第1社 赤点だけは絶対に嫌……!

 満開の桜で彩られた深夜の嵐山・渡月橋。静かなその場所に斬撃音が響き渡った。橋の上には人ではない奇妙な異形が十数体。そのどれもが黒い靄のような瘴気を放っている。

 と、その中に1人の少女がいた。顔は見えないが、赤メッシュの入った明るい茶色の髪が赤いリボンで止められており、桜と紅葉の柄の入った肩出しタイプの着物に紺の袴を纏っている。両手には赤い柄の日本刀が握られており、下の方に構えていた。

 すると、異形が飛びかかってきた。少女は横に身を翻し、異形を両断。地面を蹴って、橋の欄干に足をかけて宙返り。着地と同時に前にいた異形へ足蹴りをかまし、周囲にいる異形たちを一掃。一息ついて前を見る。そこで、少女に向かって何処からかつむじ風が放たれた。が、反応が遅れ、避けきれない。そう少女が身構えた瞬間、暗転した。


 ◇◆◇◆


「あ、あれ......? 私、一体......」

 

 自分の机からゆっくり身体を起こし、ボーッとした目で周りを見る。教室にいるクラスメイトたちは、返ってきたテストを見せ合って盛り上がっているようだ。

 

北桜秋葉ほくおうあきはー。寝ぼけとらんと、はよ答案取りにこんかい」

「あー、すいません......」

 

 教壇に立っていた先生から名前を呼ばれ、慌てて席を立つ。

 セーラー服のポケットの中にあるホッカイロを弄りながら答案を受け取り、私は席に戻る。


 今回のテスト、一夜漬けだったから正直自信ないんだけどな……。


 此処、嵯峨中学の赤点ラインは30点。それを超えると、再テストか補習になる。創作の時間がなくなってしまうのは絶対に嫌だから、赤点だけは回避したいところだ。私は恐る恐る閉じられた答案用紙を開けていく。


『テストの点数何点だった?』

「うおっ⁉ びっくりした……」

「どうした? 北桜。何か手違いでもあったんか?」

 

 急に声が頭の中に響いたので、思わず声を上げてしまう。それを聞いた先生と周りの生徒は不思議そうな表情で私を見ていた。


 ヤバい、やっちゃった……。

 

「な、なんでもないです!」

「そうか。ならええんやけど」


 そう返事をするとテスト返却が終わったのか、先生の解説が始まった。みんなが黒板に目を向ける中、私の左隣でふわふわ浮いている声の主の方を睨みつけながら、心の中で話す。


『ちょっと、急に話しかけるのやめてくんない!?』

『ごめんごめん。いやぁ、秋葉のテストの点数が気になってさ。それで何点だったの?』

『えっとね……。67点』

『おぉ~。平均超えたね』


 点数を教えると、ふわふわ浮いているコイツは喜びの表情を見せる。コイツの名前はエル。分かりやすく言うなら、白い狼の胴体に、黒い鴉のような翼が生えたマスコット。体長は30cmぐらいで、人語を喋る。ここまで言えばエルが人外だということは分かるだろう。そう、コイツは――


『ちょっと、ボクが褒めてあげてるのにだんまりはないんじゃない?』

『うるさいな。今、授業中なの。分かる?』

『はいはい。黙りますよーっと』


 エルはつまらなさそうな表情をしながら、解説中の先生の方へ飛んでいった。それを何となく目で追う。すると、エルは先生の頭をつんつんしたり、禿げ隠しのための前髪を引っ張り始めた。

 

 ホント、何やってんの……。これ以上先生の髪の毛弄ったら、まだ30代なのにデコ部分が禿げちゃってる先生の頭が更に禿げちゃうでしょーが。

 

 再び頬杖をつきながら、先生を哀れみの目で見つめる。周りの生徒は外から入ってきた風で、先生の前髪が上がっていると思っているのか、大笑いしていた。


「こら! 何、解説中に笑ってるんや!」

「いやだって、風で前髪が」

「お前ら、今年受験なんやからちゃんと聞いとけよ」

 

 エルのやつ、いくら視えないからってあれはやっちゃダメでしょ。ほら、現に笑ってた生徒が怒られてるじゃん。可哀想に。

 

 そう、エルはどうやら私以外の人間には視えないらしい。何故かは知らない。けど、私には視えるのだ。

 思い返せば、昔からよく変なものを見ることが多かった。例えば、廊下側の席に座っている男子生徒。あの子の背後に幽霊みたいに透けた人がいる。他にも、禿げの先生が立っている教壇に寝そべっている腕が6本生えたやつもその1つだ。

 今のところ特に害もないので放っているけど、動き出したら流石にまずい。対処の仕方なんて知らないし、動き出したら逃げるしかない。まぁ、いざとなったらエルを盾にするつもりではいる。

 ぐだくだ考え事をしている間に、授業も3分の2を過ぎただろうと、時計を見るがまだ半分しか経っていない。

 

 にしても、さっきの夢は一体何だったんだろ……。昨日、テスト終わって夜遅くまでアニメ見てたからそれの影響かな。まぁ良いや。取り敢えず、授業終わるまでまだ時間あるからそれまで寝とこ。どうせ解説なんて聞いても意味ないし。

 

 一度欠伸をかまして、机に顔を伏せて寝る体勢をとる。すると、エルがこちらにやってきた。


『あれ? 寝ちゃうの?』

『暇すぎるからね。せめて筆箱を出せれば、キャラ設定の1つや2つできるんだろうけど……』

『テスト返却中は赤ペンしか出しちゃダメだから、仕方ないよ。終わりがけに起こすね』

『ん。ありがと』


 エルにお礼を言うと、目を閉じる。


 そういや、エルと出会ったのっていつだっけ。確か私が中1の頃だったような気が……。


 徹夜の疲れが出たのか、目を閉じた私は1分もしないうちに意識を飛ばすのだった。

 



☆あとがき

初めまして!『天界の代報者~神に仕えし者は今日も祟魔を祓います~』略して天リクがついに始まりました!

第1章完結まで毎日更新していくので、よろしくお願いします。

もし良かったら、いいね・ブックマーク・レビュー・応援コメントの方もよろしくお願いします! 

コメントはハードルが高そうなので、面白かったら応援コメントの方に「(*>ω<*)♡」と送ってもらえればモチベーションに繋がります!

 

 

 

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