第32社 久しぶりの地元は少し違って見える

 駄目だ……猛烈に眠い。


 私たちはあれから依頼内容を確認後、実際に現地に向かうため、電車に乗っていた。ちょうどお昼も食べて眠くなってくる時間帯で、もうすでにうとうとし始めている。幸い、阪急嵐山駅まで10分はあるから、少しの間寝ても文句は言われないだろう。眠気に抗うことを諦めて、そのまま眠りについた。


 そして、10分後。途中で乗り換えをしつつ、1時間弱で目的地である嵐山駅へと到着した。

 

「……あれ?」

 

 なんか前よりも全体的に空気が重いというか、どんよりしてる気がしたんだけど、気のせいかな。 大神学園に行く前はそんなことなかったんだけど……。まぁそんなに気にすることでもないしな。


 私は先を歩いていた熾蓮たちを追いかける。すると、駅周辺の人の多さに薫がこう呟いた。

 

「にしても、人いっぱいだね」

「せやなぁ」

「まぁ、この時期は修学旅行とかあるし、平日でも普通に外国人観光客は来るからね」

「取り敢えず、渡月橋辺りまで行ってみよか」

「ですね」


 私たち5人は阪急嵐山駅を出て、住宅街を進んでいく。この道歩くの3週間ぶりだな~。大神学園に入る前はほとんど毎日のように歩いてたのに。

 さて、今のうちに頭の中で、今回の任務の再確認をしておきましょうかね。まず、目標は烈級祟魔を祓うこと。配られた資料によると、ここ数週間、嵐山では行方不明者が続出しているらしい。

 私が大神学園に入学してから発生しているようで、明確な原因は不明。ただ、行方不明者のほとんどが千鳥ヶ淵ちどりがふちの近くで死体となって発見されているらしい。思金神の推測では、祟魔がかかわっているとのこと。今回はその行方不明者を探すと同時に、烈級祟魔を祓えれば任務は完了となる。

 基本的に今回の初任務では、低級祟魔の退治を成功させることが目標で、他の班の任務も私たちと似たような感じらしい。

 

 7分ほど歩いていると、北桜神社の参道の前を通りかかった。ここをもう少し行けば、渡月橋とげつきょうだ。


「あれ? なんだか着物着てる人やスーツの人たちが多いですけど、何かあるんですかね?」


 祈李の目線の先には、お寺へ続く脇道に着物やスーツを着た多くの人が並んでいた。私と熾蓮はお寺の方を見ると、納得したような表情を浮かべた。

 

「それは、この時期はみんな十三参りに来てるからやろうな」

「十三参りといえば、満13歳になった子供たちが神社とかお寺にお参りするやつだよね?」

「そうそう。大体の人は春休みとかこの時期に来る人が多いかな。それとほら、あそこの看板見える? あのお寺の名前が法輪寺ほうりんじって言うんだけど、京都の十三参りのスポットとして有名なんだよ」

 

 私は門の前にある白い看板を指さす。そこには大きな文字で『十三まいり 法輪寺』と書かれていた。


「なるほど。そういうことだったんですね」

「にしても、秋葉詳しいね?」

「生まれたときからここら辺に住んでるからってのもあるけど、うちの神社がこの近くにあるから自然と詳しくなるんだよ。ほら、観光案内とかたまにしなきゃいけないときとかあるでしょ?」

「あー、それは確かに。たまに観光客の人から『ここにはどうやって行けば良いんですか?』とかって、訊かれたりするもんね」


 特にうちの神社の近くには観光案内所がないから、参拝者が尋ねに来ることがある。初めて、訊かれたときは戸惑ったな。相手が外国人観光客だったからってのもあるし、英語が大の苦手だったから、エルに助けてもらいながら対応したっけ。そういえば、あいつ元気にしてるかな~。時間があればついでに様子を見に行きたいんだけど……。

 

 神社あるあるを話しながら更に進むこと3分。渡月橋の下を流れる大堰川おおいがわが見えてきた。


「ここがテレビとかでよく見る渡月橋か~」

「せやで。関西地域外の修学旅行生とかよう来とるよな」

「だね。えーっと、今回はここ渡らないんでしたっけ?」

「そうやな。千鳥ヶ淵にはこのまま左折してしばらく歩いたら着くし」

「了解です」


 私たちは織部先生の言う通りに、川沿いの道を進んでいく。川の方を見てみると、保津峡ほづきょう下りの船がちらほら見える。

 

 川下って何が楽しんだか。大体、修学旅行生とか観光客が多いせいで、地元民は苦労してるんだよね。これ以上言ったら止まらなくなりそうなので、この辺で留めとくけど。


「にしても、今日暑くない?」

「確かにそうだね。昨日は涼しかったのに」

「最近の気温はよう分からんな」


 25℃とか4月の気温じゃないよ。人も多いから熱中症にでもなったらどうしてくれんの。でも見た感じ、まだ桜は咲いてるのか。遅咲きかな? うちの神社の境内の桜にも遅咲きのやつあったし。

 

 さて、そうこうしているうちに着いたようだ。千鳥ヶ淵は先ほどまで歩いていた道とは違い、人がまばらで、辺りは木々に囲まれていた。千鳥ヶ淵は大堰川の中でも最も水深のある場所で、7メートルほどの深さがあるらしい。

 特に街灯という街灯もなく、この感じだと夜には真っ暗になるだろう。幸い、今日の夜は月が出ているので、全く見えないということはないだろうけど。私たちは、河岸に立つと辺りを見回す。

 

「ここやな」

「でも、何もないですね……」

「祟痕も見当たらんし……」

「リーダーどうする?」


 えー、そうだな。こういうときってゲームだと異変とか違和感がないか探すよね。後はそうだな。聞き込みとか? ほら、よく刑事さんとかやってるし。まぁ、急に人の家のインターホン鳴らして、聞き込みするのもどうかとは思うけど。そこは先生がいるから何とかなるでしょ。

 

「んー、取り敢えず30分ぐらい辺りを探索してみて、何も出てこなかったら近所の人に聞き込みする感じで行こうかな」

「了解」「分かりました」「せやな」


 探すこと30分。

 

 やっぱり嵐山に来てから全体的に空気が重いような気がするんだけど、これって何か関係あったりするのかな?

 

 他のみんなにそのことを聞いてみる。すると、やはり他の皆も空気が重いと感じていたようだ。だが、暑さや人混みにやられて身体がダウンしている可能性もあるので、一旦その件は保留にしておくことに。それ以外は何も変わったところは見られなかったので、取り敢えず、近くにある千光寺せんこうじへ聞き込みに行くことになった。

 

 


――――――――――――

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