第35社 観光地は夜でも人が多い

「あー、楽しかった」

「ここからは任務の時間ですね」

「やな」


 現在時刻は19時。あれからいくつかお店を回りつつ、聞き込みをしていたけど、これと言って怪しい点はなかった。何か変化が起こるとすれば、これからだけど、今のところ特にこれと言って違和感は感じていない。

 

「にしても、先生あれから姿見いひんけど、どこ行ったんやろ」


 確かに、学園へ定期連絡入れにいくって言ってからそのままいなくなってたな。まぁ、先生のことだし大丈夫だろうけど。

 

「すまんな遅くなって」

「噂をすれば来たみたいだよ~」

「今までどこ行っとったん?」

「いや、みんなの邪魔したら悪いと思ってな。学園に連絡入れ終わってから別行動してたんや」


 別行動ねぇ……。ホント織部先生って自由だよね。実習のときも急にパルクールやれとか言い出したり、その他のときでも結構自由にやって、他の先生に怒られてたりしてるし。


「そっちはどんな感じや?」

「観光している最中に、ちらほら渡月橋で行方不明者が出ていると聞いたので、怪しいと思って見張ってます」


 先生の問いかけに私が答える。観光が終わってから、十数分ごとに渡月橋を行ったり来たりしたけど、特におかしいところはなかった。風に攫われたという噂も出ているので、念のため、祓力を発動させて、薫と祈李は法輪寺のある嵐山方面、私と熾蓮は天龍寺などがある嵯峨野方面で別れて待機している状態だ。

 

「なるほどな。で、千鳥ヶ淵の方はどないしたんや?」

「あそこには祈李のお札が貼ってあるので、祟魔が現れたり何かあったときには祈李の方に連絡が行くようになってます」

「へぇ~、ばっちりやな」


 先生は感心した表情を浮かべる。後、補足しておくと、千光寺の和尚さんにも、異変があったら連絡するように伝えてあるので、千鳥ヶ淵の方は大丈夫だろう。

 

「せやろ? 全部秋葉の指示やで」

「なんでお前が誇っとんねん」

「ごめんやって」

 

 熾蓮が自慢げにそう話すと、先生がツッコむ。熾蓮が軽く謝ると、先生は呆れつつも、話を戻そうと話し始めた。

 

「まぁええわ。ほんなら、何か起こるまでは待機ちゅうわけやな」

「そうなりますね」

 

 にしても、この時期の嵐山は夜でも人が多いな。まぁそれは、3月の終わりごろから4月中旬にかけて、桜のライトアップがあるからなんだけど。


 それ目当てに訪れる観光客も多いようで、夜の渡月橋は大変賑わいを見せている。

 

 そんなこんなで、かれこれ1時間ほど待ってみるが、何も起こらない。正直言って、暇だ。こんなことなら、神社の様子見に行きたいんだけどな~。先生に言ってみるか。

 

「あの、織部先生」

「なんや?」

「一旦、神社の様子見に行ってもいいですか?」

「アホか、何考えとるんや」

「で、ですよねー」


 んー、駄目か。いや、普通は駄目だよね。うん、もしかしたらオッケーしてくれるかな~、なんて考えてた私が馬鹿だった。

 

 先ほどの発言を悔いていると、熾蓮が話に入って来た。


「せやけど、このままボーッと待ってるんもあれやし、別にええんとちゃう?」

「んー、それもそうやな。一旦、あっちにいる2人と合流しよか」

「了解です」


 私と熾蓮は織部先生の指示通り、2人のいるところまで向かう。橋を渡り切ると、2人と合流。織部先生から事情を説明された2人は、無事に承諾してくれた。


「でも、私たちがいない間に攫われでもしたらどうするんですか?」

「それはここ一帯に結界を敷いとけば大丈夫や。簡易的な結界術は授業のときに習ったやろ?」

「そうですね。それじゃあ誰がやる?」

「んー、やっぱり熾蓮か秋葉じゃない? ほら、結界って結構土地とかで左右されるし」


 なるほど。確かに薫の言う通りだ。結界を作るには、自分の祓力を消費しなければならない。自らが所属する神社や神様によっても強度が変わってくるため、ここは地元民である私か熾蓮がやった方が最適だろう。


「それやったら、秋葉でええんとちゃうか? 愛宕神社はここから30分ぐらい離れてるし」

「それもそっか。なら私になるね。先生、範囲はどれぐらいにします?」

「そうやな。渡月橋を丸々囲えるほどの大きさがあれば十分やろ」

「了解です」


 渡月橋を丸々囲える大きさか……。えーっと、橋全体とその付近を守れればいいよね。それで種類は祟魔を感知できればいいか。よし、取り敢えず、やってみよ。


 私は全神経を手に集中させ、印を組む。すると、半球状の透明な結界が、渡月橋とその周辺を覆った。きちんと結界が発動されたのを確認すると、ホッと息を吐く。


「おぉ~、デカいな」

「上手くいって良かった」

「ほんなら、一旦神社の方に行こか」

「そうですね」


 尚、結界に祟魔が入ってくると、私の方で分かるようになっているし、祈李のお札には浄化作用と祟魔を感知できる術式が埋め込まれているらしいので、この場は大丈夫だろう。

 私は再度結界を確認すると、神社の方へ4人を案内するために歩き出した。しばらく歩いて北桜神社と書かれた真新しい看板の前を通り過ぎると、舗装された山道を上っていく。

 

 久々にこの道歩いたな~。まず、神社に着いたらエルに色々と報告しなきゃな。最近私の周りこっちには現れないし。


 山道を歩くこと5分。境内へとやってきた。特に様子は変わっていなさそうなので、安心する。


「お邪魔します」

「ここが北桜神社なんやな」

「山の麓だけど、なかなか広いね」

「まぁね。さて、社家はこっちだよ」

 

 私たちは、境内にある社家の方へと向かう。


「ただいま~」

「あれ? 秋葉、どうしたのさ。今日は課外実習じゃなかったっけ?」


 家の中から出てきたのは、腰までの長い白髪に紫のメッシュの入ったハーフアップ。藤色の眼をした和装姿の男性だった。相変わらず、イケメンなのムカつくわ~。いや、設定したのは自分なんだけど。

 

「あー、うん。そうなんだけど――」

「――だ、誰この人!? めちゃくちゃ綺麗なんだけど」


 薫は突然出てきた白髪長身の美形に驚きの声を上げる。

 

「ん? あー、先生は知ってると思うけど、エルだよ。今は人間の姿だけどね」

「どうも~、君たちの間で言う神獣のエルでーす」


 寮生活をする上で、神社に人が1人もいないってなったら大事なので、パンフレットを受け取ったその日にエルの人間バージョンの設定も考えていたのだ。今は神社の管理をしてもらいつつ、この家を守ってもらってる。いわば、自宅警備員みたいな感じだ。

 

「あの、胡散臭いやつが!?」

「先生それブーメランやって」

「あはは……。ま、取り敢えず上がってよ」

 

 私は苦笑いを浮かべながら、家の中へと4人を上げるのだった。

 

 

 

 

――――――――――――

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