第33話

 前に出ると伸さんが言った。


「剣を出して。鉄の剣じゃなく、新しい方の剣ね」


 俺は収納魔法であかりに貰った剣を取り出した。

 あかりに剣を貰った時の事を思い出す。



 伸さんに部屋に入れられてあかりと2人きりになった。


「重、頑張ってるね」

「そうかな?」

「そうだよ」

「……」


 何の話が始まるのか全く分からない。


「受け取って欲しいものがあって」


 あかりが剣を取り出した。


「これは」

「普段は鉄の剣を使うと思うけど、収納しておいて」

「んと」


「あ、ごめん。説明するね。重が鉄の剣を使っていて子供に悪影響がある話が出てて、剣をプレゼントしたいと思って。でも重は基礎訓練の為に鉄の剣を使うでしょ? その剣が使いやすいんだよね?」

「そのために?」


「うん。でね、優斗さんが重の武器なら分かるって聞いて買って来てカノンに同じようなサイズで良い剣を作って貰ったの」


 優斗さんと2人で歩いていたのはその為か。

 剣を受け取って収納した。


「お守りみたいなものだよ」

「ありがとう。嬉しいよ」


「ふふふ、実はね。私が剣をプレゼントする事を考えていたら伸さんが来て、このままだと重が叩かれる。試験にも不利に働くって言って、どうせプレゼントしようとしても使わないからお守りとして渡すように言って、って」


「ああ、そういう事か」


 俺は収納した剣をまた出した。


「ゆっくり、振ってみていい?」

「いいよ」


 鞘から剣を抜いて振るとやけになじむ。

 規格品より使いやすく感じた。


「手に、なじむ」

「良かった」

 

 あかりが優しい笑顔を浮かべた。




 俺はあかりに貰った剣を鞘から引き抜いてかざした。


「重は鉄の剣を腰に付けている。でも何かあった時の為にこの剣を収納している。で、この剣は人間国宝のカノンが作った剣だ! 性能は保証するよ!」


:なんだ、ちゃっかり隠し玉を持ってんじゃん

:そりゃそうか。鉄の剣だけなわけがないよな

:いやいや、ゴブリンキングの溢れ出しの時折れた剣で戦い続けていただろ?


:あれって魔力切れで収納魔法を使えなかったんじゃないの?

:分からん、重ってそういう事をあんまり言わんからな


「良い子のみんな、重お兄さんももしもの時に備えてちゃんとした剣を持っている! と言うか、重は鉄の剣でゴブリンキングを瞬殺する力を持っているから今の装備で成立するんだよ。初心者が真似する事じゃない、良い子は分かるよね?」


:これで、重の武器について叩くことは出来なくなるな

:これでも重を叩き続ける人がいたらググレカスとか言われそう

:でも、トレーニングで体力を消耗している問題がまだあるだろ?


「重、剣をしまっていいよ。それともう1つ、試験の時だけ頑張っても合格できないから、良い子なら分かるよね?」

「伸さん、もっと詳しく解説をお願いします」


「OK、Aランクになれる人はその10年前、5年前の努力が大事だ。どんなに才能があっても何もしないでAランクにはなれない。弱いのに試験の時だけ頑張っても駄目なものは駄目だ。だって5年前、10年前の行動が今の自分の能力を決めるんだから」


:さっきまで怒ってた翼涙目

:翼だけに言ってるんじゃないだろ?

:冒険者じゃないワイの胸に刺さりまくりなんだけど


「今回落ちた3人はそこそこ頑張って来たんだと思う。冒険者としては優秀な方ではある。でもAランクにはまだ足りなかった。分かるね?」

「「はい」」


「で、ここから逆の事を言うね。今から重のようにトレーニングをすれば落ちた3人は数年後にはAランクになれるかもしれない。だって5年前、10年前の行動が今の自分の能力を決めるんだから! そして今日落ちた3人はBランク上位の力を持っている! もう少しだ!」

「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」」


:落ちた翼に説教かと思ったら励ましてる

:あれ、もしかして、Aランクになる人間って毎日トレーニングをしている重のような人間なのか?

:今までネットで叩いていた奴の方が間違っていた?


:頑張っている重やガッツが叩かれている事に違和感があったわ

:ここまで残る人間は試験の日でもトレーニングをする人間、そういう事か?

:今だけその時だけじゃなく、未来を見ろって言いたいんじゃない?


:伸さんはさらっと言うけど実は深い事を言っていたりする

:伸さんの言葉を解説する動画待ちか

:今の言葉は解像度の高い解説動画が必要だな


 凄い!

 伸さんの短い話で俺に対する批判の流れを変えた!

 今後俺のトレーニングや鉄の剣を持っている事で批判を言えばその人自身がカウンターを受けるだろう。


 これがAランク!

 

「で、明日から3日間Aランク試験はお休みだ。その間に僕達で東京ダンジョンのモンスターを減らす。Bランク以上なら参加は大歓迎だ。それともう1つ、Bランク以上の冒険者には時間を見てAランクの特別指導を設ける事になっているよ! 重、勝利、ガッツ、合格した3人も参加するかな?」


「参加する!」

「うっす!」

「参加します」


「さすがAランク候補だ! 見どころがあるよ!」


 伸さんはトレーニングを続ける俺とガッツを助ける意図で言っている!

 おじいちゃんの言った通りだ。

 俺は知らない間に守られている。

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