第35話

 伸さんの指導が終わりホテルに戻るとあかりと涼音さんが並んで出てきた。


「あ」

「重、こんにちわ」

「こんにちわ」

「どうも、こんにちわ」


 涼音さんは皆に指導の途中で帰った。

 あれはからかいすぎた冒険者が悪い。


 あかりは前より時間に余裕が出来たのか表情に余裕があった。



「重君、今から他の冒険者の友達と食事に行くわ。来る?」

「他の冒険者って全員女の人ですか?」

「そう、10人全員女の人」


「い、いや、いいですいいです」

「ふふ、そう伝えておくわ。でも本当に来てもみんな嫌がらないと思うわ」

「でも、いいです」


「萌ちゃんも参加するよ?」

「え? 萌も?」


 萌は俺とは違いコミュ力が高い。 

 わざわざ田舎から東京に来ても不思議ではない。


「萌をよろしくお願いします」

「重」

「ん?」


「重も試験が終わったら東京を案内するよ?」


 萌と一緒に俺も案内する、そういう意味か。


「試験が終わったら考えよう」

「2人は本当に付き合っていないの?」

「付き合ってないよ」

「距離が近い気がするわ。私には敬語なのにあかりには普通に話すのね」


「1回パーティーを組んだ時に敬語を使わない決まりにしているので」

「私にも普通に話をしていいわよ?」

「それをやるとまた周りから罪を着せられそうで怖いです」


「また?」

「涼音が風魔法でスカートをめくられて重のせいにされた事じゃない?」

「そうです」

「今日その話はやめましょう。思い出したくないから」


 後ろに気配を感じた。

 伸さん、優斗さん、勝利さん、ガッツさんが俺達を見ている。

 勝利さんの機嫌が悪い。


「重、あかりさんと付き合っているのか?」

「いえ」

「重、次の試験はあかりさんを賭けて勝負だ!」


「勝利、やめるっすよ、みっともないっす」

「構わん! 俺がAランクになったらあかりさん、デートしてください!」

「ちょ、ちょっと、伸さん、何撮影を始めてるんですか」


「面白いと思ってね。この試験は企業案件が多い、本気のプロレスは盛り上がる」

「勝利さんがAランクになってもあかりが好きになるかは関係ないと思います」

「重、余裕だなおい! それがそうだとしても、次の試験で勝負を受けろ!」


「重君、勝利君、どっちもAランクになる可能性は考えないのか?」

「優斗、細かい事はいい。面白いじゃないか。ガッツも勝負しないのかな?」

「恥ずかしい配信に巻き込むのはやめて欲しいっす」


「ガッツ! お前も次勝負だ!」

「そこは受けてたつっす。というか、最初から重と勝利はライバルっすよ!」

「いいねいいねえ!」


「そろそろ待ち合わせに行かないと遅れるわ」

「ああ、引き留めて悪かったね、じゃ」


 あかりと涼音さんがホテルを出たので俺は何も言わずに部屋に向かおうとした。


「重、待て!」

「げえ!」


:さりげなく去ろうとして失敗してて草

:勝利は気配を察知するからなあ

:勝利じゃなきゃ、今のは見逃してたね


「勝ったらどうするかは一切決まっていないけど、勝負は面白い」

「絶対に負けない!」

「受けて立つっす」

「Aランクは、普通に目指しているんで、最初から落ちる気持では挑みません」


「次の試験が楽しみだ!」

「伸、良いのか? 嫉妬で炎上するだろう」

「いいって。どうせ目立てば何をやっても荒れる」


「所で午後もトレーニングをする? しない?」

「するに決まっている!」

「するっす」

「します」


「やっぱりここまで勝ち抜く人間はトレーニングをかかさない。見どころがある。そんなわけで、次の試験も楽しみにしててね、配信終了」


 その日のトレーニングが終わり食事を終えてシャワーを済ますと部屋の扉がノックされた。

 また勝利さんか?

 でもノックが丁寧だ。


 扉を開けるとあかりが立っている。

 あかりは左右を見渡した後俺に抱き着くように急いで部屋に入り扉を閉めた。

 あかりの両手が俺の胸に触れて今にも抱き着く寸前の体勢であかりが離れた。


「ごめんね、見つかると炎上しそうで」

「う、うん」


 部屋にあかりと2人きり。

 今の状況で心臓の鼓動が激しくなり体が揺れているような気がした。


「あのね、連絡先の交換、いいかな?」

「う、うん」


 あかりと連絡先を交換する。

 あかりが背を向けて部屋を出ようとして部屋の外を確認してから部屋を出ていく。


 そして扉を閉める直前に俺に笑顔を向けて言った。


「重、お休み」

「お休み、なさい」


 扉が閉まるとベッドに座り、ベッドに横になった。


 あかりが抱き着くように部屋に入った時、エロい事を想像してしまった。


 ただ、連絡先を交換しただけ……


 いや、わざわざ連絡先を交換するために部屋まで来てくれた。


 スマホの連絡先を見つめる。


『朝光あかり』


 よかった。

 連絡先を交換する事になるとは思ってもいなかった。


 でも、その前に試験を精一杯やりきろう!

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