第34社 春って何だっけ?
渡月橋を渡り終えた私たちは、そのまま人混みの中を進んで歩いていた。
「初めて嵐山に来たんですけど、良いところですね」
「うんうん。あ、そういえば、ここって何回か任務で来てるんですか?」
薫が祈李の言葉に頷くと同時に、後ろを歩いていた先生へ質問を投げかける。
「あー、そうやな。今、2・3年生の子らの任務で3回ぐらい」
「そうなんですね」
それじゃあ、大神学園へ入る前に助けてくれた人もここに任務で来てたってことなのかな。学園に来てからは1回も顔合わせたことないけど……。てか、そもそも学年聞いてなかったからあの人が何年生なのかすら分かってないんだよね。
「あ、そういえばずっと気になってたんだけど、熾蓮って中学どこだったの?」
「俺か? 俺は嵯峨野中学校やで」
「あ、私と一緒だ」
へぇ~、嵯峨中出身者がこんな近くにいたとは。なんか親近感湧くな。
「なら、もしかしたらどこかであってるかもね」
「……いや、前に1回会ってへんか?」
「え、ホント?」
「確か、職員室の前で……」
職員室の前か。私、職員室の雰囲気苦手だから、あんまり立ち寄らないんだけど……。んー、でも熾蓮の声どこかで聞いたことあるんだよね……。……ん?
「あ、もしかして進路の紙提出しに行ったときだったりする?」
「せやせや。確か放送で呼び出されとったやろ?」
「うぐっ……。あの時はマジで進路決まってなかったんだもん……」
本当に大東さんと会ってなかったら、お父さんと同じく夜の山中で野垂れ死ぬところだった……。今度会える時があったら、土下座してでもお礼言お。
「ほほーん。秋葉は進路決まるの遅かったんだ」
「結果的に間に合ったんだから、別に良いでしょ」
「でも、進路希望の紙の提出締切ってその前日やなかった?」
「あ、そういえばそうでした……」
熾蓮に図星を突かれてしまった。あのときの禿げはマジで神だったな。もうあの時点で完全に締め切られてたら、今ここにはいないってことだし。
「仲いいですね~」
「せやな~」
歩きながら談笑していると、抹茶ソフトが売られているのを見つけた。
「うわ~! 美味しそう!」
「今日は暑いですし、ちょうど良いんじゃないでしょうか?」
薫が目の前の抹茶ソフトに目を輝かせていると、祈李も食べたそうにそう言った。
確かに、こんな暑い中だと欲しくなるよね。春なのに。まだ春なのに。
というわけで、私たちは抹茶ソフト片手に食べ歩きをすることになった。
「うま~!」
「暑い日にはぴったりやな」
「次はどこに行きますか?」
「そうだね……」
私がおすすめの場所がないか考えていると、先生が申し訳なさそうにこう言った。
「すまんけど、学園の方に定期連絡入れなあかんから、君らだけで回っといてくれへんか?」
「あ、分かりました」
「また後でな」
先生はそう言うと、人混みの中に消えていった。先生を見届けると、再度考え始める。
この天気の中、歩き回ってたら体力削られるしな……それに情報の整理もしたいから一旦、中に入った方がよさそうかな。
「取り敢えず、中入らない? こんな人が多い中で情報の整理とかできないし」
「それだったら、近くにカフェあるらしいし、そこ入ろっか」
「せやな」
抹茶ソフトを食べ終わった私たちは、熾蓮に案内されて裏通りにあるカフェへと入る。店員さんに案内されて四人掛けのテーブル席に座ると、飲み物を注文した。
「こんなところあったんだ」
「まさかの地元民すら認知してないとは……」
「いや、あるのは知ってたけど、入ったことはなかったもんで……。ってそれはどうでも良いんだって。今は情報整理が先!」
「はいはい。それじゃあここまでで感じたこと、思ったことを各自挙げていこうか」
んー、感じたこと……まぁ、違和感か。ってなったら、やっぱり、どんよりしてることと千鳥ヶ淵かな。後は、渡月橋のアレか。
私から順番に話していくが、みんなどれも似たようなところを挙げていた。
「問題はここからやな」
「多分、夜になればもっと分かることが多くなるとは思うんですが、今のところ烈級祟魔の情報はほとんど分からないままですね……」
「不明な点が多すぎるからね。今のところ分かってるのは容姿ぐらいじゃない?」
「そうだね」
資料によると、烈級祟魔は髪の長い女らしい。さっき行った千鳥ヶ淵から遺体が見つかってるから、その辺りにはいるはずなんだろうけど、気配も一切感じなかった。行方不明者の共通点としては若い男女が多いらしい。でも、その人たちを攫う理由すら分かってないので、手詰まり状態になりつつある。
「まぁ、夜になったら何か分かるかもしれんし、今は体力温存させた方がええやろ」
「だね」
ある程度カフェで暇をつぶしていると、別の場所に移動しようということになったので、私たちは会計へと向かう。すると、前のお客さんと店員さんから気になる会話を耳にする。
「また、今日も行方不明者が出たんやって」
「そうらしいですね。昨日に引き続いて、また渡月橋付近で人が消えたちゅう話でしたよ。お客さんも気を付けてくださいね」
店員がお客さんにお釣りを渡すと、私たちの番がきた。私は事前に割り勘したお金を持って前に進む。
「待たせてすいませんね」
「いえ。ところで、何かあったんですか?」
「あー、さっきの会話聞いてはったんか。……実はここ最近、渡月橋で人が消えるちゅう話がありましてな。なんや風に攫われたとか、夜に人攫いが現れるとかって噂になってるです。そのほとんどが、若い男女やから、学校とかでも注意喚起が出されとるって話ですわ」
あれ? ってことは、さっき渡月橋で見たあれは、やっぱり私の見間違いじゃなかったってこと?
そう思いつつ、持っていたお金をキャッシュトレーに入れる。
「はい、おおきに。お客さんらも気いつけてな」
「はい。ありがとうございます」
会計を済ませると、待ってくれていた薫たちの元へ向かい、そのままカフェを出るのだった。
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