第21話
あかりと2人、タクシーに乗って移動する。
運転手のおじさんがフレンドリーに話しかけてきた。
「2人は付き合ってるの?」
「そんな事、無いです」
「今ならイチャイチャしてもいいよ。おっちゃん何も言わないから」
「は、ははは」
そう言われたらイチャイチャ出来ないんだよなあ。
ただでさえ出来ないのに。
仮にだ、イチャイチャ出来たとしてにやにやしながら『何も言わないから』とか言っている人は信頼できない。
田舎はすぐに噂が広まる。
あかりを見ると自分の手をうちわにして顔を仰いでいた。
可愛い。
タクシーの中ではあかりと話をする事は無かった。
タクシーを降りると気が付いた。
「あかりさん」
「あかりさん?」
「ネットで叩かれるかもだからあかりさんって呼ぶようにしてる」
「私は重君でいいよね?」
「うん、実は、新幹線の切符を買った事が無いから、買い方を教えて欲しい」
「……あ~。私が2枚買うから見ていて」
「お願いします」
俺は斜め後ろからあかりが切符を買うのを見ていた。
田舎には新幹線が無い。
そして都会に遊びに行く事もなかった。
「ふふふ、子供みたいで面白いね」
俺が首を伸ばすように切符を買う様子を見ているのが子供のように見えたんだろう。
「まあ、未成年だから」
「大人の私に任せておきなさい、と言っても都会に住んでいただけなんだけどね」
「次からは1人で行けるはず」
「東京駅の方がもっと分かりにくいかも」
「ふう、東京駅の迷宮を脱出するまで気が抜けないな」
「ふふ、ダンジョンより迷っちゃう?」
「どうだろ? 看板を頼りに進めば出られるかな?」
「出られるよ。迷わせる為に作った駅じゃないから、あ、後10分で出発だよ」
2人急いで新幹線に乗った。
「あ、私より重君が窓側に座った方が良いよね?」
「え? 良いんですか?」
「どうぞ」
「ありがとうございます」
2人並んで座り新幹線が発進する。
人の視線を感じた。
そして東京に近づくほど乗客が増えていく。
多くの視線を感じるようになりあかりと俺は会話をせずに座ったままだった。
「あかりさんですよね? 握手してください」
若い男性が手を差しだし握手をする。
「ど、どうも」
「頑張ってください、僕は応援しています!」
「あり、がとう」
男が離れていくとあかりが俺の耳元で囁いた。
「何を応援しているのかな?」
「さあ」
批判に負けず頑張ってください応援していますなのか、それともファンなのでいつも応援していますなのか分からない。
でも、『僕は応援しています』と言っていた。
批判に負けず頑張ってくださいと言ったのか?
わざわざ批判の言葉を今ここで言う必要は無いか。
「また、来た」
「え?」
「あかりさん、握手をお願いします」
「う、うん」
あかりが少し困った顔で握手に応じた。
その後も合計10回握手を求められる。
これは疲れるだろうな。
肯定的な言葉なら止める事は無い。
でも批判をして来る人間がいたら間に入ろう。
いや、待てよ。
「あかりさん、やっぱり席を変わりましょうか?」
俺は少し大きめの声で言った。
「え?」
「もうこれで握手が10回目ですよ。疲れるでしょう」
「大丈夫」
「一応僕は背が高くて迫力があるので、少しでも握手をしにくくなると思います」
「大丈夫」
「そうですか」
大きめの声でここまで言っておけば握手が減るはずだ。
あかりの隣に今度は女性のファンまでやって来た。
あかりは女性にすら人気なのか。
「あのお、重君、ですよね?」
「……はい? そう、ですけど?」
「あの、握手をお願いします」
「あかりさんじゃなくてぼく、ですか?」
「は、はい! あの、駄目ですか?」
「い、いえ」
俺はゆっくりと右手を出した。
女性が包み込むように俺の手を両手で握る。
「ああ、ありがとうございます。なんか元気出ました!」
女性がスキップをするような足取りで去って行った。
「何で、俺が」
「重君、バズってるの気づいてない?」
「え?」
「チャンネル登録者数見てる?」
「いや」
「見た方が良いよ」
「んん? 登録者数100万、越えてる」
「動画の切り抜きも見て、ほら」
あかりがスマホをかざして動画のサムネを俺に見せる。
『天才高校生冒険者、徹底検証まとめ』
『溢れ出しを止めた魔法剣士・Aランク昇格試験に動く』
『岩田重・ついに山が動く』
『アツシ君、クイックで最速Aランク到達か!?』
「まだ、試験すら始まってないのに」
俺は画面を閉じてAランク冒険者や海外のSランク冒険者の動画を見る。
「コメントとか、気にならないのかな?」
「あんまり見ないです。それよりも動画を見て動きを勉強してます」
俺は動画を見て時間を過ごし新幹線を降りた。
そしてあかりの案内でホテルの前に立った。
「このビルが全部試験の為に貸し切り?」
「そう、昇格試験を受ける人とサポートする人は無料だよ」
「中を見てみよう!」
「重君、走らないで」
俺は速足でホテルに入った。
「お待ちしておりました。岩田重様と朝光あかり様ですね?」
「「はい」」
「こちらへどうぞ。冒険者アプリのQRコードをご提示ください」
QRコードを機械にかざす。
「処理が終わりました。こちらのカードキーを番号のお部屋にかざす事でご利用いただけます。食事やその他サービスはすべて無料になっております。お部屋にこのホテル内にある施設を案内をするパンフレットがございます。ご不明な点がございましたら何なりとお電話ください」
あっさりとした説明が終わるとあかりさんと別れて部屋に入る。
手始めにベッドにダイブしてからジャンプし、パンフレットを眺める。
ふむふむ、冒険者がいる期間限定で時間の制限はあるけどバイキング形式で食事ができる。
店員さんを呼ばずに自分のペースで食事が出来て良いな。
部屋にバスタブがあるのか。
部屋を動いて確認していく。
ん?
部屋の電話が鳴った?
『もしもし、あかりです』
「う、うん」
『びっくりさせちゃってごめんね。明日2人で東京ダンジョンに行ってみない?』
明日2人で。
この文字に胸が高鳴った。
「行きます!」
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