第3章 嵐山編

第31社 最初はグー、じゃんけん——

 そして翌日。どうやら初任務の概要説明は教室で行うらしく、私たち生徒はそれぞれ自分の席に着きながら織部先生の話に耳を傾けていた。私は案の定おでこにできてしまったニキビを気にしながら、先生の話を聞く。


「ほんなら、今から任務の概要説明していくで。まずは今回の任務のグループをこっちで決めたから、それ見て席に移動してな」


 先生はプロジェクターを操作して、黒板のスクリーンにメンバー表を表示させる。どうやら全部で4班あるみたいだ。初音たちBクラスも同じ時間帯に行うようで、隣のクラスと合わせて7班あるらしい。

 

 えーっと、私の班は4班か。うげぇ……4班って数字的に不吉だな……。それにメンバーも熾蓮さんと薫と祈李さんとか個性豊かなメンツが揃ってるし。これは私の出る幕はなさそうかな。

 あ、悠は1班なんだね。それじゃあ美澪と同じか。

 

 前のスクリーンを見ながら席を立つと、4班の人たちが集まっている机に移動する。

 

「よ、よろしくお願いします」

「おー! 秋葉やん。よろしゅうな」

「よろしくね秋葉」


 控えめに挨拶をしながら空いている席に座ると、少し遅れて祈李さんがやってきた。


「えーっと、ここが4班の席であってますか?」

「合ってるで」

「良かった~。ぼーっとしてたら、いつの間にか皆さん移動し始めてて……。ありがとうございます~」


 おっとりした口調で熾蓮さんにお礼を言うと、空いている席に座る。

 

 やっぱりめちゃくちゃマイペースだな~、祈李さん。

 

 クラス全員が班ごとに集まったのを確認した先生は、話を進めていく。

 

「それじゃあ各班の代表者は資料取りに来てな。今からその資料を元に説明していくし」

「ほんなら、俺が行ってくるわ」

「あ、ありがとうございます」


 私がお礼を言うと、熾蓮さんは席を立って、先生の元に資料を取りに行く。


「はいこれ」

「ありがとうございます」

「わざわざごめんね」

「全然ええよ」


 私たちは熾蓮さんからホッチキス止めされた資料を受け取ると、ざっと中身を確認していく。枚数は5枚で、内容を見た感じ今回の課外授業について書かれてるようだ。


「前の授業のときにも言うたけど、俺ら代報者は基本、天界の神様の要請(依頼)を受けて祟魔を祓っとる。今回は思金神おもいかねのかみからの要請や。入学したての1年生でも十分こなせる難易度のもんを選んでもらったから、そこは心配せんでええよ」


 思金神って言ったら、知恵の神様だよね。神様なんて高貴な存在から依頼受けるとか、正直実感できないんだけど。そこはやっていくうちに慣れるか、きっと。さて、今回の目的地は――


「え、地元じゃん」

「あ、ホンマや」

「え? もしかして熾蓮さんって右京区出身?」

「そうやで。愛宕山あたごやまって山の麓に住んでるんよ。秋葉は?」

「私は嵐山の麓なんだけど……。マジか」


 それじゃあ、熾蓮さんとは案外実家が近いんだ。へぇ~、そっか。じゃなくて! もしかしなくても中学の人とか先生たちとばったり会う可能性があるってことだよね⁉ 結奈とか舞衣ならまだしも、あの禿げに見られたりしたら……。あ゛ー、怖っ。

 

「後、さんづけはあんまり慣れてへんから、呼び捨てで大丈夫やで」

「私も呼び捨てで構いませんよ~」

「あ、了解」


 熾蓮と祈李からそう言われたので了承していると、先生が再び話し始めた。

 

「ほんなら、ここからは引率の先生らと依頼内容の確認しつつ、班の中で1人リーダー決めていってな」


 引率の先生か。確か、1年生の前期の間は先生も任務に同行するんだっけ。えーっと、私たちの班の引率の先生はっと。


「待たせたな。ほんなら始めて行こか」

「あ、織部先生なんですね……」

「なんや、不満そうやな。秋葉」

「いや、別にそういうわけじゃ……」

「まぁ、ええわ。時間もないし、はよ進めよか。なら、早くできそうなリーダー決めから」


 んー、リーダーか。私はそういう人の上に立てる人間じゃないから、ここは熾蓮か薫かな。熾蓮は人を纏め上げるの上手そうだし、薫は的確に状況が把握できそうだし、何かあったときの対処とかも任せられそうだし。


「それならここは、熾蓮か秋葉じゃないかな? ほら、地元だから土地勘もあるだろうし」

「それはそうですね。私は大阪から来てるので、嵐山のことはあんまり知らないですし。お2人のどちらかで良いんじゃないですかね?」

「なら、じゃんけんやな。2人ともそれでええか?」

「俺は大丈夫やで」

 

 な、なんてこった。私がリーダーなんかやっちゃったら壊滅するからやめとこうよ。それなら熾蓮さんに任せたいんだけど、言える雰囲気じゃないしな……。


「わ、分かりました」

「よし、それじゃあ負けた方がリーダーな。最初はグー、じゃんけん――」


 先生の掛け声に合わせて、私と熾蓮はじゃんけんを始める。最初はあいこで、その次もあいこ。


 この勝負勝たないと、終わる……!


「あーいこで、しょっ!」

「あ……」

 

 次に出し手は熾蓮がグーで、私はチョキ。つまり、そういうことである。


「マジか……。私、リーダーなんてやったことないんだけど……」

「まぁ、サポートはするから大丈夫だって」

「なら、副リーダーは熾蓮でええんとちゃうか?」

「了解や」


 私にリーダーなんて向いてないって! こちとら初対面の人と話すのでも苦労してるってのに、リーダーとか終わってる……。これからどうしたらいいんだ……。


「リーダーも決まったことやし、次は依頼内容の確認してくで」


 私たちは配られた資料を元に依頼内容を確認し始める。

 

 駄目だ……何にも頭に入ってこない。こんなんで本当に大丈夫なのかな……。


 私は溜息を吐きながら、依頼内容に目を通していくのだった。

 


 

――――――――――――

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