第20社 無知は周りを凍り付かせるものなり part2
「あ、そういえば……。私、自分の祓式が何なのか知らないんですけど……」
「な、何やて⁉」
織部先生は私の発言に驚きの声を上げた。いや、先生だけではない。試練場Aにいるほとんどの人が驚愕の表情を浮かべている。悠は勿論、先ほどまで話していた美澪や詞貴まで私の方をガン見していた。
「え、えーっと……」
めっちゃ気まずい空気になってしまった……。これあれだ、勇気を出して発言したは良いものの、周囲の反応が微妙なときに似てる……。じゃなくて、どうしよ。祓式なんて単語すら最近聞いたばっかだし、よくある特殊能力だってことは分かるんだけど、私の人生一度もそういう現象起きたことも起こしたこともないし。
「と、取り敢えず、測定してない子らに先やらせてもええか?」
「わ、分かりました」
先生はそう言うと、残りの人たちの測定を始める。この場にいては邪魔になると思い、私は一旦後ろの方に下がった。すると、悠が慌てながらこちらにやってくる。
「え、自分の祓式が分からないってどういうこと?」
「どういうことと言われても……。私にはさっぱり……」
こんなことなら、ちゃんとお母さんかおばあちゃんに聞いとくんだった……。
「薄々思ってはいたけど、あんた本当に何も知らずにここへ入っちゃったのね」
「ご、ごめんなさい」
「別に謝らなくていいってば」
悠が呆れたようにそう言うと、全員分の測定が終わったのか、先生がクラスのみんなに次の指示を出し始めた。少しの間悠と話しながら待っていると、先生がやって来る。悠は先生から指示を受けると、クラスのみんなのいる方へ行ってしまった。
「ほな、いくつか質問してもええか?」
「はい。私に答えられることであれば……」
先生は真っ白な紙を挟んだバインダーとボールペンを手に私へ質問をし始める。
「まず、7歳の時に統制局の検査って受けたか?」
統制局って言うと、祓式といった能力を持っている人を管理し監視する機関。って悠に教えてもらったけど……。受けた覚えか……。検査に行ってたら、先生が私の検査資料持ってるはずだし……。確かその頃ってなんかあったはずなんだよね。7歳……7歳……。あ、そういえば。
「その時は母の葬儀でバタバタしてたし……。後、親から8歳までは外に出るなって言われていたので、多分受けてないと思います」
「その外に出るなっていうのは?」
「なんでかは分からないですけど、そう言われていて……」
「んー、なるほど……」
先生は私の返答を聞くなり、紙にメモをし始める。
そういや、なんで出ちゃいけなかったんだっけ? 自分でもよく分かってないんだよね。訊こうにも家族全員亡くなっちゃってるしな……。
先生がメモを取り終わるのを待っていると、次の質問をされる。
「統制局の検査受けてへんとなると、こりゃ俺らで秋葉の祓式を推測するしかないな。確認やけど、秋葉は北桜神社から来たんよな?」
「はい、そうです」
祓式の推測か……。私が祓式持ってるってことは、お母さんやお父さん、おばあちゃんも持ってたってことだよね? 本当に何も知らないんだけど……。
「やっほー、何か困り事があるみたいだね」
「うぉ、何やこいつ。神獣か?」
先生は突然現れたエルに向かってそう訊く。
なんか、前にもエルが神獣って言われてたけど、本当に神獣ってなんだろ。後で先生かエルにでも訊いてみるか。
そう思いながら首を傾げる。
「ま、そんなもんかな。後、こいつとは失礼だね。ボクにはエルっていうちゃんとした名前があるんだけど?」
「おー、すまんすまん。こりゃ失礼しましたエル様」
「なんかムカつく……!」
エルが気に食わないという表情を浮かべながら手足をバタつかせる。
エルって案外、挑発に乗りやすいタイプだったり? いや、多分織部先生と反りが合わないだけか。
2人のやりとりを見ていたら、先生が本題に戻ろうと話し始めた。
「それで、エルはなんか知っとるんか?」
「んー、そうだね。北桜家の祓式系統を思い出してみたらどうかな?」
「あ、その手があったわ。秋葉、ちょっと待っといてくれへんか?」
「は、はい」
エルにアドバイスを貰った先生は、急いで試練場を出ていく。私はその間、エルに神獣とは何なのかを聞いてみることに。
「ん? あぁ、神獣ってのは神の使いみたいなものだよ。先生はボクの見た目がこんなんだから勘違いしたんじゃない?」
「あ、そういうことね」
エルはそう言いながら、くるっとその場で1回転してみせる。
まぁ、この容姿なら誰だって神獣だと思うよね……。いや、だって見た目的には狼のマスコットだし。喋らなければ、ぬいぐるみ扱いだってされそうな気がするんだけど。
ふわふわ浮いているエルをじーっと見ていると、先生が帰ってきた。
「あ、どうでした?」
「秋葉の能力は多分、憑依や」
「……憑依?」
先生の推測を聞いた私は、またしても首を傾げるのだった。
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