第32話
満員の会場。
そのステージに立つと俺達はスポットライトに照らされた。
「ただいまよりAランク昇格試験、本試験1次試験の合格者を発表します!」
「「わああああああああああああああああああああああああ!」」
8人いるはずのステージには6人しかいない。
俺は周囲を見回した。
「重選手、どうしました?」
「い、いえ、イキリヤさんと後1人、女性の方が足りないので」
「なるほど、雨宮 瑠香さんは錬金アイテムの不足から過労に陥りギブアップしました。戦闘能力の点では及びませんでしたが、錬金術の能力が高い為、錬金方面で頑張ってAランクを目指して欲しい所です」
ヒーラーと錬金術師は戦闘能力が多少低くてもAランクになる場合もある。
「そしてもう1人、井切屋学さんは過労で倒れ、惜しくも不合格となりました」
その瞬間に会場から笑いが巻き起こる。
スマホを見ている人も多い。
面白いコメントでもあったのか?
:イキリヤ、イキっておいて落ちてて草
:違う、あれは高度な笑いだ
:真剣にやっていると見せかけてウケ狙いだから
:本当にそうだとしたらサービス精神の塊だ
:流石イキリ負けのイキリヤ
:井切屋、また落ちたか
:お前らバカにしてるけどあの人Bランクの上位だからな
:イキリヤは2~3年に1度の逸材だ
:10年に一度じゃないのかよ!?
:そこまでじゃない、あくまで2~3年に1人の逸材だ
「一次試験の合格者は3名です! 上位者から順に発表を行います!」
:3位からじゃないのか?
:もうネットで2人までは誰が受かるかほぼ確定してる
:あ、3位争いがよく分からんのか
:得点は決まっている、でも他の要素があるか分からないから結局不明なんだ
「では合格者を発表します!」
ドラムロールが鳴り響きスポットライトが踊る。
「1位は3217点、剣奈良勝利選手です! 途中で失速はしたものの常に1位をキープしました!」
:やっぱりか
:流石勝利
:ああ、予想通り過ぎてつまらん
:ネットでは集計が終わって動画でアップされてたりするからな
「続いてなんと! 同率一位!」
スポットライトが眩しい。
「3217点、岩田重選手です! 序盤は最下位だったものの徐々に追い上げ同率一位に躍り出ました!」
:地味に追い上げたよな
:最初はモンスターがいなくて苦戦したけど途中から他のルートもモンスターが少なくなっていた、それが大きい
「最後の合格者を発表する前に、6人全員の総合得点を表示します!」
1位 剣奈良 勝利 3217点
同率1位 岩田 重 3217点
3位 拳 ガッツ 2112点
4位 緑川 神楽 2097点
5位 小杖 翼 2086点
6位 一番槍 すすむ 2084点
:やっぱり3位以下はほぼだんごか
:これ、誤差じゃね?
:ルート次第で順位は入れ替わっていたと思う
:ガッツは重と同じで訓練をしすぎて疲れていた、本当の実力はもっと高い
「では、最後の合格者を発表します! 3人目の合格者は拳ガッツ選手です! まずは剣奈良勝利選手、一言お願いします」
「次の試験でも俺が勝つ!」
「はい、岩田重選手、一言お願いします」
「次も頑張ります」
「最後に拳ガッツ選手、一言お願いします」
「うす、おいらまだまだ頑張るっす!」
「さて、惜しくも不合格となった緑川神楽選手、一言お願いします」
「実力不足でした。出直してきます」
「小杖翼選手、一言お願いします」
「納得いかない」
「仕方ありません。次のチャレンジに期待しています」
「こんな結果は認めない!」
「お、落ち着いてください」
「おかしいだろ! 3位から6位までほとんど得点は変わらない!」
「落ち着きましょう」
「ふざけるな! 今日の為にどれだけ頑張って来たと思ってるんだ!?」
「まずは落ち着こう!」
伸さんの声が聞こえた。
会場のステージに突風が発生して伸さんが飛び上がり、そしてステージの中心で着地した。
「進行の順序がおかしくなるけど最初に結果の説明をいいかな?」
「は、はい、お願いします」
「その前に、すすむ、一言あればどうぞ」
「結果は結果、前に進んで進めないと分かった今負けを認めよう」
「いいね。んじゃ、評価の解説を始めよう。選手の名前と得点の横にゴブリンキングを倒した数を表示できる?」
「……出来るそうですが少しだけ、お待ちください」
順位の横にゴブリンキングを倒した数が表示される
1位 剣奈良 勝利 3217点 3体
同率1位 岩田 重 3217点 7体
3位 拳 ガッツ 2112点 5体
4位 緑川 神楽 2097点 1体
5位 小杖 翼 2086点 0体
6位 一番槍 すすむ 2084点 1体
「ゴブリンキングの討伐数、これで何が分かるか解説するね。今回圧倒的に不利なルートに当たったのが重だ。次がガッツ、この2人はモンスターの少ないルートを引いた。その上で奥まで進む事を強いられた。で、ゴブリンキングを倒した」
「で、でもゴブリンキングはたった1点だ!」
「運営委員会の落ち度は否定しない。ただ、子供でも分かるシンプルなルールで試験が行われている前提で甘く見て欲しい。続けるね。ゴブリンキングの強さはBランク冒険者相当、つまりダンジョンの奥まで進みゴブリンキングを倒した選手は少なくともBランク上位の力を持っている。翼、ここまでいいかな?」
「言っている事は分かった! でも勝負の得点とは関係ない! ガッツと俺の得点はほぼ変わらない!」
「まだ続きがある。今回厳しいルートを引いたのは重とガッツだ。で、一番楽なルートを引いたのが翼だった。意味が分かるかな?」
「分からない!」
「正解は楽なルートを引いた選手は奥まで行かなくてもモンスターを狩れる、でもモンスターが少ないなら奥に進むしかない、その結果ゴブリンキングと多く遭遇した」
「まだある、翼がゴブリンキングと遭遇した動画を流せる?」
画面にゴブリンキングから逃げる翼の映像が流れた。
:これはダメだろ
:時間を見るとまだ余裕がある。倒して前に進むべきだったな
:これがイージールートを引いて得点でぶっちぎれなかった理由か
:伸の言いたい事が分かってきた
「もちろん逃げるなとは言っていない。翼が悪いとは言わない。でも、もし倒して奥に進んでいればもっと多くの得点を取れた。違うかな? ここで言いたい事は、一番楽なルートを引いておいて得点差を出せなかった事実、つまり単純に実力不足だ。他の人が不合格な理由も同じだ。ゴブリンキングを倒してもっと奥に進んでモンスターを倒して欲しかった」
「せ、戦士は1対1に強くて魔法タイプの俺は1対1に向かない!」
「翼、ゴブリンキングを倒さなかったのは悪くないと言った。でもそれはルールから考えると悪くない、そういう意味だ。Aランクは不利な戦況をたった1人で覆す存在だ。君ら3人はそこそこ頑張ったと思うよ、でもまだ足りなかった。上位3人と下位3人は得点以上の差があった、そう判断したんだ」
「そ、そんな、今まで努力して、今回も頑張って来たのに」
「気持ちは分かる。でも君にはこの試験の目的、継続戦闘能力と討伐力が欠けていた。次に行くね。重、前に出て」
「……え?」
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