第19話

「ははははははははは!」


 伸さんが優斗さんの指を差して爆笑する。

 伸さんがダンジョンから出てくるとすぐに優斗さんの配信を巻き戻して状況を確認したのだが、途中から笑い始め今に至る。


「優斗く~ん、駄目だよ、高校生をカツアゲしちゃ~。ぷふ!」

「悪かった。怖がらせるつもりは無かった。だが流石に笑いすぎだ」

「分かってない。これで重の緊張をほぐす、ぷくくくく」

「言うなら笑わずに最後まで言ってくれ!」


 俺もつられて笑い出した。


:流石風爆の伸です。相手の笑いを誘い緊張をほぐす見事なお手並みに感服しました

:メッチャいじられてるやん

:こういうのもいいよね、2人の仲がいいのが伝わって来る

:優斗は大人だ。このくらいでは怒らない


「はあ、面白かった。さて、重、重君といったほうがいい?」

「いえ、重で大丈夫です」

「OK、重も最低限の礼儀さえ守ればため口でいいから、で、本題だ。Aランクへの昇格試験を受けてくれ。推薦人は僕と優斗の2人だ」


 推薦が無くてもBランクなら昇格試験を受ける事も出来る。

 だが推薦を受ける事で予備試験を免除できる。


「どうだろ? Aランクになりたい? なりたくない?」

「なりたいですけど、学校を休む必要がありますよね?」


「手続きはこっちでするから重は何もしなくていい。試験は一ヶ月以上続くこともある。受ける?」

「受け、ます」

「OK、決まりね」


 伸さんがスマホを取り出した。


「もしもし、うん、見てた? あい、手続きよろしく~」


 Aランク冒険者は無料のサポーターが付く。

 ざっくり言うとホテルのコンシェルジュのようなものだ。


「え? あかり? 電話に出ない? 分かった。重に聞いておく」


 伸さんがスマホを切りながら言った。


「重、Bランクのあかりってウツは治ってる?」

「多分、大分、良くなったと思います」

「Aランク昇格試験の回復人員が足りない。一緒に来れる?」

「……妹に聞いてもらいます」


「なに? 連絡先を知らないの?」

「はい」


「毎日のように治療して貰ってるんだよね?」

「はい」


「付き合ってないの?」

「はい」


「付き合っちゃえばいいのに」

「伸、重君はまだ高校生だ。そういう絡み方はするな」

「Z世代は難しいね」


:2人もZ世代だろ

:てか、萌ちゃんの話を聞いて分かったんだけど重が実家を出たのは闇が深い

:絶対おじいちゃんが亡くなったからだよな?


:最初は重がおじいちゃんと何度も言って痛々しいと思ってたけど今はホラーを感じる

:だよな、走って街の高校まで通えるのに1人暮らしって闇が深いわ

:元々好きだったイチゴジャムパンを食べられなくなったのもおじいちゃんだよな

:検証動画を見ておじいちゃんを思いだすから食べられなくなった結論の所で鳥肌が立ったわ


:呪いが腹や胸に進行するまで毎日ダンジョンに行っていたのも闇が深さだ

:最初はあかりと重が付き合っているかどうかの検証が流行ったけど今は重の闇が話題に上がってるよね

:今回の昇格試験で何かが分かるかもな

:重は案外自分の事は話さないから、周りの情報が頼りだ


「萌に、妹に連絡しますね」

「よろしく~」

「もしもし、萌」


『お兄ちゃん、途中から見てたよ』

「そっか」

『あかりさんがAランク昇格試験の回復サポートに参加できるかを知りたいんだよね?』


「かなり見てるじゃないか。うん、聞いて」

『参加するって』

 

 あかりのウツは治っているだろう。

 でも心配になって聞きかけた。


「あかりさんの、いや、ありがとう」


 聞きかけてやめた。


「伸さん、他に聞きたい事はありますか?」

「無いよ、サポートに感謝するって言っといて」

「伸さんがあかりさんに参加に感謝するって伝えて欲しいって」


『うん、あかりさんも見てるよ』

「そっか。どうもな」


『お兄ちゃん、危ないと思ったら、逃げてね』

「ただの試験で無茶はしないって」

『みんなそう思ってないよ』

「……分かった。気をつけよう」


 通話を切ってダンジョンの入り口を見つめた。

 結界の魔法が強く輝いている。

 伸さんと優斗さんがたくさんのモンスターを狩ってくれたことが分かる。

 

 ダンジョンの結界はモンスターが少なくなればなるほど強固になるのだ。


:妹ちゃんが何を言っているか何となく分かる

:ゴブリンキングでも、ダンジョンでも無茶をしまくっている

:家族から見たら心配だよな


 伸さんがスマホを取り出した。


「もしもし、今からタクシーを呼んで、そうそう、すぐに連れて行くから。僕? Aランクの2人はもう少しここでモンスターを狩る、必要以上に狩っておくように言われてるからね。そそ、事実じゃなくて安心の為に」


 俺のスマホが震えた。

 萌からか。


『今から一緒にお兄ちゃんの所に向かうね』


 あかりが来るのか。

 あれ?

 おかしい。 

 周りを見ると村人が集まって来た。

 村長が車から降りて走って来る。


「そ、村長!? 年なのに無理しないで!」

「はあ、はあ、見送りに、時成の孫を、はあ、はあ、見送りに、来たかったんじゃ、はあ、はあ」


 村人が100人以上集まって来た。

 そして俺に応援の言葉を贈る。


「重君、応援してるからね」

「配信を毎日見ている! 頑張れよ!」

「重、お前なら受かる! 自信を持って挑んでくれ!」


 村長が俺の手を握った。


「重君は時成の孫じゃ。重君なら出来る」


 みんなが拍手を送る。

 あかりと萌が来ると同時にタクシーが来た。


「みんな察しがいいね。重、あかり、ハイ乗って」


 伸さんが俺とあかりをタクシーに乗せる。


「ハイ最寄りの新幹線まで発進!」


:伸の行動が早すぎる

:冒険者はこんな人が多い印象、特に高ランクはそうだ

:てか、2人一緒のタクシーに乗るんだな。また叩かれないか?

:叩かれるのは伸だろ? 叩かれても気にしないんだろうけど


:お、おい、今調べて分かったぜ。最寄りの新幹線まで順調に走って1時間半も同じタクシーの中で同じ時を過ごすんだ

:なん、だとおおお!

:あかりと重が付き合ってしまうんじゃないか!


:お似合いだと思う

:お似合いとか言うな、〇ね!

:お前ら嫉妬民が気持ち悪い


:やめろ、喧嘩が始まるから

:お前の方が気持ち悪いわ! そういう事を言う方が人としてどうかと思う

:気持ち悪いとか人に言ったらダメだろ! お前の民度が終わってるんだよ

:始まってしまったか、不毛な戦いが




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