第17話

 車の中で話し合いをしてあかりは俺の部屋を使う事になった。

 おじいちゃんの部屋も開いていた。

 でもおいいちゃんの部屋よりも俺の部屋を使って欲しかった。


 家に車が止まるとあかりと一緒に俺の部屋に向かった。

 萌も付いてくる。


「何をしまえばいい? 邪魔なものはどんどんしまうから」

「このままでいいよ」

「そっか」


「食事が出来たわよ!」


 家族みんなで久しぶりにテーブルを囲む。

 俺の隣にあかりが座って食事を食べる。

 父さんが俺を見た。


「重、あかりさんがやって行けるか気になるか?」

「うん」

「それなら安心できるまで見ていればいい」


 父さんが笑った。


「ここはお前の家だ」

「……うん」


 食事が終わるとあかりがパン屋の販売を始めた。


「いらっしゃいませ」


 あかりはさっそくパン屋の店員をしていた。

 すぐに仕事を覚えて並ぶお客さんにパンを売っていく。

 接客がうまい。

 

 萌と同じコミュ力を感じた。

 そして近所のおばあちゃんと世間話までしていた。


「年を取ると関節が痛くててねえ」

「おばあちゃん、ちょっと待っててね」


 あかりが萌に接客を任せて奥に引っ込んだと思えば杖を持って来た。

 そしておばあちゃんに回復魔法をかける。

 おばあちゃんの体が輝くとおばあちゃんが肩を回した。


「ああ、体が楽になった。ありがとう、ほんとありがとねえ」


 おばあちゃんが1万円札を取り出す。


「大丈夫」

「いいから貰って」


 回復魔法を使える人間はレアだ。

 普通こんな田舎で治療をするヒーラーは中々いない。

 例え回復魔法を覚えても都会に行く。

 

 都会の方がお客さんが多くて客単価も高くなる。


 明日から村人が1万円札を握り締めて列が出来るだろうな。

 でも、あかりは都会よりもここは合っている気がした。

 俺は立ちあがった。


「萌、あかり、そろそろ帰る」

「あ、待って」


 あかりが俺の前に立った。

 そして俺の呪いを癒す。


「よし、また来てね」

「うん、ありがとう」


 実家のパン屋を出ようとすると父さんが大きな声で言った。


「重、また帰って来い!」

「うん」


 しばらくダンジョンには入れない。

 いつも走っている村を歩きたい気分になった。

 そして人があまり使っていない経営が赤字の電車に乗る事にした。


 切符を買って1時間に1回しか来ない電車を30分待った。

 ふと、スマホを開く。

 あかりのチャンネルを開くと配信が行われていた。


 あかりの隣に萌が立って今の状況を説明する。

 萌を見て分かった。

 また、宣伝をする気だ!


 おじいちゃんが死んでしばらくしてから俺が1人暮らしを始めた事、イチゴジャムのパンを食べなくなった事、そしてあかりが療養の為に田舎で落ち着く事を絡めて説明した。


 俺の実家にあかりが住む事になりコメントが荒れるかもしれない。

 心配したが思ったよりは荒れていない。

 それどころか。


:あかりちゃん、ゆっくり休んでほしい

:都会よりこういう所の方が療養にはいいかもね

:ゆっくり休んで


 思ったより好意的な意見が多いようだ。


『次は畑を見に行きます』


 萌とあかりが畑に行くと3匹の犬が寄って来た。


『この犬は近所で放し飼いにしています。とても頭がいいんですよ。お手、お手、お手』


 3匹の犬が横に並んでお手をする。

 あかりもお手をするとしっかりとお手をした。


:この風景と動物、ジブリ感が凄い

:ワイも思った

:のどかな田舎いいなあ


 萌がいったん店に帰るとパンの耳を持って戻って来た。


『ほら、おたべ』


 犬がパンの耳を食べながら尻尾を振った。


:犬いいな

:アニマルテラピーかあ

:田舎のパン屋に行こうかな

:パン屋に行って犬にパンを上げたい


 袋を持ったおばちゃんが笑顔で近づいてきた。


『あ、おばさん』

『萌ちゃん、魚を持って来たから。皆で食べて』


 3人が談笑をしておばちゃんが帰っていく。


:犬が魚を狙っとる

:海で取れたばっかなんだろうな

:ここに住んだら絶対健康になるわ


 犬が魚の入った袋を見つめる。


『ダメだよ、冷蔵庫に入れてから、待て』


 犬が止まるがその目は魚の入った袋を見つめていた。

 萌が家に戻り皿に魚を入れて戻って来た。

 犬の前に魚を置いて「よし!」と言うと犬が皿を囲んで魚を食べる。


 そしてぱにゃから出たおばあちゃんとまた話を始める。


:なんだろう、畑を見せるはずが犬が来て魚を食べてる

:いい意味で昭和だよな

:そう言えば農作業の様子を一切見ていない


『萌~! お母さん今忙しいから焼いた魚をおじいちゃんの所に持って行って!』

『うん!』


 萌とあかりが袋を受け取って歩くと犬もついてきた。

 古い民家のインターホンを押して数分待つとおじいちゃんが出てきた。


『萌ちゃん、こんばんわ。隣にいるのは?』

『あかりさんだよ。しばらく家に住むんだ。おじいちゃん、これ、お母さんから』

『魚とパン、いい匂いだ。萌ちゃん、ニワトリの卵があったら持って行って』

『ありがとう。貰っていくね』


 おじいちゃんがゆっくりと外に出てベンチに座ると割り箸を取り出してすぐに魚を食べる。

 そしてその横に犬が佇んだ。


:犬が賢すぎる

:物々交換の変換率高すぎだろ

:魚が調理されて卵に変わっとる


 萌がニワトリの小屋に入ると『餌が切れているので補充しますね』と言って餌を補充する。

 そして卵を5つ持って家に帰ると父さんと母さんがバーベキューの用意をしていた。


『重が帰ったが、バーベキューをしよう』

『今からバーベキューをします。配信を終わります』


 父さんは、俺に帰って来て欲しかったんだろうな。

 俺はそっとスマホをしまって電車に乗った。








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