第31話

【本試験2日目】


 ダンジョンから離れたトレーニング室で全身にオーラを巡らせていると周囲がざわつく。

 振り返るとAランク冒険者の涼音さんが入って来ていた。

 流石Aランク冒険者だ。

 トレーニングを欠かさず行っているようだ。


「お、おい、何でここに涼音が来るんだ?」

「入っていけないルールは無い」

「だがここは戦士向けの部屋で魔法は関係ないだろ?」


「身のこなしを身につけたいのかも、いや、違う!」

「ああ、今分かった」


 俺もトレーニングをコツコツ続けよう。

 俺はBランク、おじいちゃんのSランクまではまだまだ遠い。


「……君」


「重君」

「涼音さん?」


「おはよう」

「おはようございます」

「トレーニング、疲れない?」


「疲れないとトレーニングになりませんから」

「そう、あまり疲れを残さない方が良いんじゃない?」

「心配してくれてありがとうございます」


「素直でよろしい、少し休みましょう」

「いえ、実はこの部屋でも何人かに善意で同じアドバイスをもらいました。でも日頃の積み重ねを疎かにはしません」


「でも今はAランクの試験なんだし、1日目の点数が低かったわけだし、疲れを取った状態で巻き返しましょう」

「ありがとうございます。ですがトレーニングは続けます」


「じゃあ鉄の剣をもっといい武器に変えましょう」

「いえ、まだうまくオーラを循環させられないので鉄の剣を使います」

「子供も昇格試験を見ているの、変えてくれない?」


「それも周りからアドバイスを受けました。悪い見本になっているとか、子供が真似をするとか色々ネットで書き込まれているようです」

「今だけでも質の良い剣に変えましょう」

「すいません。トレーニングを続けます」


「涼音さんのアドバイスすら聞かないのか。あいつ、ある意味すげえな」

「この調子じゃ、2日目の試験でも巻き返しは難しいだろうな」

「ああ、1位と倍近く点数が離れているんだ」


「アドバイスを聞いてくれないの?」

「すいません」

「おじいちゃんのアドバイスが一番なの?」

「……はい」

「はあ、分かったわ、諦める」


 涼音さんが部屋から出て行った。

 その日の試験は順位を巻き返す事が出来ないまま終わった。




【本試験3日目】


 トレーニングを終えて昼食をとる為に街を歩くとあかりと優斗さんが並んで、笑顔で歩いていた。

 2人は、そういう関係なのか。


 思ったよりもショックだった。

 俺は、自分が思っている以上にあかりの事が気になっていたようだ。

 でも、よく考えたらあかりは誰とでもすぐに仲良くなる。

 俺もその中の1人に過ぎなかったのかもしれない。


 今はただ、毎日の積み重ねを続けるだけだ。

 食事を終わらせて、午後は本試験のダンジョンだ。




【本試験4日目】


 4日目の試験が終わりホテルに戻るとイキリヤさんが立っていた。

 軽く会釈をしてすれ違おうとするとイキリヤさんが話を始める。


「岩田重」

「……何でしょう?」

「お前は分かっているようなだ? この試験は短距離走ではないと」


「ああ、まあ、そうですね」

「そうだ、7日間続くモンスター狩り、この試験の真意は長く、ペースを落とさずに戦い続ける事にある」


「イキリヤさん」

「どうしたのだ? ライバルよ」

「さりげなく配信するのやめましょう」


:あの2人は目立つんだよな

:周りにいた人が集まってみんなが見ている

:あのキャラ何なの? どういう意図?

:ウケ狙いだろ


「むう、しょうがない。ではさらばだ」


 イキリヤさんが去っていくと人だかりが出来ていた。


「やあ、調子はどう?」

「伸さん、急に現れましたね」

「うん、それで、ちょっと体育館裏に来な」


「ええ、呼び出しですか! 本当に!?」

「そそ、前呼んだ部屋に来て、今すぐに」


 伸さんが俺の肩に手を置いた。


「ちょ、本当にカツアゲみたいな感じになってますよ」

「ははははははは。呼び出しがあるのは本当だから。所で、涼音のアドバイスを聞かなかったって本当?」


「本当です」

「いいねえ、それでこそ盛り上がる、ネットで噂になってるよ。見てないんだろうけど」

「……」

「怒ってない。都合がいいからね。本題はここからだ」


 伸さんが部屋の扉を開けるとそこにはあかりがいた。


「じゃ、後はよろしく」


 伸さんが俺を部屋に入れて扉を閉めた。

 

「重、お話があって……」



 あかりととある話をしてその日は終わった。


 そして本試験の7日間が終わり結果発表として会場に集合した。


 その時の俺は伸さんが何をしたいのか全く分かっていなかった。






 





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