第12社 春だ!引っ越しだ!美少女だ!

 4月1日。ついに引っ越し当日となってしまった。朝からスーツケースを詰めて疲れ果てた私は、休む間もなくエルに最後の確認をする。


「今日からしばらくいなくなるけど、本当に大丈夫だよね⁉」

「そんな心配しなくても大丈夫だって。ボクを誰だと思ってるのさ」

「いや、神様……なんじゃ……ないですかねぇ……」


 エルにそう訊かれると、私はしどろもどろになりながら応える。


 いや、神様って言われても信じられないんだもん。可愛げのある狼の姿してるし、我とか高圧的なの喋り方じゃない。それに、元の名前とかないって言うし、逸話も聞いてないけど、多分あの感じじゃ無いんだから流石に怪しむって。

 

「なんで自信なさげなのさ」

「だって、会ったときから神様らしいオーラなんて感じたことないし。てか、あんた自由人すぎて何考えてるか分かんないから、何かやらかさないか心配なの!」


 そういえばそうなんだよね。神様的なオーラがないというか。まぁ、キャラ設定がマスコットみたいな感じだから、姿に関して言えば、威圧感がないのはそうなんだけど……。

 

「やらかすなんて、ないない。いつも通り留守番してれば良いんでしょ?」

「そうだけど。参拝者が来たときは無視せずきちんと対応してよ?」

「分かってるよ。え、ボクってそこまで信用ない?」


 んー、信用か。まぁ、信頼はできるけど、正直胡散臭いというかなんというか……。信頼はできても絶対的に信用はできないというか。ま、仮に神様であっても絶対信用できるわけじゃないしね。

 

 頭の中で今までのエルの行動を思い返しながら、エルに向かって話していく。

 

「いっつも肝心なときにいないし、マイペースすぎるから……」

「あー、まぁ確かにそれはそうかも」

 

 いや、そこは認めるんかい。

 

 エルの発言にツッコミを入れて、私は軽く息を吐く。そして、念を押すようにこう言った。

 

「と・に・か・く頼んだからね? 何かあったら念話で飛ばしてよ?」

「はいはい。ほら、早くしないとバスに乗り遅れるよ?」

「げっ! ホントだ。それじゃあ任せたよ~」


 エルにそう言われると、急いで玄関前に置いてあったスーツケースを手に持ち、家を出る。

 ここから歩いてバス停まで15分。バスの出発までは後13分。バスは時間通りに来ないことが多いので、遅れていることを祈りながらバス停に急ぐのだった。


 

 ◇◆◇◆

 


 バスと電車とスクールバスで1時間半。まだ春のくせに太陽がガンガンに照り付ける中、学園についた私は門の前で立ち止まって周囲を見回す。

 

 けど、マジでなんにもないな……。


 大神学園は市街地からだいぶ離れた場所に位置しているため、ショッピングモールは疎か、みんな大好きマク○ナルドすらない。


 私たち学生にとって、溜まり場とも呼べるあの場所が近くにないとかおかしいでしょ。


 選ぶ学校を間違えたかもしれない、と若干の後悔を抱えながら、私は学園の門を潜った。校門含めて学園全体は和風建築になっている。確か1年の寮は門を入ってからしばらく歩いたところにあったはずだ。もう引っ越し業者のトラックがついている頃合いなので、歩きながらトラックを探す。

 

 スマホの地図によれば、確かあそこら辺に――


「あ、見つけた」


 寮の真ん前で止まっているトラックを発見すると、スーツケースを引きずりながらそちちの方へ向かう。


 移動中も思ってたけど、このスーツケースやけに重くない? そんなに荷物は入れてないはずなんだけどな……。


 そんなことを考えていると、ちょうどダンボールを下ろしていた引っ越し業者さんと目が合った。


「こんにちは。ご苦労様です」

「こんにちは。もしかして北桜さんですか?」

「あ、はい。そうです」

 

 挨拶をすると、業者さんはダンボールを台車に置いて、こちらに向き直った。


「なら、ちょうど良かった。私、次の引っ越し作業の準備があるので、この台車に積んであるものを寮の部屋に持っていってもらえませんか?」

「あー、分かりました」

「ありがとうございます。台車の方は運び終わり次第、こちらに戻していただければ結構ですので」

「了解です」

「それでは」

 

 業者さんは言うだけ言って、トラックの中へと消えていった。それを見届けると、私は手に持っているスーツケースと台車を交互に見る。

 

 とは言ったものの、スーツケース持ちながら運ぶのって厳しいよね……。さて、どうしたものか……。


 台車に積んであるダンボールは全部で4箱分。本当はもっとダンボールがあるはずなんだけど、あの言い方からしてこれ以外はとっくに部屋へ運んだ感じだよね。ダンボールの上にスーツケースを乗せるのは流石に危険だしな……。


 うじうじ悩んでると、背後から肩を叩かれた。準備の終わった業者さんが手伝いに来てくれたのだろうかと思い、後ろを振り向く。

 しかし、そこには私と同い年ぐらいで、緑のレイヤーボブカットに紫の目をした美少女が立っていた。


「え、えーっと……?」


 誰だこの人……。


 困惑気味に美少女を見つめていると、彼女が喋りだす。

 

「よかったら、その荷物運ぶの手伝おっか?」


 美少女は人懐っこそうに笑みを浮かべながら、私に対してそう言った。

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