第29話
「Aランク昇格試験は皆さんお待ちかねの本試験に突入だよー!」
会場の観客席は埋まり歓声が響く。
「本試験に残ったAランクの8人が入場するから、みんなー、拍手で出迎えよう!」
俺達8人が会場のステージに並ぶと拍手が送られた。
そして進行のコスプレお姉さんが皆に意気込みを聞いていく。
そして俺の番が来た。
「岩田重選手、に意気込みを聞く前に、運営委員会からの言葉があります。読み上げますね」
「……」
「運営委員としては冒険者に最高の装備で試験に臨んでもらう事を是としています。ですが岩田重氏は鉄の剣で試験に挑んでいます。これは本人のみならず若い冒険者が真似をして命の危険を招く懸念があります。はい、えーと、簡単に言うと、良い子の冒険者さんが重さんのマネをして弱い装備でダンジョンに行くから危ないよ、と、そういう事になります」
「岩田選手、意気込みをどうぞ」
「頑張ります」
「はい、ありがとうございます。本試験第一戦の内容を発表します。舞台は東京ダンジョンです」
会場の巨大モニターに東京ダンジョンの外と中の様子が映し出された。
「各選手が7日間の間決められたルートを攻略します。毎日決められた時間の中でモンスターを狩って貰い魔石を拾った数をランキング化します。その結果で脱落者を決めます。得点に差が出なかった場合審議で合否を決める場合もあります。何か質問はありますか?」
「はい」
「どうぞ」
「魔石は拾った数ですか? ゴブリンもハイゴブリンも同じ得点ですか?」
「はい、ゴブリンもハイゴブリンも同じ得点になります。他に質問はありますか? 次に進みます」
「初日のみ午後に8人同時に決められたルートを進んでモンスターを倒してもらいます。ですが明日からは午前に4人、午後に4人でダンジョンのモンスターを狩る流れになります! 空いた時間はトレーニングに使うもよし、休むもよし、装備を整えるもよしです! 勝負はダンジョンの外でも始まっています! より良いコンディションで戦いに臨みましょう! 質問はありませんね? それでは本試験スタートです! 選手の皆さんはダンジョンに移動してください、みんな! 握手で見送りろう!」
【伸視点】
「やられた」
Aランクの4人が集まって配信を眺めていたが思わず声に出した。
「何がだ?」
「この勝負、重に不利だ」
「僕もそう思うよ」
「重君は明日から午後にダンジョンに入るわね、きっと午前中にトレーニングをするわ。疲れが取れない状態で試験をする事になるわね」
「それもある、でも他に2つ不利な部分がある」
「そんなにあるのか」
「伸の考えを聞きたいねえ」
「まず1つ目、重は不利なルートを割り振られている。昨日ダンジョンの下見をしたんだよねえ、で、重に割り振られたルートは奥に行かないとモンスターが中々出てこない」
「運営は思ったよりも露骨にハンデを出して来たな。だがバレる」
「そ、バレる、でもさっき言っていたでしょ? 鉄の剣は良くないってさ。何か言われても運営はこう言えばいい『戦う前から冒険者の在り方を見ている』とか『装備を変えないと危ない』とか色々言いようはある」
恐らく途中から重の武器が貧弱な事に論点をずらすだろう。
「そう言えば進行の台本がおかしいと思っていた。妙にダンジョンの外でも試合が始まっている事を強調していた」
「運営委員会は批判へのカウンターをしっかり考えてしかも事前に民意の誘導まで済ませている。で、2つ目は1つ目の不利に更に追い打ちをかけるルールだ。ゴブリンでもハイゴブリンでもゴブリンキングでも魔石を拾った時点で1点にしかならない」
「あ! 重君はモンスターを倒す為奥に進む事になるわ」
「そ、つまり奥で出てくるハイゴブリンとの戦いを強いられる」
「運営委員会のやり方はずるいと思うわ」
「でも止められない。向こうは万全の用意をしてきている。すべてにカウンターを用意して仕掛けて来ている」
「問題無い」
「優斗は余裕ね」
「重君ならその程度の不利は跳ねのける。Aランクは圧倒的に不利な戦局をたった1人で覆す存在だ」
配信に重が映し出される。
魔法の基礎トレーニングを行っていた。
『ダンジョン試験開始まで後1時間を切っています。そんなに魔力を使って大丈夫ですか?』
『え? 日課なので続けます』
「ちょっと優斗、大丈夫じゃないんじゃない?」
「……大丈夫なはずだ」
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