋葉」

「あ、美澪。おはよ……」


 自分の席について通学鞄を机の上に置くと、隣の席の美澪が挨拶してきた。私は消えかかりそうな声で挨拶する。


「元気ないけどどうしたの?」

「いや~、昨日色々あって寝不足でさ」

「な、なるほどね」


 昨日は午前2時まで、憑依から戻る方法探してたんだよね……。明日学校だから結局憑依したまま寝たんだけど、朝起きたら元に戻ってたし。先生来たら解除の方法教えてもらお。


 そう思いながら、机の引き出しに教科書やらノートやらを詰め込んでいると、織部先生がやってきた。

 

「秋葉ー、先生来たから行こっ」

「オッケー」


 悠と合流すると、先生の元へ向かった。さっそく先生に昨日憑依できたことを報告する。


「おぉ! そうかそうか。そら良かったわ。ほな、この場で見せてくれへんか?」

「え゛っ……」

 

 こ、ここで⁉ く、クラスのみんなが見てる中でやれと⁉ そんな恥ずかしい真似できるかッ!

 

 先生の言葉に動揺しまくる。だが、ここで憑依しないと祓式を扱える証明にはならない。


 し、仕方ない。ここは腹を括って……!


 そう思うと、昨日のイラストを脳裏に浮かべながら念じる。すると、私の方を見ていた先生が声を上げた。

 

「おっ! できとるやん」

「ほ、ホントだ……。良かった」

 

 これで憑依できないなんてなると、本当に恥を晒すだけになってしまうので、成功してホッと息を吐く。クラスのみんなは、突然私の姿が変わったことに驚いているようだ。ちらほら後ろの方から話し声が聞こえる。


「それで、成功したのは良いんですけど、解除の方法が分からなくて……」

「んー、そうやな。一般的な祓式は消えろって念じるか、何らかの動作をすれば解除されるんやけど……」

「じゃあ、やってみますね」


 これで戻れないとかなったら、私この格好で授業受けなきゃいけないのか……。それだけは絶対に嫌だ。と、取り敢えずやってみるしかないよね。


 消えろと心の中で強く念じる。すると、元の制服姿に戻った。


「あ、戻った」

「はぁ……良かった」

「ほな、これでもう大丈夫やな」

「いや、実はそれがそうでもないんですよね……」


 隣にいる悠と顔を見合わせると、昨日、憑依できたのは偶然で、明確な発動条件は今も分からないままだということを先生に話す。

 一連の話を聞いた先生は、少し考えるとこう言った。


「なるほどな。でも、もうすぐ授業始まるし、取り敢えず一旦席に戻ってくれへんか?」

「分かりました」


 私と悠はそう言われると、自分たちの席へと戻るのだった。


 

 ◇◆◇◆


 時間は過ぎて、今は2時間目の授業。あれからずーっと発動条件を考えてるけど、これと言って思い浮かばなかった。


『はぁ……どうしよ。こりゃ実習の時間までに考えつくかな』

『もう2時間目の授業も終盤だからね。早くしないと実習の時間になっちゃうよ』

『エル~、なんかない?』


 机に突っ伏した状態で、宙に浮いているエルの方を見つめる。

 

『と、言われてもな……。あ、秋葉、前! 前見て!』

『へ……?』


 すると、エルが慌てたように私の前方を指さした。エルの指さす方向を見ると、教本を持った歴史の先生がいつの間にか私の真ん前に来ていた。


 あ、ヤバい。怒られる……!

 

 そう思うと同時に先生は私に向かって大声で怒鳴りつける。

 

「ちゃんと授業に集中せんか!」

「す、すいません……」


 先生は私に言うだけ言うと、教壇の方へ戻って再び授業を始める。クラスのみんながこちらを見ながら笑っているような気がしなくもないけど、今は無視だ。

 周囲に聞こえない程度で溜息を吐くと、頬杖をつきながら黒板の方を見た。


 そういえば、前にも似たようなことがあったな……。確かあの時は結奈が後ろの席で絵を描いてて、ちょうどどんな感じか様子見ようと後ろを振り向いたら、先生に怒られたんだっけ。あの時の禿げの怒りようは、今思い出しても恐ろしいな……。


「……ん? あ、そういうことか」


 授業中にもかかわらず、声を発してしまう。気づくと、先生がこちらをギロリと見ていた。

 

 そろそろ本気で怒られそうだな……。あー、怖っ。

 

 ひとまずシャーペンを持って、授業の方へ集中することにした。

 


 そうして、2時間目が終わり休み時間に入ると、悠がこちらにやってきた。


「さっきの授業中、何やってたの?」

「い、いや。ちょっと祓式のこと考えてて……」

「まったく……。次、移動教室だからさっさと準備しなよ」

「はーい」


 適当に返事をすると、机の引き出しから教材を取り出す。


 えーっと、確か次の授業って情報だったよね。ってことはだ。これは試せるチャンスかも。


 不敵な笑みを浮かべていると、悠が呆れたようにこちらを見てきた。


「またなんか考えてるな? ほら、さっさと行くよ」

「あ、悠。先行っててくれない?」

「なんでよ?」

「何でもいいから早く早く」


 そう促すと、悠はPCルームの方へと歩いて行った。それを見届けると、ポケットの中からスマホを取り出すのだった。

 


 

 

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