第1章 入学編

第11社 人間だろうが神様だろうが女の子の着替えを覗いちゃいけません

 年が明け、あっという間に卒業式を迎えた私たち。無事に卒業証書を貰い、私と結奈、舞衣の3人は校門に設置してある卒業式の看板の前で写真を撮った。


「これで2人ともお別れか……」

 

 私が憂鬱な表情でそう呟くと、結奈がバシンッ! と思いっきり私の背中を叩いてきた。

 

 馬鹿力なんだから、もう少し力加減してほしいんだけど……。


 ヒリヒリする背中を抑えながら結奈を見る。

 

「何言ってんだよ。絶対会えないって決まったわけじゃないし。それにあたしらには例のサイトがあるだろ?」

「そうそう。だからそんな心配することないって」

「んー、それもそうだよね!」


 この2人とは一旦お別れになるが、本当に離れるわけでもない。


 けど、やっぱり3年間ずっと一緒だったからそれなりに寂しくはなる。この先自分1人でやっていけるかな……。取り敢えず、最初の友達作りはしっかりやっとかないとだよね。


 先ほど撮った写真を見返していると、1枚の写真にエルがひょっこり写っていた。なんかやけに頭が重いと思ったら、エルの仕業だったのか。

 

 エルの方を見ながら苦笑いを浮かべると、エルはてへっと舌を出しながらこちらを向いた。

 

 まぁ、良いんだけどさ。……っといけないいけない。


「私、そろそろ帰らなきゃいけないからまたね!」

「おう。気を付けて帰れよ~」

「それじゃあまたね~」

 

 別れを告げると、急いで自宅の方へと向かった。というのも、これから寮生活で必要なものと要らないものを分けないといけないのだ。

 

 えっと、今日は3月21日で、引っ越し業者が来るのは10日後、入居するのが4月1日だから……。


 私は家に着いた途端、バタバタと廊下を走る。手早く普段着に着替えると、物置の方からダンボールの塊を5、6個持ってくる。


「卒業式が終わったばっかなのに大変だね~」

「見てないで手伝ってよ。何のために契約したの?」

「はいはい。分かってるよ」

 

 私は家の中から必要なものをかき集めると、ダンボールに詰めていく。まだ10日も余裕があるから良いんじゃないかと思われそうだが、制服が届くまでにある程度、まとめておかないと埃まみれになってしまう。それにやらなければいけないことは他にもある。うちは他とは違って神社の家系なので、私が居なくなるまでに済ませておかないといけないことがたくさんあるのだ。


 まぁ、今慌てて準備しているのは、ほとんど前もってやっておかなかった自分が悪いんだけどね。


 制服が届くまで残り3時間。私はエルに指示を出しながら物を詰めていった。


 そうして、3時間後。無事にダンボールに詰め終わった私は、制服を受け取ると、ダンボールまみれの廊下を足早に進んでいく。両手が塞がっているため、自室へのドアは足で開けた。


「あ、来たみたいだね」

「うん! 早く開けよ~」


 私はさっそくダンボールを開けて、中身を取り出す。埃が被らないように袋がかけてあるので、それを取ると一旦、制服をハンガーにかけた。


「一応、寸法は合わせてあるらしいけど、実際に測ったわけじゃないからな……」

「1回着てみたら?」

「そうだね」

 

 私はエルにそう言われたとおり、さっそく着てみることに。

 

 おっと、忘れちゃいけない。


「おーい、一旦外出ててよ~」

「分かってますよ~」

「神様だからって、女子の着替えを覗くのは犯罪なんだからね!」

「分かってるって」

 

 とは言ったものの、神様に法律なんて関係ないよね。そう思いつつ着替え始める。制服の下は紺の馬乗り袴になっており、上は白のカッターシャツを着るようだ。

 

 なんか変な組み合わせだな~。誰だよ考えたの。普段から神社の仕事で袴を履きなれているから、楽は楽なんだけど。慣れてる側からしたらカッターシャツと袴って違和感しかないんだよね……。


 ものの数分で着替え終わった私は、部屋の外にいるであろうエルへ声をかける。

 

「終わったよ~」

「それじゃあ入るね」


 エルは入ってくると同時に首を傾げた。それもそのはず。

 

「って、それまだ完成じゃないよね?」

「ん? まぁね。後は見られても大丈夫かなって」


 後は羽織ったり、つけたりするだけだからね。


 私はそう思いながら、机に置いてある制服の付属品に目を向ける。


 左から順番に、黒のフィンガーグローブ、赤と松葉色の水引、学園指定のピアス、そして、紺の小袖上着に黒の羽織というふうに並んでいる。


「いや、本当に何に使うんだろ。てか、そもそも制服に袴って珍しいよね」

「そうだね。普通はブレザーか学ランじゃないの?」

「そうだよ。まぁ、袴とカッターシャツはまだ良いじゃん。んで、羽織もまだ分かる。でも、その他のやつに何の意味があるのか、よく分からないんだよね」


 私はぐるっと付属品を一瞥する。もしかして水引って校章の代わりだったり? でも、その他が全くと言っていいほど分からない。

 

 私がそう考えていると、エルが口を開いた。

 

「そういうのって意味ありげに思えて、実はただの飾りだったって説もあるよね」

「それはそう。取り敢えずつけてみるか~」


 私はウェブサイトの制服を見ながら、それらを順番に装着していく。

 

 最後に水引を腰に通してっと。


「はい、完成~! って、本当に合ってるよね?」

「多分、合ってるんじゃない?」

 

 念のため、全身鏡で確認していく。鏡には明るめの茶髪に、赤メッシュの混じった長髪と赤色の瞳をした自分の姿が映る。耳には学園指定の赤色のピアスが。腰には赤と松葉色の混じった水引がぶら下がっている。羽織は着ても着なくてもどちらでも良いそうなので、今は着ないことにした。

 パンフレットを手に持ちながら照らし合わせていく。一通り確認を終えると、私はエルの方を向いた。


「ま、間違ってたら直せばいい話だし。取り敢えず制服はこんなもんかな」

「そうだね」

「よし、それじゃあまた着替えて次の作業に入ろっと。はい、エルさんはまたお外に出といてね~」


 私はエルを外に出すと、また元の服に着替え始めるのだった。


 

 


 

 

 

 

 

 

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