第1章 模擬訓練編

第19社 無知は時に周りを凍り付かせるものなり

 校舎を出てから徒歩5分のところに試練場はあった。けど、悠が途中で道を間違えてしまい、結局着いたのは始業1分前。大半のクラスメイトが出席番号順で列に並んでいたので、私と悠はそれぞれ自分の場所へ向かった。


「これで全員揃ったな。ほな、移動するで」

 

 織部先生は全員が揃ったのを確認すると、試練場Aと書かれた建物の中に入っていく。私もそれに続いて入っていくと、何やら市街地のような建物やビル、トレーニング施設などが並んでいた。


 なんかよく分からないけど、凄いところに来てしまったということだけは分かる。


 どうやらこれから、この施設についての説明があるようだ。私たちは先生の指示を受けてその場に座る。

 

「ここは試練場って言うてな、中には祟魔たちと戦うための模擬演習ルームとか、自己強化のできる修練場が揃うとる。今回やる、祓式測定もここでできるようになってるんや」

「先生ー、祓式測定ってなんだよ?」

 

 ここで、呉羽さんが手を挙げて先生に質問する。

 

 分かる。能力測定とか何するかも聞いてないんですけど……。


 呉羽さんの疑問に頷きながら、先生の話を聞く。


「祓式測定は、文字通り、自分の能力――つまり祓式がどこまで扱えるか測るためのもんや。毎年入学してきた1年生には受けてもらっとる。勿論、君らも例外やないで。そんで君らには、自分の能力を把握した上で、4月29日に行われる初回任務の場で、祓式を扱えるようになってもらう。実習訓練の最終日には実技テストもあるから、覚悟しときや」


 え、任務って何⁉ しかもその日って祝日じゃん。そんなの聞いてないし、普通に無理じゃない? 私、運動そんなに得意じゃないんだけど……。

 

 と、絶望している間にも、どんどん説明がなされていく。先生によると、今日の授業では、自分の祓式の測定及び祓力の扱い方を学ぶらしい。


 終わった……。私の高校生活終わった……。


 頭を抱えている間にも、測定が始まっていく。祓式の種類によって測定方法が変わってくるらしいのだが、基本的には10メートルほど離れたところにある的を破壊すればいいらしい。他の人が測定している間、私は適当な位置で待つことに。

 出席番号1番の詞貴さんは先生から指示を貰うと、何かを喋り始める。すると、的が前触れもなく破壊された。


「え……? どういうこと?」

「……多分、詞貴の祓式は言霊じゃないかな?」


 困惑した表情を浮かべていると、隣から声をかけられる。

 

「あ、えーっと……」

「ボクのことは美澪って呼んで良いよ」

「それじゃあ、よろしく美澪」


 隣に座っていた美澪から話しかけられ、私は戸惑い気味に返事をする。


『何、動揺してるのさ』

『いやだって、話しかけられるとは思わないじゃん! って、エルいたんだ』

『忘れ去られてるとか酷いな~。面白そうなことやってるなと思って来てみたんだけど』

『あ、そう。周りの迷惑にならないようにね』


 自分の頭の上に乗っているエルの方をチラリと見てから、美澪の方に顔を向ける。


「にしても、なんで言霊だって分かったの?」

「いや、的が壊れる前になんか口元が動いてたからさ。多分そうかな~って」

「へぇ、よく分かったね」

 

 美澪が答え終わると、前からやってきた詞貴さんにそう言われる。どうやら祓式測定が終わったようで、今は待ち時間らしい。

 私は詞貴さんに軽く挨拶をする。


「あ、どうも」

「確か、美澪さんと秋葉さんだったよね?」

「そ、そうです」

「どうも~」


 軽く挨拶をしていたら、歓声が聞こえた。どうやら隣で同じく測定をしているB組のようだ。皆、一様に空の方を見ている。視線が集まっている方を見ると、背中から金色の翼を生やした薄緑のポニテ少女が空に浮いていた。手には団扇を持っている。彼女が団扇を軽く仰ぐ動作を見せると、的は風圧で散り散りに破壊された。その光景にB組は勿論、私たちA組までもが驚きの声を上げる。


「凄い。もしかして天狗かな?」

「多分そうじゃない? 天狗と言えば、鞍馬山だし。ここからそう遠くはないから」


 京都の北東の方に位置する鞍馬山には大体天狗がいると伝えられていて、その鞍馬山には由岐神社がある。だから彼女に天狗の祓式が与えられたのかな。確か、そこの神社はご神体が大木だったはず……。


「よく知ってるね」

「へっ? こ、声に出てました?」

「うん、それはもう」

「す、すいませんでした……!」

 

 恥ずかしさのあまり、赤面しながら思いっきり頭を下げる。

 

 うわ~、やっちゃった……。設定とか作るときにそういう情報はだいぶ調べてるから……。にしても、ここに来てから色々とやらかしてる気がする。もっとしっかりしないと。

 

「いや、良いよ。秋葉さんが面白い人だって分かったしね」

「全然面白くないですから!」

「あはは。……あ、そうそう。敬語じゃなくてタメで大丈夫だよ。同い年だしね」

「あ、分かりま――じゃなくて分かった……」


 そう話している間にも、順番はどんどん進んでいき、ついに私の番となった。

 

 うわ~、緊張する……。

 

 恐る恐る先生の元へ向かう。後ろをチラッと振り返ると、美澪と詞貴が頑張れという風に手を振っていた。

 

「ほな。秋葉の番やな」

「は、はい」

「そんな緊張せんでもええのに。……ん? 秋葉の資料が見当たらんな……。何でや?」

「あ、そういえば……。私、自分の祓式が何なのか知らないんですけど……」

「な、何やて⁉」


 先生は私の発言に驚きの声を上げた。いや、先生だけではない。試練場Aにいるほとんどの人が驚愕の表情を浮かべている。


 あれ? これもしかしなくても、だいぶまずいこと言っちゃった感じ?


 額に冷や汗をかきながら、事態の深刻さを察するのだった。

 



☆あとがき

というわけで、第1章模擬訓練編が始まりました!

秋葉の祓式は一体何なのか⁉ ぜひ予想しながら読んでみてください。

そして、ここまで読んで面白かったと思った方はいいね・ブックマーク・レビュー・応援コメントなどをしてくださるとモチベーションに繋がります!

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