第40社 自分のスペックはきちんと把握しておこう

 結界が破られると同時に、私たちは散り散りになる。熾蓮は先ほど話し合った通りに、祓式で次々に襲い掛かってくる髪束を燃やしていく。すると、次第に祟魔の方へ炎が広がっていった。祟魔は何が起こったのか分からないようで、攻撃が止んだ。


 よし、これならいける!


 周囲に桜と紅葉を出現させ、一気に祟魔の方へと突っ込んでいく。しかし、また別方向から攻撃を仕掛けてきたようで、猛スピードで私の方に向かってやってきた。刀に桜の花弁を纏わせると、そのまま髪束を斬っていく。すると、祓力を纏っただけのときとは違い、髪束が斬れて地面に落ちた。


 おぉ~! 良い感じ!

 

 その調子でどんどん河岸を進んでいく。その横を祈李のお札が通り過ぎ、私に寄ってくる髪束に触れると爆発していった。薫の方も順調そうで、祟魔まで一気に距離を詰めている。私は祓力で、薫は祓式で足を強化し、揃って河岸から空中に飛んで、祟魔に斬りかかる。が、ここでふと気づいてしまった。


「――足場ねぇじゃねぇか!」

「あ、そういえばそうだった」


 そう、祟魔のいる場所は川のど真ん中。加えて、千鳥ヶ淵は大堰川の中でも1番深い場所だ。相手は祟魔だから浮くことができる。けど、私たち人間がそんな深い川に飛び込んだら、そのまま体ごと流されて、祓うどころではなくなってしまう。まぁ、結界が川の底まで貼られているため、流されてどこか遠くに行ってしまうことはないだろうが。


 ヤバい。どうしよ。一旦、退くか。いや、でもこのチャンスは逃したくない。それに私、泳げないんだった……! ヤバいヤバいヤバい! このままじゃ祓えても祓えなくても、溺れちゃうからどっちみちお仕舞いじゃん!


 この間僅か2秒。内心で焦っている間にも、どんどん身体は祟魔の方に落下していく。


 ねぇ待って、こんなところで死にたくないんですけどぉ! でも取り敢えず、祓うだけ祓ったら後はみんなが何とかしてくれるんじゃね? よし、それに賭けよ!

 

 私は覚悟を決めて、薫と同じタイミングで思いっきり刀を振りかぶる。しかし、その寸前で川の中から大量の髪束が出てきた。どうやら祟魔が燃えた髪を川の中に戻していたらしい。そして燃えたはずの髪が再生したのか、私と薫に向かって襲い掛かってくる。だが、幸いなことに髪束のおかげで足場ができた。私たちは襲い掛かってくる髪束の上で跳躍すると、河岸の方へと着地して、後退する。


「まさか再生してくるとはね……!」

 

 薫が攻撃を避けながらそう言ってきた。

 

 でも、そのおかげで私の命は大助かりしたんだよね~。そこだけは祟魔に感謝できるな。けど、これだとまたさっきと同じだ。

 

「これじゃあまた仕切り直しやな……!」

「よっと。再生するのにも、時間ってかかってたか?」

「あー、せやな。ざっと10秒ぐらいやで。毛量も前に比べたら減ってたように思うけど……」


 私と熾蓮は攻撃を避けながら会話をする。さっきと同じように燃やしても良いんだけど。私たちの祓式にも限界があるしな……。どっちみちまた同じことを繰り返してるようじゃ、埒が明かないし。


 そう考えていると、祈李が後ろの方から声をかけてきた。


「――あの烈級祟魔、何かに憑りつかれてるかもしれません」

「……え?」

「どういうことや?」

「よく見てみてください。何か変だとは思いませんでしたか?」


 変……か。それならさっき近づいたときに違和感を感じたような。何か、あの祟魔以外にも気配があったというか。それに、ずっとあの場からも動かないのも変だし。

 

 私は思ったことをみんなに共有する。すると、薫も違和感を感じていたようだ。

 

「この千鳥ヶ淵に来てから、皆さん空気が重いって言ってましたよね?」

「何かここに来てからやけに重いなとは感じてたな。あれ人混みとか暑さのせいだと思ってんだが、違うのか?」

「はい。授業でも習ったと思いますが、あれは祟魔が発している瘴気なのではないでしょうか。そして元々、この地には祟魔がたくさんいたんじゃないですかね?」

「あー、言われてみればそうかも。ちっちゃい頃から不気味なものがうようよいたね」

「そう言われてみればそうやな。今までそんなこと思ってへんかったけど」


 その後も祈李の説明が続いた。要約すると、土地や祟魔から発生してる悪いものが、烈級祟魔の本体に憑りついているせいで、あんなにも凶暴になっているらしい。動かないのは本体が制御しているからだろうとのこと。確かによく見てみると、祟魔の本体らしきものが青色に光っているのが分かる。


 薫は刀で髪束を斬って攻撃を防ぎつつ、祈李に向かって話す。

 

「ってことは、元々の烈級祟魔はそんなに強くなかったってこと?」

「多分、そうだと思います。祟魔の本体は荒か拙だったのではないかと推測しますが……」

「ちゅうことは、あの本体に憑りついてるやつらを祓えば何とかなるんやな?」

「そうですね」

「だとしても……! そんな方法習ってねぇよ?」


 紅葉で攻撃を防ぎつつ、そう話す。すると、後ろから何かが砂利に着地する音がした。私はバッと後ろを振り向く。


「ほんなら、今からその方法教えたるわ」

「あ、先生」


 そこには笑みを浮かべた織部先生が立っていた。




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