第18話

 俺は学校に通い、そして毎日街から稲田村の実家に通い毎日治療を受けた。

 その間もダンジョンに入る事は出来なかったが毎日基礎訓練を続ける。

 自分の両手を見ると呪いのまだらが薄くなり消えかけていた。

 溢れ出しが起きてから一ヶ月が経つ。


 もう少しでダンジョンに入れる。

 学校が終わり訓練を終えて実家に向かって走るとあかりさんの笑い声が聞こえた。


「ただいま」


 和室に入るとあかりさんが酔っ払い出来上がっていた。

 萌を抱きかかえて頭を撫でている。


「萌ちゃん、可愛いねえ」

「お兄ちゃんが来たよ」


 萌は飽きていたようでターゲットを俺に移す。

「重、お帰り」


 あかりが左手で床をポンポンと叩いた。

 父さんと母さんが俺とあかりを見るが何も言わない。

 俺は躊躇するがあかりの隣に座った。

 その瞬間に萌があかりからすっと離れた。


「誰がやったか分かんないけど酒を飲ませるのは辞めた方が良い」

「重、それでも男か?」

「あれ、父さんも酔ってる?」


「良いじゃない、でも子供は卒業してからにしてね」

「か、母さんまで酔ってる! そういう話じゃないから」

「重、お話しないの?」

「話を、しよう」


 無防備なあかりにドキドキする。

 あかりが上目遣いで俺を見た。

 そして俺の右手に左手を重ねて恋人繋ぎをした。

 俺の心臓がバクバクと跳ねる。


 あかりは人懐っこい所がある。

 最近では村人と完全になじんだ。

 そう、ただ距離が近い、それだけだ。

 あかりが俺の手を放した。


 あ、危なかった。

 かなりドキドキした。

 あかりの腕が俺の腰に回る。


「酔いすぎじゃない?」

「そうかも」


「でも」

「でも?」

「元気になった?」

「うん、元気だよ」


 あかりが俺に寄りかかって来た。

 今日の明かりは積極的だ。


「すー! すー! すー! すー!」

「ね、た?」


 あかりはすやすやと眠りベッドまで運んでそのまま帰った。

 そして4日後、病院で診察を受ける。

 中年のお医者さんの前に座った。


「完治おめでとう」

「ありがとうございます!」


「でもねえ、あんなに酷い呪いを診察したのは君が初めてだ。あの呪いの深度は普通じゃない。無理はしないように」

「はい! では失礼します」

「無理はしないように!」


 俺は病院を出て走って稲田村ダンジョンに向かった。

 稲田村ダンジョン前にたどり着くと大きな男が立っていた。

 よく見ると背中には大きな大剣を背負っている。


 Aランク冒険者にして1対1なら日本最強と言われている大剣の優斗だ。

 配信もしているように見える。

 俺は軽く会釈をして目を逸らし、ダンジョンに入ろうとするが呼び止められた。


「岩田重君だな?」

「はい、大剣の優斗、さん、ですよね?」

「そうだ、始めは挨拶からだな。こんにちわ」

「こんにちわ」


 嫌な予感がした。

 頭をフル回転させる。

 呼び止められるパターンは、今まで良い事がなかった。

 学校では課題の提出がまだだったり、役場では魔石の納品についての指摘を受けた。


 人はいい時は当たり前、悪い時だけ指摘をしてくるものだ。

 俺は高度な思考により答えを導き出す。

 関わらない様にしよう。

 クルシュタと反転した。

 そしてダンジョンの中に歩を進める。


「では~」

「話をしよう」

「……」


 俺は聞こえないふりをしてダンジョンに向かって歩いた。


「待ってくれ」

「……」


 俺は猫のように後ろの襟を掴まれた。


「カツアゲじゃない! 悪い事はしない!」

「その、何でしょう。うん、僕の足が地面から浮いています。普通の人間なら首がを絞められて気絶します」

「……すまない」


 優斗さんの手が離れた。


:優斗は重よりもさらにでかいからな、急に話しかけられたら怖いだろ

:不覚にも笑ってしまった

:そりゃ逃げるって

:声もでかいんだよな

:優斗が信頼されていない事を察して伸に連絡しはじめた



「ああ、すぐにだ。入り口に戻って欲しい。交渉を変わって欲しい。おほん。重君、今からAランクへの昇格試験についての話をしたい」

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