第20話

【伸視点】


「ミッション終了、優斗、休憩にして飯に行こうか」


 そう言いながら配信のドローンを切った。

 優斗は僕の言葉を察して配信を終わらせる。


「配信を終わらせます」


 2人で人込みをかき分けて村に数少ない食堂に入り向かい合って席に座る。


「注文いいかな?」

「どうぞ」


「カツカレー・オムライス・ハンバーグ定食、日替わりAセット・日替わりBセット、飲物は全部ホットコーヒーで」

「伸と同じメニューでお願いします!」


 優斗は店員の苦労を考えて僕と同じメニューを注文する。


「かしこまりました。コーヒーを3杯食前に、残りの2杯を食後でいいですか?」

「うん、毎回ワンパターンでお願い」

「同じでお願いします」

「はい」


 コーヒーが6杯分運ばれると僕は1杯をブラックで飲み干した。


「うん、苦い」

「で、話があるんだろ?」

「大したことじゃないよ」

「重君とダンジョンの事か」


「そうだね、まずはダンジョンの話からしよう」

「ダンジョンか、稲田ダンジョンの難易度は低い、だが過疎の影響でモンスターが多い、これが世間の認識にはなっている」


「そ、でも潜ってみて違った。実際はダンジョンが小さい分モンスターの出現頻度が高い、そう確信した」

「圧縮型ダンジョンか」


 圧縮型ダンジョン。

 ダンジョンのサイズが小さくなればなるほどモンスターの出現頻度は増加する。

 そういう仮説だ。

 こん仮説は別の仮説である『各ダンジョンが生み出せるモンスターの総量はダンジョンの大きさに関わらず一定である』をベースに提唱された考え方だ。



「そそ、政府は圧縮型ダンジョンの存在を知った上で隠している、そう考えている」

「俺も同じ考えだ、圧縮型ダンジョンを世間に広めてしまえば過疎ダンジョンがますます過疎に陥る。そして東京ダンジョンから稲田ダンジョンに人を多く派遣すれば民意に潰される可能性がある」


「東京の溢れ出しリスクを放置するのか! ってなるよね? 民意は激おこだ。今回のように溢れ出しが起きてからじゃないとAランクの2人も派遣できなかっただろうね」

「政府は民意を無視できない。民意の質が民主主義の質を左右する。そして口やかましい今の世論を考えれば余計な情報は出さない方が日本の安全を守れる、そう考えるだろう」


「で、ここから重の話になる」


 僕は2杯目のコーヒーにクリープと砂糖を入れてかき混ぜた。

 白と黒が混ざり合うその様子が人の心のように見えた。


「知ってる? 重の稼ぎを村は公表していない」

「普通は冒険者の魔石納品数を公表する。隠しているのか」


「だね、法律だと村の場合行政リスクが増すから発表はしなくていい事になってはいる。でも今の時代パソコンに打ち込んだデータを出力するくらい大した手間じゃない。でもしていない。調べてみた感じ、政府からこの村に圧力がかかっているね」


「まさか、そう言えば重をAランクに推薦した時に結果が出るまでずいぶん時間がかかった。そういう事か!」

「察しがいいね、そう、政府は重をAランクにしたくない。目立たずただのBランクでいて欲しいんだ。重はこの稲田ダンジョンの守護者のような存在だ。その存在がAランクになって目立たれると政府はまずいわけ。だって稲田ダンジョンの危険がバレるから」


「重君は目立ちすぎた。だが政府は昇格試験を受けさせるしかない状況に追い込まれたか」

「重はあかりでバズった後、多少の手伝いはあったにせよ呪いと鉄の剣状態でゴブリンキング軍団を殲滅した。あれ、Aランク相当の危険度があるからね。皆がその配信を見てしまっている。あそこまで目立たれると政府もお手上げだ、隠蔽しきれない」


「優斗、重がいつからダンジョンに入っていたか知ってる?」

「いや」

「いつくらいからだと思う?」


「普通に考えて高校生、15才からか?」

「みんなそう思うよね~」

「外れか、答えを言ってくれ」

「答えは小学生の頃かららしいよ」


「バカな!」

「時の賢者について行ってたらしい。最初は時の賢者が圧縮型ダンジョンのモンスターを倒していた。おじいちゃんだったからSランクでもとやかく言われない。いいポジションで政府にとっても都合が良かった。でその後時の賢者が弱るとそれを補うように重が溢れ出しを押さえていた。子供の頃からずっとだ」


「し、信じられん、だが、事実なんだろうな」

「冒険者は15才から、そういう文化はあるけど冒険者の資格は最低限の実力さえあれば子供でも取れる。重が子供、いや、小学生の頃、村のみんなは村長からこう言われていたらしい。子供がダンジョンに入っている事がバレれば重君が被害を受けるってね」


「でもまあ、ここまでは噂をかき集めただけの話で僕の推理に過ぎない。僕が確信を持ったのはさっきの村長の行動だ」

「意味が分からない」


「村長は時の賢者の友人だった。時の賢者が弱ってから重は子供の身で1人ダンジョンに通った。政府は重が子供の頃からダンジョンに入っている事を掴んでいた。で、この村は余計な事をしないように圧力をかけられていた。村の予算を減らされたくなければ黙って重をダンジョンに行かせろ、重の成果を公表するな、とでも言われたんだろうね、実際に何を言われたかは分からないけど」


「……」

「村長としては苦しくてたまらないだろうね。親友の孫でまだ幼い重をダンジョンに行かせ続け止めない事で」

「待て待て、ダンジョンに行くにしても大人が付き添えばいい」


「子供の頃から重は大人より強かったみたいだ。重の脚が早すぎて大人がついて行けず結果ソロだ」

「そ、そうか」


「村長の話を続けるんだけど、村人を経済の面とダンジョン、2重の意味で重に負担をかけ続けている。溢れ出しの時、村長は村人を守る為に前に出る重を止めなかった。その時村長は避難せずに広場に残った。もし重が死んだら最初に自分を殺しに来いと言っていたらしい。その後退院すると重を出迎えた。そして今日、息を切らしながら走って見送りに来た。普通に考えたら過剰な行動だ。でも村長の心に負い目があるのなら自然な行動に見える」


「伸の話を聞いていると、想像が多く含まれているんだろうが真実に聞こえる。と言うか今までの違和感が吹き飛んだ」

「で、僕が言いたいのはそこじゃない」


「んん? もう充分だと思う。何かあるか?」

「答えは言ったけどね」

「もう一回言ってくれ」


「政府はAランクになろうとする重に、不利な試験を挑ませるだろうね」

「……あり得るな。露骨な邪魔はしないだろうが、目立たない部分で地味に足を引っ張るだろう」

「僕も同じ考えだ。と言うか、日本だけじゃない。どの国も表ではきれいごとを言って裏では腹黒くなくちゃ政府は務まらない」


「……」

「優斗、そんな顔をしなくていい、何も重の命が取られるわけじゃない。それに、今政府が考えているのは冒険者を増やす戦力の増強だ。で腹黒い事をしなくていい状態にした上での軟着陸だ」


「それは、時が来るまで重君をAランクにしたくないと言っているのと同じだ。これでは推薦した意味がない」

「……そうとも言える。現状把握が遅れ過ぎたね~。僕だっていい気はしないさ。でも」


「なんだ?」

「受からないって決めつけるのは違う」

「その通りだ、重君は俺と伸の予想を超えて斜め上を行く」

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