幕間 後始末というものは基本厄介

 初任務が終わって、学園の方に戻ってきた俺は、学園長に提出する報告書の作成に追われとった。

 

 大体、締め切りが今日の13時までとか頭おかしいんとちゃう? 後2時間もないんやけど……。


 周囲の先生らを見てみると、1年の初任務に引率しに行ってたんか、みんな疲れた様子で報告書の作成をしてはった。自分の隣で作業してるB組の担任の豊田サルも、眉間にしわ寄せながらキーボードをカタカタ言わせとる。


 はー、おもろ。いや、笑いごととちゃうねんけど。


 内心で愚痴を吐きながらも、何とか締切15分前に報告書を完成させた。

 

 後はこれを本館の方にある学園長室へ持ってくだけやな。

 

 席から立つと、書類を印刷して職員室を出る。学園長室のある本館ちゅうんは、生徒会室とか事務室みたいな重要施設がぎょうさんあるところで、学園長室はそこの最上階にある。


 眠気で視界がぼやけそうになる中、本館へ足を踏み入れる。最上階までの階段を上がればいい話やねんけど、生憎上る元気もないから、エレベーターで最上階である5階まで行くことに。

 学園長室へ着いた俺は入室許可をもらうために、扉をノックする。そしたら、中から初老の女性の声が聞こえてきた。

 

「どうぞ、お入りください」

「失礼します。1年の初任務の件で報告に来ました」


 扉を開けると、部屋の奥に初老の婆さんがえらい高そうな椅子に座っとった。あれが学園長の西園寺美和子。うちらの界隈の重鎮とも呼べる西園寺家の現当主にして、稀代の特級代報者の1人でもある。

 

 相変わらず人の良さそうな笑み浮かべよって……。腹立つやっちゃな。

 

 書類を学園長の机に提出すると、彼女は報告書を受け取りつつ、笑みを浮かべてこう言った。

 

「おや、織部先生。あなたでしたか。昨夜は夜遅くまでご苦労様でした」

「そら、どうも」

「では、聞かせてもらいましょうか。昨夜の任務のことについて」


 学園長に促され、俺は順番に書類を見ながら報告していく。一通り話し終えると、学園長は書類から目を離して俺の方を見た。


「何か言いたいことがあるようね?」

「えぇ、まぁ。学園長も分かったはるとは思いますけど、祟魔の階級についてです。当初、私共わたくしどもは烈階級の祟魔を祓うという予定で行動していました。ですが、実際にいたのは凶になりかけとる惨。事前の情報とちゃいましたけど、これは一体どういうことでしょうか?」


 そう問いかけると、部屋に沈黙が下りた。


 まさか、気づいてへんかったなんて言い訳が通用するとか思とらんよな? あの子らと別れてから、嵐山を転々としてたけど、異常なほど瘴気が漂っとった。それは学園長も分かっとるはずやろう。

 

 俺は学園長が口を開くのを待った。


「何、生徒たちがどこまでできるか試しただけですよ。あなたの受け持った班は実技テストで優秀な成績を収めた者たちばかりでしたから。……それにあの子――秋葉さんの能力がどこまでなのか測る必要があった」

「ほーん。なんや、えらいあの子のこと気にかけてますけど、なんかあったんですか? あのとき、秋葉の能力が憑依やということを俺の方に伝えたのも先生でしたよね?」

「……昔の親友に言われましてね。秋葉さんのことを頼むと」


 学園長の言うてはる親友は秋葉のおばあさんのことか。そういや、あの人もえらい怖い人やったって界隈では有名やったな。ほんなら説明がつくわ。あの子、中学のころから1人やったらしいし。やから、秋葉の能力を最大限生かすために、嵐山を選んだっちゅうわけか。

 

「なるほど。よう分かりました」

「私は立場上、不用意に秋葉さんには近づけませんからね。いざというときは頼みましたよ。信武くん」

「はいはい。任されました」


 俺は適当に返事をしておく。

 

 報告書出し終わったし、もう出てってええかな? 次、授業やねんけど……。

 

 そう思っていると、学園長から質問された。

 

「それで、あなた昇級試験はどうなさるおつもりで?」

「あー……今回もパスで」

「全く、せっかく才があるというのに。あなたという人は……」

「いや~、うちの神さんみたいに天下を目前に道半ばで死にとうないですからね。それに強い輩は狙われやすいそうですし、俺はそういうの嫌なんで。ぼちぼちやっていきますわ」


 昇級試験とか面倒臭い以外何も思わへんねんけど。筆記から実技までやらなあかんし。まぁでも昇級した分、給料は上がるらしいからな……。地位もその分上がるから、そういうの好きな人らはやらはるんやろうけど、俺はそういうの興味ないし。

 

「あら、そうですか。昔からそういうところは変わってませんね」

「そらどうも。ほな、俺はそろそろこれで――」

「――ちょっとお待ちなさい」

 

 そう言いつつ、踵を返そうとすると、学園長に引き留められた。

 

 何やねん。こっちは、はよ戻りたいんやけど……。

 

「あなた、生徒会役員のこと忘れてませんよね? 去年はギリギリに提出してきて困らされましたから」

「あー、もうそんな時期ですか。今年はちゃんと余裕もって出しに来ますんで、そこは安心しとってください」

「その言葉、信じていますよ」

「えぇ。ほな、今度こそ失礼します」


 俺は学園長に一礼してから、部屋を出る。

 

 生徒会か……去年はだいぶ騒がしい面子やって、生徒会顧問の胃が死にかけてたらしいけど、今年はどうなるやろな。いや~、楽しみ楽しみ。


 そのまま本館を出て、教材を取りに職員室の方へと向かうのだった。

 


────

【重要!】

第3章完結を持ちまして、この作品を改稿し、更に天リクがパワーアップしました。そちらの方に第4章以降を掲載予定です。大変申し訳ありませんが、下記のURLから飛んでいただければと思います。誠に勝手ではございますが、これからも『天界の代報者~神に仕えし者たちの怪奇譚~』をどうぞよろしくお願いいたします。

・URL(11月23日午前9時に掲載予定)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る