第34話

 帰ってあかりに貰った剣を取り出した。

 この剣は本当にお守りになっている。


 コンコンコンコンと何度も部屋がノックされる。


「俺だ! 勝利だ!」

「ガッツっす!」


 合格した2人か。


 ドアを開けると気の強そうな表情の剣奈良勝利ケンナラショウリさんが立っていた。


「声が大きいです。周りからクレームが来ますよ」

「む、言っておく。剣で負ける気はない」


 勝利さんが声のトーンを落として言った。

 その隣には拳ガッツコブシガッツさんが立っている。


「おいらも負けないっす」

「ガッツは剣を使わないだろ」

「ええ! そこで細かく突っ込んでくるんすか!? 思ったより器が小さいんすね」

「あ゛あ゛! お前も反応してんだろうが!」


「ちょっと、ここで喧嘩はやめましょう」

「とにかくだ。明日のトレーニングでも俺は負けない」

「おいらも油断せずトレーニングするっす!」


 みんなAランク冒険者の指導を受ける気満々か。

 今までおかしいと言われる事が多かった。

 でも2人を見ていると嬉しくなった。


「じゃあまた明日な」

「お、おう、それだけ言いに来たんですね」

「この中じゃ重が年下なのに重が一番落ち着いてるっす」


「いえ、びっくりしていました」

「ふ、俺のオーラに圧倒されたか」

「子供過ぎる勝利に圧倒されたんすよ。ついて来て良かったっす」


「明日の訓練でボコってやろうか?」

「試合なら臨むところっす」

「おやすみなさい」


「ノリ悪いっすね」

「少し眠いです。まだ高校生なので」

「育ち盛りか」


「トレーニングで疲れたのもあります」

「ふ、明日のトレーニングが楽しみだ。じゃあな」

「また明日っす」


 ドアを閉め、ベッドに横になり、そのまま眠りに落ちた。



 次の日、野外の訓練場に向かうと人が多い。

 Aランクの伸さん、優斗さん、涼音さんが立ったまま出迎える。


 その前には300人ほどの人が待機していた。

 昇格試験を受けなかった人も参加しているらしい。


 伸さんが手をパンと叩くとみんなが注目した。


「じゃあ好きな人の所に集まって教えてもらって。涼音がいいなら涼音の所に行っていいから」

「質問です」


 マッチョな男が手を挙げた。


「どうぞ」

「戦士でも、女王様の所に行っていいですか!?」


「いいよ~!」

「ダメに決まっているわ!」

「女王様がいいなら全員女王様の所に行っていいから、ハイ! 訓練開始!」

「ちょっと!」


 涼香さん、可愛そうに。

 面倒な人を押し付けられている。

 涼香さんの周りを取り囲むように男性陣が集まっていく。


「女王様! 握手会をお願いします!」

「しないわ!」


「氷の鞭を」

「そんなのは無い!」


「女王様の魔法をひたすら避けるやつやりましょう」

「指導をを受ける気が無いのなら帰りなさい!」


「はあ、はあ、厳しい指導をお願いします」

「来いよ! バッチ来いよ!」

「せーのと言ったら涼音様と叫ぼうぜ! せーの!」

「「涼音様あああああ!!」」


 涼音さん、大変そうだな。

 残った2人の所に行こうとすると優斗さんに握手を求める列を押しのけて勝利さんが試合を挑んでいた。

 ガッツさんも次の試合を予約している。


 伸さんを見ると女性に囲まれて握手をしている。

 これ、指導になるのか?

 いや、自分から前に出よう。

 勝利さんとガッツさんだって前に出ている。

 こんなチャンスは中々無い。


「伸さん! 指導を願いします」

「ほいほい、悪いけどAランク試験合格者を最初に見るから」


 伸さんの指導が始まった。


「魔法弾を見せて」

「はい!」


 魔法弾を作ると伸さんがじっと見た。


「ふむふむ、基礎は、教えられる事が無いねえ」

「「おおおおおおおおお!」」


 伸さんの言葉に歓声が上がった。


「重、基礎はもう良い、他に何が出来るの?」

「クイック、魔法弾の他に、魔法を噴射して緊急回避、後は魔法のコントロールと循環位です」

「クイック以外全部基礎だねえ。オーラも使えるから大魔法は向かない。何か得意な事は無い?」


「そう言えば、前にダンジョンの魔力を吸おうとして、瘴気まで吸ってしまった事があります。その時に大人になるまで使わないように言われました」


「……ドレイン系か。OK、僕の魔力を吸ってみよう」


 伸さんが手を差しだす。


「あ、あの!」


 横にいた女性が手を挙げた。


「私の魔力を吸ってください!」

「問題無いとは思うけど、最初は僕にしておこう」

「いえ! Aランクの冒険者が疲れるのは良くありません! さあ! どうぞ!」


「……分かった、それでいいよ。でも危ないと思ったらすぐに止めるからね」

「伸さん、危ないってどういう意味の」

「それ以上言ってはいけない!」


「とにかく、何かあったら僕が止めるから」

「粘膜による吸収の方が効率が」

「ハイアウト! 手を繋いで吸収、OK?」


「……分かりました。はあ、はあ、さあ、手を出して」

「伸さん」

「大丈夫、危なくなったら僕が止めるから、危ないから少しずつ吸ってみよう」


 だんだんと危ないが分からなくなって来た。


「さあ、早く手を、はあ、はあ」

「よ、よろしくお願いします」

「ふふふ、こちらこそよろしくです」


 握手をして魔力を吸収する。

 女性が俺の手を引こうとする。


「は、離れましょう!」

「お気になさらず」

「まだセーフだ」

「ふ、ふふふ、分かりました。はあ、はあ」


「伸さん」

「集中」

「は、はい」


「吸われています。もっとイッテいいですよ」

「いえ、このくらいにしておきましょう」

「大丈夫、ふふふふ、もっと遠慮なくイキましょう」


 女性が俺に抱き着くように近づいてきた。


「いえ、もう大丈夫です」

「重にこれ以上近づかない」


 俺は魔力を吸った後礼をした。


「ふふふ、美味しかったですか?」

「え? まあ、回復して良くはなりました」

「そうですか、私は美味しかったですか」

「はい、離れて。重はまだ高校生だからね」


 女性が離れて休み、優斗さんの方を見ると勝利さんとガッツさんが倒れていた。


「あれえ? 優斗、2人とも倒しちゃった?」

「思った以上に手加減が難しかった」

「これは次の試験も期待できそうだ」


 手加減が難しくなるほど2人が強かった。

 そういう意味だろう。


「重、次は僕から吸ってみよう」

「お願いします!」


 その後指導は続いたが次の指導は禁止になった。

 理由は涼音さんがいじられ過ぎた為だ。

 

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