第26話

『予備試験(追試)を開催します!』


 昨日と同じ場所に200人近くの選手が集まっている。

 でも数が多い為か場外のラインは広くなっていた。


『今回はゲストを紹介します。もう一人の女性Aランク冒険者! 火槍カノンさんです! カノンさん、自己紹介をお願いします』


 カノンさんが涼音さんの隣に立っていた。

 背が小さく少し童顔だ。

 作業用の厚いエプロンを身に着けている。


「どうも、人間国宝のカノンです。と言ってもただ武具を国に治めているだけなんだけどね。こう見えて25才、日本にいるAランクの中では僕が一番年上だよ」


『ありがとうございます。今回の試験は涼音ちゃんのアイスブリザードラッシュ、と思わせてカノンさんの攻撃もプラスされます。ルールは前回と同じです。涼音ちゃんとカノンさんの攻撃が止むまで気絶する事無く指定のラインを出ずにいればクリアです。涼音ちゃんの攻撃と同時に予備試験(追試)のスタートです!』


「うおおおおおおおおおおお! 女王様あああ!」

「氷の鞭を昨日よりもっとおおおおお!」

「涼音様、もっとゴミを見るような目で僕を見てください!」


「黙りなさい! アイスブリザード!」


 空から氷のつぶてが降り注ぐ。

 だが、みんなアイスブリザードに慣れている。

 いや、みんなクリアした人達だ。


 レベルが高いぞ!

 思ったよりも多くの人が攻撃を避けている!

 これは、脱落者が少なくなりそうだ!


 一部の、いや、昨日のメンバーが余裕で煽っている。


「もっと情け容赦ない攻撃を下さあああい!」

「女王様! 熱そうだね。風魔法で涼しくしてあげようか?」

「氷の女王様、疲れたら私が椅子になりますので何なりと言ってください!」


 喧嘩を売っている。


「ふ、ふふふ、これ以上私が手加減をすると思わない事ね。アイスブリザード!」


 1つ目のアイスブリザードが止まない内に次のアイスブリザードが発生した。

 氷のつぶてが大量に降り注いで脱落者が発生する。

 だがまだ余裕だ。


「次は僕の番だね」


 カノンさんが両手の指に8本のポーションを挟んで構えた。


「バカな! 回復ポーションだと! 俺達に飴はいらないんだ!」

「今必要なのは飴じゃない、鞭だ! キリ!」

「もっと激しい攻撃をしてくるがいい!」


「遠慮なくいかせてもらうねえ♪」


 カノンさんが8本のポーションを投げた。

 地面に落ちたポーションが発火して燃え広がる。


「あじ! あっちいいいいいいいいいい!」

「ぎゃああああああああああああああ!」

「燃えるううううう!」


「さあさあ、空からは氷、地面からは燃え広がる炎だよ♪」


「あ、あいつ怖いな」

「あの氷の女王ですら死者が出ないように氷のつぶてを小さくして手加減してるのに!」

「私ですらってどういう意味よ!」


「次の8本も行くよ」


 カノンさんがポーションを投げようとした。

 だが1人の男が前に出た。


「お前は、風の助平!」


 助平が前に出るとポーズを決めた。



「ここは俺の風魔法に任せときな! 俺の風魔法にかかればポーションを風の力ではじき返す事が出来る! あのポーションもここに落ちてこなきゃ効果は発揮しない!」


「さ、流石助平だ」

「助平、頼りにしてるぜ!」

「助平、あんたが頼りだ」


「ふうん、いいよ。えい♪」

「今からポーションをはじき返す、そして昨日のように涼音氏のスカートを舞い上げて隠されたパンツの色をまた露わにしてやる」


 投げられた8本のポーションに風魔法がヒットした。

 その瞬間、助平さんが感電した。


「ぎゃああああああああああああああああああ!」

 

 そして周りにいる人にも感電する。


「ざあんねえん! こんな事もあろうかと魔力に触れると発動するようにしてあるよ。しかも同じ炎じゃ面白くないから雷撃に変えたよ。もっと言うとこの雷撃は魔力を伝う特性を持たせてあるから魔法を使った助平君に電撃が流れ込んだよ」


 1つのポーションにどれだけの追加効果も持たせてるんだ!?

 流石Aランクの錬金術師!


「ふ、ふふふ、そう、昨日私のスカートをめくったのはあなたね!?」

「ちょっとちょっと~、3回目のアイスブリザードをする作戦、忘れてない?」

「アイスショット!」


「ぎゃああああああああああ!」

「「助平いいいいいいいいいいい!」」


「助平選手失格だね♪ でも、まだまだ数が多いね。100人以下にはするように言われているんだ。しょうがない、えい、炎、そして雷撃」


 周囲が炎に包まれ、そしてその間に雷撃のポーションが放たれた。

 俺は隙間を縫うように躱した。


「次はこれ!」


 地面に落ちたポーションの液体が膨らんでスライムを形成した。


「スライムは一定時間で効果が消えちゃうからそれまで頑張ってね」


 スライムのタックルで冒険者が炎の中に突き飛ばされた。


「ぐあああああああああ!」

「皆まだまだ余裕だね、次は、えい♪」


 地面に落ちたポーションが土を吸い寄せてゴーレムになった。


「これも一定時間で効果が消えちゃうよ。Aランクになるならこのくらいは耐えないとね。あ、倒してもいいよ」


 ゴーレムが冒険者を殴る。

 炎と雷撃、そしてスライムとアイスショットにより悲鳴の声が増していく。

 そこから更に脅威が増えた事で死角を狙われる冒険者が増えていく。

 冒険者が殴られて雷撃の中に吹き飛んだ。


「「ぎゃああああああああ」」


 俺は攻撃をかわし続けた。

 周りにいた冒険者がどんどんギブアップしていく。

 今日の涼音さんはお俺をそこまで狙わなかった為昨日より難しい試験ではなかった。



「ポーションを使い切っちゃった。あれ作るの高いんだよねえ♪」

「私も、魔力切れよ」

「みんな! 縦に10人ずつ並んで! 10人並んだらこっちに10人ずつ並んでいって! ……118人、う~ん、僕としては強めに攻撃して生き残ったみんなだから、今年は皆合格でいいと思う。でも、決めるのは運営委員会だからなあ」


「私も言っておくわ。ここに残ったみんなは優秀よ」


『はいはーい! 運営委員会の決定を読み上げますね。118人を本試験に進ませてしまえば予算が不足する為全員の合格は受け入れられません。よって、今現場に向かっているAランク冒険者、風切伸に試験官の役目を引き継いでもらう事に決定しました』


 遠くから風の音がした。

 そしてその風がこっちに迫って来る。

 伸さんがジャンプして風に乗って舞い上がった。

 そしてつむじ風を発生させながら2人が乗っている岩の上に着地した。

 突風が弾けて舞う。


「さあ、試験を再開しようか」





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