第8社 時にスマイルは人を殺す武器となる
「よぉ、無事か?」
青年はそう言いながら、茂みの中から出てくる。腰には刀を差しており、藍色の袴と黒の羽織を羽織っていた。私たちの方を見ると、無事かどうかを確認してくる。多分、この人が助けてくれたのだろうか。霧のせいでよく見えなかったので、私はさっきの異形かもしれないと警戒する。
「だ、誰……ですか?」
「ん-? 俺は、そうやな……。通りすがりの退魔師みたいなもんや」
「って、ことはさっき私を救ってくれたのって……」
「あー、俺やな。手荒な真似してすまんかった。怪我とかない?」
ってことはこの人が、私を放り投げたのか……。助けるにしても、もう少しやり方ってもんがあっただろうに。まぁ、助けてもらった側が言えることじゃないけどね。
あ、そうだ。怪我と言えば――
「えっと、背中とお尻打っただけで、大したことないですよ。これでも頑丈なほうなんで」
「そっか。なら良かったわ」
そう言って、青髪ポニテの青年は私に手を差し伸べてくれた。私が彼の手を取ると、立ち上がらせてくれる。その拍子に、落ち葉がスカートから落ちていった。
こりゃ、帰ったらクリーニングに出さなきゃな……。だいぶ汚れちゃったし。
「ありがとうございます」
「どういたしまして」
私がお礼を述べると、青年はニコッと歯を見せて笑った。
おっふ。なんだこの無邪気なスマイルは。オタクの私を殺す気か。
天を仰ぎそうになっていたところを我慢して、気になっていたことを青年に訊く。
「あ、あの……質問良いですか?」
「なんや?」
「さっきの気持ち悪い異形って何なんですか?」
「んー、あれなぁ。分かりやすく言うなら、妖怪とかそういう類のやつやな」
「あ、なるほど」
はぇ~、マジでそういうのっているんだ……。てか、そう思ったら、今まで見えてた変なモノもそれに入るのかな……。
青年の話を聞きながら今までのことを振り返っていると、彼が驚いたような表情でこっちを見てきた。
「って、もしかしてあんた、そういうの視える人?」
「あ、はい……。多分……」
「へぇ~、そうなんや。なら俺と一緒やん!」
「あ、そうなんですね。私、自分以外に視える人初めて見ました」
マジか……。私以外にも視える人っているんだ。ずっと、うちの家族だけかと思ってた。今まで友達に話しても信じてもらえなかったし、変な目で見られることが多かったんだけど。仲間がいて良かった~。
「で、あんたはなんでこんなところにいたんや?」
「あー、私の家がこの山の麓にあって……」
「ほんで、学校帰りに襲われてしもたんか」
「そ、そうです」
私の制服姿を見て判断したのだろう。青年は納得したのか、ふいに私の隣を見て、エルに顔を寄せた。
「にしても、さっきから嬢ちゃんの隣でふわふわ浮いてるやつはなんや?」
「あー、エルですね。こいつも妖怪みたいな感じで、私にしか見えなかったんですけど」
妖怪なのか何なのか未だに分からないんだけどね。自称神様らしいけど、本当なのかどうか……。
エルについて説明していると、エルが青年の方を向いて、喋り始めた。
「やっほー、ボクのことが見えるなんて凄いね!」
「まぁな。にしても、なんか神獣みたいな見た目しとるな」
「まぁ、それと似たようなもんだね」
神獣……? 何だろそれ? ……神獣っていうと、中国の四神とかそういう感じ……? でも、合ってるか分かんないな……。
聞いたことのない単語に首を傾げる。エルは知っているようだから今度聞いてみるか。私がそう考えていると、青年がこちらに顔を向けた。
「あ、そうや。一応、名前聞いてもええ?」
「あ、はい。北桜秋葉って言います」
「ってことは、北桜神社の?」
「あ、はい。そうです」
「ほぉ、なるほどな」
青年は、私が北桜神社の者だと分かると、妙に納得したような声をあげた。
そういえば、この人の名前聞いてないな……。口調からして関西の人なんだろうけど。
私が名前を訊くために口を開こうとすると、青年が話し始めた。
「あ、ちょっと席外すけどええ?」
「あ、はい。大丈夫ですよ」
青年は一言謝ると、少し離れた茂みの方に走っていった。私は不思議に思いながら、男性の方を見る。
誰かと話しているようで、私のときよりも砕けた口調になっていた。
少しの間待っていると、青年がこちらに戻って来る。
「すまんな。急に」
「いえいえ。あ、ところで、名前お伺いしても良いですか?」
「あー、そういや、まだ名前言うてへんかったな。俺は
「はい、よろしくお願いします」
大東ってまた珍しい苗字だな~。まぁ、私もそうなんだけど。
私はそう思いながら、軽く会釈をする。頭を上げると、大東さんが喋り始めた。
「っと、そろそろ戻らなあかん時間やし、別れる前に1つだけ。今日のことは誰にも言うたらアカンで」
「? はい、分かりました」
「ほな、気をつけて帰るんやで~」
「ありがとうございました」
私が頭を下げると、大東さんはこちらに手を振りながら去っていく。それを見届けると、エルと共に家に帰るのだった。
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