第37社 戦場において油断は禁物

 渡月橋に着いた私は、次々と湧いて出てくる荒級祟魔を祓うべく、抜刀して斬りかかる。祟魔は荒にも満たない弱さで一撃与えただけで消滅していった。

 

 あれ? 弱いな。もしかして生まれたてだったりする?


 祟魔にはそれぞれ階級があると前に習ったけど、どうやら生まれたての荒にも満たない祟魔――拙級祟魔もいるらしい。つまり、今、私が斬ったやつがそれに当たるというわけだ。

 やけに弱いことに違和感を覚えつつも、次々に襲い掛かってくる祟魔を斬り伏せていく。と、視界の端に雷光が映る。刀についた血を払うついでにそっちを見ると、一足先に到着していた薫が自らの刀に雷を纏わせ、あっという間に5体の祟魔を祓っていった。祈李はといえば、触れたら爆発する札を祟魔目掛けて投げつけ、祟魔を纏めて消し去っている。

 すると、異形が私に向かって飛びかかってきた。私は横に身を翻し、異形を両断。地面を蹴って、橋の欄干に足をかけて宙返り。着地と同時に前にいた異形へ足蹴りをかまし、周囲にいる異形たちを一掃。一息ついて前を見ると、そこで、少女に向かって何処からかつむじ風が放たれた。が、反応が遅れ、避けきれない。そう少女が身構えた瞬間、つむじ風が消滅。どうやら前を見ると、熾蓮がつむじ風を放った祟魔を炎で始末してくれたらしい。


「これで6体目っと」

「援護ありがとな」

「どういたしまして」

 

 熾蓮はそういうと、次の敵に向かって走り出した。その様子を見届けつつ、戦場において油断は禁物だと集中し直す。私はカッター状の桜をいくつか出現させると、一気に周囲にいる祟魔たち目掛けて放つ。そうやって私たちが結界内にいる祟魔を祓っているうちに、織部先生は結界内に何故かいた女子中学生2人を気絶させて、俵担ぎにしていた。


「よっと。秋葉ー、この子ら神社まで送っていくさかい、この場は任せたで~」

「了解だ」

 

 先生はそう言うと、この場を離脱して北桜神社の方へと向かっていった。神社というのは、一般的に結界が貼られており、祟魔が入って来られないようになっているのだ。

 

 先生、女子に対する扱い雑すぎない?


 そんなことを思いながら、神社にいるであろうエルへ念話を繋げる。


『今から先生がそっちに向かうから、対応よろしくな。アタシらもこれが片付いたらそっちに戻る』

『りょーかい』


 さて、こっちもそろそろ終わらせるとしますか。


 エルとの念話を終える頃には、うじゃうじゃいた祟魔も残り10体までに減っていた。それを確認すると、刀を一旦鞘にしまい、自分を守るようにして盾の役割を果たしてくれる紅葉を展開させる。


「後はまとめてこっちで処理するから、みんな一旦下がれ」

「分かった!」

 

 紅葉を展開しつつ、その外側に同じように桜を展開させた。そうしている間にも熾蓮たちは、ある程度私から距離を取ったようで、薫が腕で大きく丸を表している。私は視線を祟魔たちの方に戻す。紅葉と桜がそれぞれ自分を中心に高速で回転していく。


 薫たちからオッケーも貰ったし、そろそろ良いかな。


 ある程度の硬度を花弁に付与させると、私は手を振りかざして、それらを周囲にいた祟魔に向かって放った。すると、周囲に残っていた祟魔は一斉に消滅。うじゃうじゃいた祟魔たちは跡形もなく消え去っていった。


「お見事です」

「相変わらず派手やな~、秋葉の能力は」

「だろ?」

「さて、それじゃあ一旦神社の方に戻ろうか」

「そうだね」


 私が「解」と唱えると、渡月橋を覆うようにして貼られていた結界は消滅した。結界が消えると同時に憑依も解いて、元の姿に戻る。


 そういえば、結局、烈級祟魔見かけなかったな。


 神社へ帰るために踵を返そうとしていると、視界の端で何かが動いた。


「……え?」

「どうしたん?」

「今、橋の裏で何か動かなかった?」

「……一応、見に行ってみよか」

「ですね」

 

 私たちは橋から飛び降りて、河岸の方に向かう。すると、橋の裏側に2体の祟魔が潜んでいた。どうやら処理しきれていなかったらしい。


「げっ。討ち漏らしてたか……」

「どちらも烈級祟魔のようですね。でも、髪の長い女性ではないようです」

「ま、倒したら終わりやし、さっさと片付けてしまおか」

「だね」

 

 再び『紅桜』に憑依すると、刀を抜く。他のみんなも祓式を発動させると、一斉に祓いにかかる。が、変にすばしっこいその2体は私たちの攻撃を交わすと、川沿いの道へ逃げていった。

 

「ありゃ、逃げよった」

「どうする?」

「そんなの追いかける他ないだろ」

「では、皆さんは先に追ってください。少ししたら向かいますので」

「了解や!」


 祈李からそう言われたので、私と熾蓮、薫は先に列級祟魔を追いかけるために、川沿いの道を走っていくのだった。





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