第27話

 伸さんが来た事でモニター越しに歓声が聞こえた。


「風を巻き上げないで!」


 涼音さんがスカートを押さえた。


「ん? 悪い悪い、試験を再開する前に言っておくよ。僕は涼音やカノンのように優しくない」


 選手たちが喚いた。


「はあ、あのカノンより優しくないってなんだよ!」

「あれ以上の攻撃が来るのか! もう、余裕はないぞ」

「くそお、息が切れてやがる」

「私も、結構きつい」


「はいはい、余裕がないなら今すぐギブアップだ。ここで余裕が無くなるようなら本試験は無理だから、ほら、ギブアップする人は手を挙げて!」


 8人が手を挙げてギブアップした。


「これで110人か。他にいない?」


 選手が小さな声で話をする。

 だが会話が全部聞こえている。


「お、おい、後10人ギブアップすれば100人になるんじゃないか?」

「100人になれば合格だ!」

「静かに、言うなって」

「あと少しで100人か、まだ希望はある」


「会場のみんな、元気にしてる?」

『『わああああああああああああ!』』


「相談があるんだけど、今日100人じゃなくて50人を切るまで選手を絞ってもいいかな?」

『少しだけお待ちください……運営委員会から50人以下に絞っても問題無いそうです』


「そか、ありがとう。だってさ。所で知ってる? 僕、風爆の伸って呼ばれてて、日本の中では雑魚を殲滅する能力が最も高いって言われてるんだよねえ」


「し、知っている! 冒険者なら誰だって知っている!」

「それと今の試験と何の関係があるんだ?」


「うん、そっかそっか、今から試験の内容を説明しておきたくてね。今から僕が使うのはその風爆だ。空気を圧縮した魔法を中心地点に撃って周囲をドカーン、それを今から使う」

「ば、ばかな! あれは人に使っていい魔法じゃない!」

「一瞬でモンスターの軍勢を殲滅するあの風爆を使うのか! 普通じゃない」

「大丈夫大丈夫、Aランクなら死なないから」


「お、俺達はBランクだ」

「でもAランクになる試験を受けに来たんだよね? 何のためにここに来たの?」


「つ、使うわけがない!」

「そうだ、はったりだ!」

「使うよ、ここで宣言する。今から行う試験は風爆に耐える事だ。なーに、怖がることは無いよ。だってこの魔法はただの雑魚殺しなんだから。あ、言っておくけど100人以下になっても試験は続くよ」


 女性冒険者が手を挙げた。


「質問いいですか?」

「いいよ」

「風爆で吹き飛んでラインを出ていても大丈夫ですか?」


「ダメだね。ルールは変わらない。風爆を中心に放つ、で風爆を受けた後にラインを出ていれば失格だ」

「そ、そんな! みんな吹き飛ばされてしまいます!」

「大丈夫、風爆の発動直前に風爆に飛び込めばラインは出ない。でも、避けようとすれば無理かもね」


「う、うそ、直撃を受けに行かないと試験に落ちちゃうの!」

「そう! どんな方法でもいい、器用さ、頑強さ、バリア、魔法攻撃、どんな手を使ってでも風爆に吹き飛ばされず、ラインを越えず立ったままでいよう。あれえ? 怖い? 皆怖い?」


「う~ん、そうだなあ。もう一回ギブアップの人は手を挙げて。……はい、残り98人になりました。100人以下おめでとう。さて、ここからが本番だ。配置について……8人だけ中心に寄ったね飛び込まなくても最初から中心部にいるのも悪くない」


 伸さんが中央に向かって歩く俺を見ながら言った。



「あれえ、8人以外みんな端に寄っちゃう? ライン際に寄ったみんな、怖がってない? 端に寄るなら発動の瞬間に風爆に飛び込まないとラインの外に吹き飛ばされるけど大丈夫?」


「あんなの、直撃していい技じゃねえ!」

「狂ってるわ!」

「直撃して立っていられなきゃ失格なんだ! ダメージを押さえてここで踏ん張る!」

「ふ~ん、難しいと思うけど、そこは個々の判断だ」


 俺は中心部の少しだけ横に立った。

 イキリヤさんが俺を見て笑った。


「見直したぞ、重」

「あー確か、イキリヤさん。疲れてません?」

「そんな事は無い」


「気のせいか」

「気のせいだ。だがここからが本番だ。俺の漆黒がすべてをかき消す」

「イキリヤさん、血が出てません?」


「これは返り血だ」

「そうですか」


「重、イキリヤ、余裕だねえ。強めに行っとく?」

「ハイ! 死人が出ない程度に強めにどうぞ!」


 俺の言葉で冒険者が叫んだ。


「お前! バカ! そこは優しくお願いしますだろ!」

「ちょっとお! もお!」

「ああ、使う前に言っとくけど、ここで文句を言ってるそこの2人、見込みがないよ、この程度に耐えられないなら本試験は無理だから。来年に出直したら?」


「受ける!」

「受けるわ!」

「じゃ、行くね」


 ニコニコした伸さんの顔が真顔に変わる。

 その瞬間に選手の顔が強張るのが分かった。


「風爆」


 超圧縮された空気が試験会場の中心に放たれた。

 俺はその瞬間にジャンプして風爆の上に飛んだ。


 そして風爆の発動と共に空気が弾けた。

 俺はオーラと魔力で体を守りつつ上に打ち上がった。


「重、黒ひげ危機一髪だね~」




 空に舞い上がると地面を眺めた。

 多くの人がラインの外に押し出されている。


 地面に落下していき轟音と共に着地した。

 この場に残って立っていたのは前に出た8人だけだった。


「イキリヤさん、大丈夫ですか?」

「漆黒の騎士たるこの俺がここで屈するとでも?」

「ええ、きつそうに見えたので」

「ふ、面白い冗談だ」


「運営委員会、合格者8人になったけど大丈夫? 敗者復活戦する?」

『……問題ありません! 合格者は8名です! 明日からAランク昇格試験、その本試験が行われます!』

『『わあああああああああああああああ!』』


 伸さんは皆を脅していたけど手加減をして風爆を使っていた。

 多くの人が気付かずにライン際で構えていし、伸さんは風爆に向かって飛び込めと言っていたのにライン際にいた人は誰も動けなかったようだ。


 怖いのは分かるんだけど、伸さんが人を殺すわけがない。

 勇気を持って前に出るべきだった。

 それに、この威力に耐えられないならAランクは無理だろう。

 

 


 この日、日本で行われたAランクの予備試験は、歴史上最も少ない合格人数となった。

 そして歴代で最も難易度の高い予備試験となった。

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