第30話

【伸視点】


「重君はトレーニングだけで汗を掻いているね」

「重の行動パターンを把握した上で消耗するように誘導しているだろうからね」


 画面に8人の選手が映し出されてダンジョン内部の通路の前に立った。


『それでは、本試験、スタート!」


 他の7人は順調にゴブリンを倒していく。

 でも重だけは奥へ奥へと走っている。


「これは、流石に差をつけすぎじゃない?」

「俺もそう思う」

「いや、通るね。コメントを見てみ」


:重のとこだけモンスターがいないんだけど、おかしくね?

:政府公認で子供の冒険者育成を行っているからな、重には鉄の剣をやめて欲しいと暗に圧力をかけているんだろ

:ルール説明の時に色々言ってたな


:そういう事、重のマネをして高校生が質の悪い武具で挑んで死んだら政府が叩かれる

:国民の命を持ちだされると何も言えんわな

:重はあれだけ言われていい装備を買いに行かなかった、それがまずい

:でも、装備を変えろとは言われていないような気もする

:直で言われてはいなけど運営委員の言葉を聞いてはいるだろ


「重のルートが不利でもこのまま進むことが決まった」

「モンスターが出てきた、全部ハイゴブリン、重だけ強いモンスターと戦っているわ! これからAランク試験に落ちたみんなを連れて配信をする事になっているからそこで言えば」


「ダメだ」

「どうしてよ」

「僕達が問題点を指摘する事を向こうは考慮している。下手をすればもっと重が不利に働く」


「俺もそう思う」

「そんな」

「重君は大丈夫だ。これまでの試験で重君は俺達の予想を超えてきた」

「今は信じるしかない。出かけよう」


 カノンを残して3人で東京ダンジョンに入った。



 ◇



 帰って来るとカノンが笑顔で皆を呼んだ。


「順位とみんなのコメントの切り抜きが動画になっているよ。一緒に見よう」


 全員が座るとカノンがパソコン画面を見せる。


1位 剣奈良 勝利 817点

2位 小杖 翼 769点

3位 一番槍 すすむ 768点

4位 雨宮 瑠香 630点

5位 緑川 神楽 629点

6位 拳 ガッツ 523点

7位 井切屋 学 512点

8位 岩田 重 418点



「推薦した4人の内3人が1位から3位か」

「みんなの一言コメントも面白いよ」


 8人のコメントが再生される。


 1位 剣奈良 勝利


『俺がすべて1位で勝利する!』



 2位 小杖 翼


『初日は、こんなもんかなって感じです』



 3位 一番槍 すすむ 


『ひたすらに槍を構えて前に進む、ダンジョンでやるのはそれだけだ』



 4位 雨宮 瑠香


『錬金アイテムが途中でなくなっちゃいます。ピンチです』



 5位 緑川 神楽 


『ホテルの料理は質が高くて毎日参考になります』



 6位 拳 ガッツ 


『頑丈さとしぶとさだけは負けないっす!』



 7位 井切屋 学 


『まだ勝負は序章にすぎん。漆黒の騎士である俺の活躍を見ているがいい』



 8位 岩田 重 


『え? 最下位? ですよね。明日も同じ感じでモンスターを狩ります』




「ははははは、面白いでしょ? みんな癖が強いよね♪ あれえ、涼音ちゃん、僕が言うなみたいな目でみないでよね。動画はまだ続くよ」


『しかし、注目度ランキングは全く別の結果が出ました。そう、岩田 重選手がぶっちぎりの1位です』


「何があったの?」

「この後に出てくるよ」


 動画は本試験のVTRに切り替わった。


 大きな足音を立ててゴブリンキングが重に迫る。


『グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!』

『クイック!』


 重が高速で動き剣でゴブリンキングを斬り刻んだ。

 ゴブリンキングは一瞬で魔石に変わる。


『あれ? ゴブリンキングが弱く感じる』


「瞬殺、これでも、1点よね?」

「1点だね」

「おかしいわ」

「そうだね、でも、注目度ランキングは1位」


「ランキングはあくまで注目度だ、誰がAランクになるかではないだろう」

「う~ん、そうではあるけど優斗の言った通り、重君は何かをやる、持ってるね♪」


「所で伸、重君にクイックの才能は無い、そう言っていなかったか?」

「そうだね。その意見は今も変わらない」

「あんなに強いのに、しかも鉄の剣で倒したのよ」

「俺も分からん、あれは十分に強い」


「OKOK、認識の差が分かった。重のクイックは重の努力で獲得したものだ。その考えは変わらない。重の素質は時魔法には無い」

「それであの力なのはおかしいわ」


「涼音、話はまだ終わっていない。重に時魔法の才は無い。でも苦手だろうが何だろうが覚えたスキルは無駄じゃない」

「そういう事ね」


「それに、今回の試験は思ったより重の不利に働かない」

「それは俺も思った」

「僕も今日見て分かった」


「な、何よ?」

「7日間の結果を見ればわかるさ、それに、仕込みも入れている」

「気になるわ」


「まだうまく行っていないからね。第一試験が終わって結果が出たら言うよ。あ、そうだ、重にアドバイスをしに行く件、やっぱり言ってもいい」

「前は言うなって言ったじゃない。話が全然違うわ」

「状況が変わった、いや、替えようとしているからね」


「邪魔をされる事は無いとは思うが、念のために人に言わずに陰で進めるつもりだ」

「重君にアドバイスをしに行くのはいい、でも何かを企んでいる事は隠す、これでいいのよね?」

「うん、それで頼む」


 重が有利に働く策は考えてある。

 うまく行けばいいけど。

 やってみないと分からないからなあ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る